お題もの
Twitterでアンケートをとったお題ものです。
結果は
1.涙で潤んだ貴方の瞳…1票
2.ここは天国かな…0票
3.壊して、壊れて…2票
4.燻る劣情…2票
となったのですが、なんせ初めての試みなので、どうすればいいか分からなくて、2.以外の3つを合わせちゃいました。
ちなみにキャラ設定はこんな感じです。内容にはほとんど関係ないです。
潤
女々しいと莉衣によくからかわれる。
気弱なところあり。優しい。口調も声色も優しい。
莉衣
普段は少し強気な態度だけど、なにかあるとすぐ弱気になる。
ちょっと情緒不安定なところがあるけど、自分の精神状態を冷静に見ることもある。
【燻る劣情】
私はひとり、カフェに来ていた。店内には人が少なく、とても静かだ。
ミルクティーをひと口だけ飲み、カップをソーサーの上に戻す。
ぐちゃぐちゃした頭の中を整理しようと、目をゆっくり閉じる。するとふいに、最後に見たあの光景がフラッシュバックのように思い起こされた。
かと思えば、カフェの小綺麗な内装が視界に飛び込んできた。無意識に目を開けていたようだ。
あの日から一週間。その光景をふと思い出しては、どうにもやるせない気持ちになる。
思わずため息が漏れた。
どうにか気を紛らせようと本を開いても、とても読む気にはなれない。ならばと音楽を聴いていても、いつの間にか音が遠のいていて、あの日のことを思い出している。
どうしてこんなに辛いのだろう。
なぜこうも悲しいのだろう。
そうやって意味もなく心の中で問いかけ続けている。
すべては彼が悪いのだ。彼が他の女の子といちゃいちゃしてたから、こんなことになっちゃったんだ。彼は私を愛してくれていると思っていたのに。どうして他の子たちにも優しくするの?私だけを見ていてほしいのに……。
【壊して、壊れて】
……なんて、本気で思っていた。けれど、心のどこかでは分かっていたのだろう。彼は私を裏切ったりしてないし、これからもしない。そもそも彼に浮気なんてできるはずがないのだ。どうせ、女の子を突き放すことも、上手く躱すこともできずに、曖昧な笑顔で相手に合わせているだけだったのだろう。優しすぎるのだ。かく言う私は、その優しさに惹かれたのだけど。
『大ッ嫌い!』
けれど、勝手に勘違いして、喚き散らして逃げてしまった私みたいな女に、今さら彼に合わせる顔などない。
彼は優しいから、罪悪感とか感じちゃって、申し訳なさそうな顔で謝ってくるのだろう。
それとも、もういい加減、私の過剰な束縛に嫌気が差してしまったのかな。
あぁ、なんで私こんななんだろう。やっぱり私じゃダメなのかな。彼には私なんかよりも、もっとふさわしい人がいるはずだよね。でも、私には彼しかいないのに。
もう、どうすればいいの……?
【涙で潤んだ貴方の瞳】
気がつけば、私は机にうつ伏せていた。少し微睡んでいたみたいだ。枕代わりにしていた腕が痺れていて、思わず顔を顰める。
そういえば急に睡魔がやってきて、机に寄りかかったんだった。ここ最近あまり眠れていないせいで、疲れが溜まっていたんだろう。
おっと、おでこが赤くなってるかも。なんか恥ずかしいな。
前髪越しに額を押さえながら上体を起こすと、前の席に誰かが座っていた。
「おはよう、莉衣」
「えっ……潤……?」
そこにいたのは、今一番会いたくて、でも合わせる顔がなくて、どうすればいいか分からない、そんな相手だった。
「どうして……」
「通りを歩いてたら、窓から莉衣が見えたから」
そう言って、彼は微笑みを見せた。私の好きな、甘い微笑み。けれどすぐに申し訳なさそうな表情に変わった。
「……莉衣」
「な、なに?」
「ごめんね。誤解させるようなことして。あの人はただの学部の同期だよ。別に仲が良いわけでもなくて、あの人は他人との距離が近いだけなんだ。誰にでもそうなんだ。特別なにかがあるわけじゃないよ」
「……うん」
分かっていたことでも、彼の口から事実として話してくれると、ちゃんと安心できる。
「でも、僕も無神経だったよね。端から見たら、仲良さそうに見えただろうし、カップルみたいに見えたかもしれない。ほんとにごめん」
「い、いや、違うよ。悪いのは私のほうで、潤は悪くないよ」
「え?」
「私が勝手に勘違いしただけだし、それに、潤は浮気とか、そういうことしないって知ってるのに……私……」
どうしよう。泣きそうだ。謝らなきゃいけないのに、うまく話せない。私は堪えきれずに目を閉じて俯いた。私が泣いちゃダメだ。私が泣くのはズルい。
「莉衣」
そっと、テーブルの上で握り締めていた私の手を、潤の両手が優しく包み込んだ。
「信じてくれてたんだね。ありがと」
潤の声が僅かに掠れていたように聞こえて、思わず顔を上げると、その瞳が薄っすらと潤んでいた。
彼はそれを誤魔化すように、無理やり作ったような、それでいて本当に嬉しそうな笑顔を見せた。細まった目からは一筋の涙が流れ落ちた。
「あぁ、こういうところが女々しいんだな、僕は」
「うん。……でも、嬉しい。そういうまっすぐなところ、好きよ」
私がそう言うと、潤は一瞬ぽかんとした顔をしたかと思うと、彼は左手で目元を隠しながら、俯いてしまった。最近伸びてきた彼のサラサラした前髪が、その目元を覆う。よく見ると彼の肩が小さく震えている。
それにつられるように、私の視界も滲んできた。私の両手を握ったままの彼の右手を、額に当てる。
ちなみに、周りから見たら変な絵になっているかもしれない、なんてことに気づいたのは、その日の夜になってからだった。急に恥ずかしくなって、ひとり悶えたのは別のお話。
少しばかり、ふたりして静かに泣いていた。
なんだか目もとがヒリヒリする。けれど、とてもスッキリした気分だ。
ふと目が合って、お互いに小さく笑った。
「安心したらお腹すいた。なにか注文しようかな」
「……そういえばちょっと痩せた?」
「それを言うなら莉衣もね」
「……最近食欲なかったから」
「ま、そうだよね。僕もそうだった」
「ごめんね、ほんとに」
「あーえーと、終わった話なんだから、さ?」
「……そうだね」
「えっと、僕もね、君の隣にいる人が、君とお話している人が、君と笑いあっている人が、他の男じゃなくて、僕だったら良いなって思う」
「へ?」
「だからさ、そういうことだよ」
気恥ずかしそうに頬をかく彼の横顔は、なんだかとても愛おしく感じた。
あぁ、やっぱり好きだなぁ。
なんて思いながら、ずっと彼を見つめ続けた。
お疲れ様でしたー。最後の〆がゆるいのは面倒くさくなって放り出した結果です。ごめんなさい。(←