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マダラオガクト

夢スタートです。

 闇に響く声。ただひたすらに冷たく、無機質に響く。


『回路C。五パーセントほど進行速度に遅れがみられます』

『了解。回路Cが定着し次第、再度、前処理段階へ移行します』

『了解』


 閃光。そして暗闇。


 対峙する二人の少年。それを俺は、上空から見下ろしていた。 

 ただ少年たちが向かい合っている。たったそれだけのこと。

 けれど、確かに感じた。


 異常だ。


 一方は口元に薄く笑みを浮かべている。

 黒髪にもかかわらず透き通るような青眼をもっていた。その眼は、口元と反して、炎を思わせる激烈な感情を孕んでいた。

 怒り? 

 憎しみ? 

 否だ。

 そんな単純なものではない。

 嫉妬、喜び、羨望、殺意……それらが、およそ幼い男児が持ちえない密度で存在し、渦を巻き、複雑に絡み合い、脱出口を求めて荒れ狂っている……そんなイメージが伝わってきた。


 だが、それが異常なのではない。

 普通なのだ。

 もう片方に比べれば。


 もう片方。『それ』からは、何も感じない。

 特徴がないのではなかった。

 人の気配を感じないのだ。生気だとかそういったものが、一切存在しないかのよう。


『これより、回路A<反射機能>の実験を行います』


 女性の声がした。

 ひどく冷ややかなそれは、二人の中間に立っていた白衣の女性のものだった。よく見ると、少し離れたところに男性もいた。なにやら忙しなくメモを取っている。


『CODE0(コードゼロ)。回路Aのみ解除を許可します』

「はい」

『CODE6(コードシックス)、全力で破壊にかかりなさい』

「はい」


 返事とともに、青眼の子が動いた。


 閃光。そして暗闇。



 気が付くと俺は、ヨーロッパの田舎町を上空から見下ろしていた。

 急激に高度が下がり、石畳の道へ着地。仲の良さげなお嬢様と少年の背後に立つ。


 何事もなく、ゆったりと場面が移ろいでいく。

 お嬢様は楽しそうに少年に話しかけ、店へ引っ張り込み、時にわざとらしく怒り、笑った。少年はそれに合わせ、見事にお嬢様を楽しませつつ、楽しそうにふるまっている。

 実に微笑ましい光景だ。


 そして夕方。


『お嬢様、そろそろ戻りましょう。日が暮れてしまいます』少年がゆっくりと言う。

『……もう少しだけ大丈夫よ』


 お嬢様が、いかにも不満げに口をとがらせる。


『いけません。夜は危険がいっぱいありますから』

『……でも、レイが守ってくれるんでしょう?』


 上目遣い。実にあざといが、これは意識していない天然ものだ。たぶん。


『えぇ、もちろん。ですが夜になれば、わたくしの手に余る事態が起こらないとも限りません。万が一など、あってはならないのです』

『……むぅー』


 むくれる。


『また来ましょう。今度はもっと面白い作戦を練って』


 少年が優しく笑いながら、お嬢様の手を取った。


『……約束よ? 絶対だからね?』

『もちろんです』


 二人は手をつなぎ、歩き始めた。


 閃光。そして暗闇。 



 気が付くと、俺はリムジンの助手席に座っていた。

 深夜。

 仕事帰りなのだろう。後部座席に座っている壮年男性の顔は、ひどく疲れているように見える。

 運転手の青年に、男性がぽつりと話しかけた。


『人は、醜いなぁ』

『……』


 青年は、沈黙することで先を促した。


『……人間は、なぜ他者を蹴落とすのだろうか。蹴落とさずにはいられないのだろう?』

『……』


 青年は、無言を貫く。

 答えを求めての問いかけではないことが、青年にはわかっているのだ。いや、正確にはインプットされた情報には、そう書かれている。

 男性が続ける。


『それは、本能だからだ。人間は、他種族を蹴落とすことで生態系の頂点に立った。他を蹴落とすための進化を何百年、何千年と繰り返し、得た力をもって、それを成し遂げたのだ。それはもはや、DNAのレベルで刻み込まれている。だから人間は、醜い』


 男性は一旦区切り、深く深く息をついた。ひどく濁りきった空気が、排出されたように見えた。


『だが、これからの人間は、蹴落としあうのではなく、手を取り合わなければならない。敵の種類が変わったのだ。環境問題、食糧、資源問題、紛争……生き残るには、今までの、狡猾なだけの人間では勝てない。このままでは衰退は免れないだろう』


