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餌に釣られる小動物

 目の前にあるのは、一見すると小ぢんまりとした雑貨店。しかし、鈴森と別れてでも見ておきたいものがこの中にあるのだ。

 ちょっと期待に胸をわくわくさせて、いざ入店。


「ごめんくださーい」

「……らっしゃせ~」


 奥の方から、なんともやる気のない声が飛んできた。そりゃまぁ、店員さんにもやる気のないときくらいあるだろう。

 そのことは無視して、陳列棚に整然と並べられた便利グッズへ目を向ける。

 水筒、鍋、水晶などなど、用途バラバラなグッズ。しかしこれらには共通点がある。

 野暮ったいデザインのこれらには、下界の物理現象をガン無視できる力――魔法が備わっているのだ。

 魔法道具。

 水を無限に生み出す水筒、火にかけなくても熱を発生させる鍋、電気など無くても光を発生させる水晶……ファンタジーである。

 一応『使用者の体力を奪って、なんらかの複雑な回路を経て効果を発揮する』なんてアッバウトな原理があるらしいが、詳しいことは分からない。

 ただこれらが持つエネルギー効率は、下界が抱える資源不足問題を容易に解決してしまう、政治家垂涎の逸品であるということだけは理解できた。

 全財産、残り八千弱。水晶の一個ぐらいは購入できるだろう。

 一通り見まわってみる。

 燃料要らずのバーナー、プロペラ無しで風を発生させる送風機、ガラスのような透明な板、手鏡型のテレビ電話……図画工作レベルの組み合わせ次第で、下界にある叡智の結晶はすべて再現できてしまいそうなくらい、様々あった。

 これだけ優れた道具がありながら、いまだ生活の大部分で下界の水準に達せていないのは、これらが高価だからというだけでは説明がつかない。

 町と町との間の交流手段が乏しいから? 人手不足? 統一国家ゆえに国家間競争がないため? いろいろ考えさせられる問題だ。

 結局、差し迫って必要なのは水筒と水晶のどちらか、という結論に落ち着いた。けどよく考えてみると、水は『ファンタジー空間(ステータス欄)』にかなりの量を詰め込むことができるな。

 水晶(三千G)を買い、店を後にした。


 ちょっと町をブラブラし(際どいチャンネー多くて最高です)、鈴森を拾って再び町へくり出した。 

 鈴森は観光していないので、適当に町をぶらついてから帰りにレストランで食事ということに。

 あれ、これってデートじゃね? 今更か?

 鈴森の方をちらりと見やる。周りに気を取られてキョロキョロしていた。ロマンも糞もあったもんじゃない。

 まぁそんなものには興味のかけらもないからいいか。

 男は皆、実利主義なのだ。(訳:男はロマンよりも性欲。前座より本番)


 柱周辺。

 商業ギルドの周りは店が多く、賑わっている。しかし、まっとうな店に紛れて怪しげな店も増えてくる危険地帯だ。

 串肉の露店前。

 ねじり鉢巻きのおっさんが声をかけてきた。


「探索者のお嬢ちゃん!! ONE名物『チカラアップ肉』はどうだい?」

「ちから、アップ……?」

「おい、待て……」


 鈴森は素直に反応した。そしてとたとたとおっさんの方へ。

 いまや彼女は好奇心の化身。人の言葉は(俺の静止は)通じない。

 聞き耳を立てる。


「そうさ。知らないのかい? 食べれば筋力ステータスがアップする幻の肉さ!!」

「食べるだけで!?」

「そうさ!! 嬢ちゃんかわいいから一本五百Gでいいぜ」

「ごひゃく……」


 鈴森がこちらを向く。そしてとたたっと寄ってきた。


「神津さん……」


 上目遣い。『金よこせ』とおっしゃっている。

 しかしそんなもの、鋼の心を持つこの俺には通用しない。


「詐欺だぞ」

「へ?」


 ぽかんとしている。


「信じてんじゃねぇあんなもの」

「で、でも……」

「そんなもんあるんだったら金持ちはみんな強くなっちまう」

「幻だからでは?」

「幻の肉があんな雑に調理されて、しかもあんなてんこ盛りになってるわけねえだろ」


 大皿の上、肉のピラミッドを指さす。


「わかったら行くぞ」

「……はい……」


 納得したようだ。


「あっちょっと嬢ちゃん」


 後ろから声がついてくる。


「がぁうっ!!」


 威嚇してやった。



 アクセサリーの露店前。

 宝石もどきで身を固めた成金おばさんが登場し、声をかけてきた。


「あらそこのかわいらしいお嬢ちゃん。ちょっといいものあるんだけど見ていかない?」

「いいもの……?」

「あっおいっ……」


 好奇心旺盛な小さな獣は、ホイホイ釣られた。

 聞き耳を立てる。


「このネックレス。つけるだけでステータスが二倍になるのよ」

「えっ嘘!?」


 鈴森の驚きは、数メートル離れてもうるさく聞こえた。

 ちなみに少し遠くから眺めていると、おばちゃんの持つネックレスは後ろのカウンターにずらりと並んでいるのがわかる。


「それが本当なのよ。すごいでしょ」

「(ふんふん)」


 しきりにうなずいている。

 おばさんの機嫌が目に見えてよくなった。


「ふふん。でね、誰か使いこなせそうな人探していたらちょうどお嬢ちゃんが通りかかって……私、ピンときたの。この子だぁって」

「ふんふん」


 体を前に倒してネックレスを凝視している。後ろからパンチラ。なぜかこっちが不安になる。


「だからね、お嬢ちゃんにだけ特別に、二千Gで売ってあげることにしたの。どう? いい話でしょう」

「にせん、G……」


 少女の心は透けていた。

『ステータス二倍で二千G……これは安い!!』

 ゆえに、次の行動は軽く読めた。単純な生き物である。

 寄ってきた。


「神津さん……」

「だめだ詐欺だ」

「うぇっ!?」

「阿呆が。ステータス二倍のネックレスがあんなにたくさんあるか!」


 露店を指さす。そこにはずらりとネックレスが。


「……で、でも違う種類かも……」

「特別な力感じるか?」

「……いえ……」


 納得したらしい。


「行くぞ」

「……はい」

「ちょぉおっと営業妨害じゃないのそれぇえええっ!!」


 行く手におばちゃん。亜音速で移動してきた。必殺クレーム口撃が火を噴く。


「どぉおおけぇえええいっ!!」

「きゃぁあああああっ!!」


 邪魔だぁっ。『筋力』極振りで『ミノタウロスの金棒』を振り回す。

 おばクレーム・BBAは逃げ出した。精神攻撃には容赦ない武力で対応しよう。



 何度かそういうことがあり、夕飯を終えて帰ってきたときにはもう真っ暗。しかし躾はしなければならない。

 早速水晶の出番だった。

 点けてみると、温かい橙色の光。なんかロマンチックな感じになった。


「わぁ、ロマンチック……」


 呆けた声を上げている。

 俺は我慢の限界だった。


「わぁ、じゃねぇええっ!!」

「ひぅっ!!」

「せいざぁっ!!」


 床に正座させた。


「まずはくだらない詐欺