 トーンが変わった。急激な転換は、まるで有名政治家の演説のような、不思議な迫力をもっていた。


『そして変わることができると、私は信じている。ほかならぬ、醜い人間だからこそ』


 男性が言葉を切った。そして周囲の空気が弛緩する。言いたいことを言いきったのだと感じた。

 青年が、ようやく口を開いた。


『……北条様のようなお方がいらっしゃればこそ、人間は、まだまだ捨てたものではないなと、私は思います』

『……そうか』


 あとは心地よい沈黙が、リムジンの中に漂うばかりだった。


 閃光。そして暗闇。




「んごぉおおおっ!!」

「っっ!」


 突如響いた轟音で、目が覚めた。

 ちらと、周りを見やる。

 なんてことはない、発生源はすぐ隣のオスだった。

 地響きのようないびき。思わずその巨大な口に縦拳をぶち込もうと思って、とどまる。

 見ず知らずの親父の口の中に大切な我が玉手をおぶちこみになられるなんて――冗談じゃない。


 探索者専用二十四時間営業の宿。

 物珍しさに惹かれてきてみたが、こんなことなら野宿のがよかったな。隣が鈴森なら、遠慮なく挿入してやるのに(拳を)。くっせぇ野郎どもと雑魚寝するぐらいなら、星(光る鉱石)を見ながら岩に枕する方がいくらかマシだっただろう。


 臭い息から逃れるべく寝返りをうつ。幾分和らいだものの、しかし臭撃はおさまらない。息を殺して数十秒。

 くそっ、我慢できん。

 酸っぱいにおい。何とも言えない悪臭……漢(オトコ)スメル。そんな臭気に耐え兼ね、寝袋から体を起こす。


「おうっ起きたか!!」


 背後から、聞いたような陽気な声が轟いた。

 周囲、うめき声が湧く。


 振り返ると青年がいた。

 はねてごっちゃになった茶色の髪をガジガジ引っ掻き回しながら、笑いかけてくる。昨日『安息の間』でであった男だ。昨夜、偶然この宿でバッティングして、少し話をした。

 たったそれだけ。それだけでもう馴れ馴れしい。

 軽い男だ。やはり、信用ならない。


「……声落とせよ」

「ん!? 何!?」


 耳に手を当て、「PARDON?」とぬかす。

 あぁそうか、いびきがうるさくて届かないのか。

 話しづらいことこの上ない。

 出口を指さす。目で、外へ出ようと誘った。


「オッケーイッ!!」


 ぐっ、と茶髪が親指を立てる。


「朝っぱらからうるせえぞこのガキっ!!」

 

 茶髪の後ろから、大男登場。茶髪の脳天に岩の拳を打ち下ろした。


「ホアタァッ!?」

「お前はすでに死んでいる?」


 青年が発した攻撃的な悲鳴に反応して、なんとなく言ってみる。


「てめえのほうがうっせえんだよっ!!」


 と、さらに別の若い男が湧き出て、大男に枕(のようなもの)を投げつけた。


「黙れ小僧!!」


 寝てたおっさんが牙を剥く。


 つい数秒前まで平和な空間だったはず。それが一瞬にして無法地帯と化した。飛び交うまくら、怒声、時に殴り合い。

 まぎれもなく。


「ここは……戦場だ」

「バカ言ってねえでズラかるぞっ!!」


 そう言って茶髪は出口を目指し、すでに戦地と化した部屋の中を、ひょうひょうと駆ける。

 騒ぎの火種はいち早く脱出してしまった。




「おー怖かった」

「はぁっ……はぁっ……」


 数分後。俺は茶髪の待つ廊下に退避した。

 被弾数三、接触事故一。

 無傷で爽やかに汗をぬぐう茶髪が恨めしい。明らかに慣れていた。


 それはそうと、こいつの名前、まだ聞いてなかったな。


「貴様……名を名乗れ」


 思わず、脅すように尋ねてしまう。


「おぉうっ? そう怒るなよ。ちょっとしたレクリエーションじゃねえか。あいつらだってじゃれあってるだけだぜ?」


 へらへらしながら、茶髪のたまう。その時、部屋の方から一際大きな音が響いた。


「死ねコラァッ!!」

「おぎゃぁっぱらぁあああっ!!」


 叫び声。同時に、壁を突き破って廊下に崩れ落ちた塊は、赤いペンキのようなものを流しつつ、ヒクヒクと力なく痙攣を繰り返している。


「まだ終わりじゃねぇぞオラァっ!!」


 穴の開いた壁から、ぬぅっとキングゴリラ見参。肉塊を片手で掴みあげ、部屋に投げ込み、再び中へ。


「……殺し合いにしか見えないんだけど」


 冷静に突っ込むことにした。茶髪、そっちを見向きもしていない。


「俺の名前は斑尾岳人(マダラオガクト)だ。まぁ適当に呼んでくれればいい」


 その話題転換は、もはや荒業の域。話の流れも糞も無い。

 とはいえ、突っ込むのもめんどくさいので無視する。


「……俺は神津玲雄だ。よろしく」

「おう。それでお前、この後暇か?」

「いや、ツレを待ってる。それから買い物だな」

「あぁ、女子部屋か」


 いかに雑魚寝が基準の茅屋ぼうおくと言えど、さすがに男女は別だ。女子部屋、ぜひとも覗いてみたいものである。

 数秒間、二人で花園へと思いを馳せた。


 我に返る。


「そういえば、君の仲間はどうしたんだ?」 

「仲間……あぁ、パーティーのことか。それならもう散った」

「散った?」

 

 まさか、バフォメットに?

 しかし斑尾はあわてて手を振った。 


「いや、違えよ。そうじゃなくて、あのパーティーはここ――TWOを目指すために作った、臨時的なモンなんだ。よくやんだろ?」


 なるほど。下に行く方が儲かるわけだから、当然みんな下を目指す。けれどボスが強すぎるからその時だけ力を合わせるというわけか。

 MMOでよくやるやつだな。理にかなっている。


「ま、一人には唾つけといたけどな」


 斑尾の顔がいやらしく歪んだ。

 こいつとは気が合いそうだと直感する。


「……黒髪巨乳の」

「そうだ。あれだけの上玉には、そうそうお目にかかれねぇからな。しかもあいつ、それでいてめちゃ強え」     

「高機能だな」

「あぁ、ハイスペックだぜ」


 俄然、興味がわいてきた。


「名前は?」

「やらんぞ」


 第一声は威嚇だった。オスがメスをめぐって争う。これは避けられない事態だ。


「別に狙ってるわけじゃない。ただ、強いなら今後、攻略のために手を組むかもしれないだろ? 君と一緒で」


 平気でうそをつく。これは化かしあいだ。容赦しない。

 しかし斑尾のガードは緩まない。


「……会って本人に聞くんだな」

「……ケチくせえのな、君」

「うるせえ。というかお前にはもういるじゃねえか。欲張るんじゃねえよ」

「いや、あいつは別に……」


 と、その時、前方――出口のところにちょこんと座りこむ小動物を発見した。


「鈴森?」


 不思議に思って呼びかけると、ぱっ、と野良猫を思わせる速度でこちらを振り向く。そしてぱぁっと明るく笑い、とてとて駆けてきた。


「おはようございます神津さん! その人は?」

「あぁ、こいつは……」

「斑尾岳人だ! よろしくなチビ助」

「チビ助じゃないっ!! ……です」


 一瞬突っ込んで、敵の気迫に押されたのか尻すぼみになった。

 よわい。


「わ、わたしは鈴森愛蘭です。……小部屋にいた人、ですよね? なぜ一緒に?」

 

 こちらに顔を向け、尋ねてくる。


「たまたま会っただけだ」

「俺は強そうな奴に声をかける主義だ。探索者ってのは繋がりが命だからな。まっ、これからよろしく」

「……は、はい……」


 斑尾が大きいからか、それともちゃらいオーラを発しているからか。鈴森は若干引き気味だ。いや、怖がっているのか。

 こいつ、ライオンみたいな髪型だからな。肉食獣と小動物、好意が一方的になるのは当然か。


「で、鈴森。なんでこんなとこにいるんだ? 昨日散々疲れたんだから、もっとゆっくり寝てればいいのに」

「……し、知らない人がたくさんいて、なんか落ち着かなくて」

「ふーん」


 そういうものか。


「そっ、それで神津さんは?」

 

 鈴森は一刻も早く話題を変えたいのか、逆に問い返してきた。


「あぁ。部屋の中で突如無差別の殺し合いが起こったから逃げてきた」

「バトルロワイヤル勃発!?」


 鈴森の悲鳴じみたつっこみの直後、かすかに悲鳴が聞こえてきた。


「……あれ……」

「そうだ。断末魔だ」

「……そうだったんですか。あれ……」


 しょんぼりする。なぜか。


「そんなことよりお二人さん、外で飯食わねえか?」


 斑尾の言葉に俺たちはうなずき、宿を後にした。



 外は日の光ではなく、光量を増した鉱石によって照らされていた。普通に比べればやや薄暗いが、これはこれでなんかいい。

 幻想的な雰囲気は、どうやらこのスポットの特徴のようだ。


 近くにある、ちょっと洒落た喫茶店に入った。

 早朝だというのに客が多く、少し待ってからなんとか空いている丸テーブルを確保し、腰を下ろす。

 メニューを開くと、いつも通りのピグミートサンドやらにまじって、新しい食材が目に付いた。


・ホットケイク~メガロラニバアイス添え~


「……めがろらにば?」 

 

 鈴森の舌っ足らずな疑問に、斑尾が応じる。


「十三階層に出てくる植物系のモンスター『メガロラニバ』の実を使ったアイスだ。TWOの名産品。うまいぞ。俺はそれにする」


 バニラもどきなのだろう。鈴森も気づいたようだ。


「じゃあ私もそれで」

「俺も」


 甘いものを食事代わりとするのはあまり好きじゃないが、名産品には興味がある。結局全員ラニバとカーフィー(コーヒーもどき)を頼んだ。

 ホール担当はなかなかセンスのいいメイド服を着たおにゃの子たち。

 谷間、ミニスカ、ふりふり。

 斑尾、鼻の下が伸びきっている。


「斑尾、お前……」

「(ぐっ)」


 親指を立ててきた。

 こいつ、やりおる! 

 無言で親指を立て返す。


「ん?」


 鈴森はよくわかっていないようだが、


「ぐっ」


 なぜか指を立てた。

 三顧の礼、ここに完成。

 不思議な一体感が生まれた。


 ホットケイク、投下。


「ごゆっくりお楽しみください」


 深々と一礼するメイドを存分にねめまわす。

 谷間からくびれ、股間を隠すように添えられた手つきにミニスカ、そしてすらりとした太もも……頭のてっぺんから爪先に至るまで存分に視姦し尽くした。(鈴森はケイクに目を奪われていた)


 耐え兼ねたメイドが逃げだしたところで、いざ実食。

 温かいホットケイクは柔らかく、程よい甘み。そして何より、冷たくて、ちょっと溶けかかったアイスとのコラボはたまらない。


「あまひぃぃ……」


 鈴森はほっぺに手を当て、恍惚とした。

 ラニバ。

 これはバニラだと思っていたが、もはや別次元のものだった。

 牛乳を使ったかのような濃厚な甘さをもち、それでいてあとにはほんのりと爽やかなバニラの香りを残していく。

 アイスじゃない。これはソフトクリームだ。

 惜しむらくは量的に物足りないところか。まぁ今日は買い物だけの予定だから、問題ないだろう。


「んで、お二人さん。今日の予定は?」


 貪りながら尋ねてくる。


「今日はお買い物ですぅ~」


 鈴森がほっぺに手を当てて、ほややんと答える。


「一緒に行こうぜ」

「断る」


 断絶を表すに等しい即答にも、斑尾はめげない。


「連れねえこと言うなよ。探索者は繋がりが大事なんだぜ?」

「そうですよ神津さん。かわいそうじゃないですか」

「よく言ったおチビ!」

「しゃーっ!!」


 鈴森が威嚇する。しかし斑尾に効果は無い。


「鈴森、お前こんな見ず知らずの男を信用するのか?」

「見ず知らずじゃねえだろ? もう俺とお前はマブだぜ?」


 親指を立てて、爽やかスマイル。その指へし折ってくれようか。


「まぶ?」


 顎に人差し指を当て、鈴森が首をひねる。


「マブ他人……真の他人って意味だ」

「ちげえっ!! マブダチだ!!」

「まだ会ってそんな経たないだろ。いつの間にそんな関係になったんだよ」

「友情ってのは時間じゃねえんだよ。俺はお前と気が合いそうだと思ったから声をかけただけだ」


 ちょっといいこと言ったぜ顔がうざい。ドヤ顔の次くらいにむかつく顔だ。


「悪いな。くせえセリフ吐くやつと馴れ馴れしいやつは信用しないって決めてるんだ」

「ひどくねっ!?」


 さすがにダメージが通った様子。


「……斑尾さん。神津さんは素でこうなので気にしないでください」

「うぅ……なんていいロリなんだ」

「ふしゃぁーーっ!!」


 鈴森、縋り付こうとする斑尾へ再び威嚇。なんとか鼻水から妖精の服を守り抜いた。


「余計なフォローするなよ、鈴森」

「でも……」

「俺、TWOのことは知り合いからよく聞いてたから、役に立つと思うぜ?」


 立ち直り早っ。

 結局斑尾はついてくることになった。



 ギルド到着。建物は幾分小さく、人の数も若干減っているようだった。

 いつも通りポニテに絡む。


「おはよう」

「おはようございます。あら、新しいお仲間さんですか?」

「いや、こいつは……」

「斑尾岳人だ! あんたのことは知ってるぜ。優秀なんだろ?」


 どうやら斑尾流のあいさつは、万人へ平等に降り注ぐらしい。


「はい、優秀な受付です。どうぞよろしく」


 動じない。さすがプロ、変人の扱いはお手の物だ。


「まぁこいつのことはともかく……」

「ともかくとはなんだコラァ」

「置いてくぞ」

「置いてきますよ」


 斑尾に対し、俺と鈴森の突っ込みはほぼ同時に放たれた。


「ちぃっ……」


 ダメージ有り。騒がしい肉食獣はおとなしくなった。所詮はネコ科である。


「素材の買い取りを頼む」


 素材別に分けて、カウンターへ放りだす。


「またこんなにたくさん……死ぬほどお待ちください」

「待ち続けてやるよ」

「はぁ……」


 ポニテは素材を数え始めた。

 少しして。


「おまたです。占めて三万八千五百Gになります」

「ありがとう」


 袋ごと受け取る。やはりバフォメットの素材が高かったのか、なかなかいい収穫だ。


「それと、装備を揃えるのにおすすめの店を紹介してほしいんだけど……」

「うーん。服は『防具店<ガードナー>』でしょう。場所は商業区の三番地にあります」


 このスポットはいくつかの区に分けられている。

 宿泊、食事施設のある探索者区、商業施設のある商業区、住宅地の集まる住宅区、官憲施設のある行政区、そしてスラム街だ。


「それと武器関係なんですが、そろそろ鍛冶に手を出してみるのもいいかと思います」

「家事?」


 鈴森が首を傾げる。


「鍛冶だ。オーダーメイド武器か……」


 職人に造ってもらうにはかなりのお金がかかる。その分性能は高いが、どうせすぐ次のレストスポットに行けばそれ以上の性能の武器が手に入るのでイラねと思っていたのだが、そろそろ頃合いなのかもしれない。

 バフォメットには正直苦戦したしな。

 

「おすすめの職人がいるのか?」

「いるぜっ!!」

「うわっ」


 背後から、斑尾復活。ポニテが事務的な驚声を発した。


「TWO唯一のドワーフ職人オーインだ!」

「ドワーフ?」


 ドワーフって、あのドワーフか? 

 斑尾がいぶかしげな顔をした。


「お前、ドワーフ知らないのか? ドワーフっていうのはだな、SIXに住んでいる妖精一族の総称だ。鍛冶を得意としている」

「へぇ、そうなのか」

「よーせいさんですか」

 

 俺たちの無教養に、斑尾は踏み込んでこなかった。ありがたい。


「俺もオーインに武器を作ってもらいたくて、無理してここまで来たようなものだからな。行こうぜ」 

「それは難しいと思います」


 ポニテがきっぱりと止めてきた。


「なぜ?」

「オーインさんはここ最近、ずっと商業ギルドから指名を受けていますから」

「な、なんだと……?」


 隣で、斑尾が声を上げた。


「しょうがない。それじゃあ、ほかの……」

「諦められるかァアアアっ!!」

「「「うわっ」」」


 斑尾復活。

 そしてポニテに向かって体を乗り出した。


「受付ちゃん!!」

「は、はい」

「オーインの住処を教えろ!! 直談判してやる!!」

「え、えっと……」


 さすがのプロもお困りのようだ。こっちをちらちら見てくる。

 こっち見んなめんどくさいから……あぁ、もう。


「斑尾、どうでもいいけど俺たちは行かないぞ」

「なんだと!? お前、オーインのオーダーメイド、欲しくねぇのか!!」


 やっぱ飛び火した。ポニテのほっとしたような顔がむかつく。


「いや興味はあるけど、次のレスト・スポットにいるドワーフに頼めばいいだろ」


 引き気味に答える。


「無理だ」

「え?」

「いねぇんだよ。ドワーフは基本、SIXにしかいない。ほかの階層だと、それよりも下になっちまう」

「じゃ、じゃあなんで、オーインはこの階層に?」

「いろいろあんだよ!! とにかく、俺はあきらめんぞ!!」


 結局斑尾はオーインの住所を聞き出してしまった。とはいえドワーフに興味があったため、俺たちもついていくことにした。





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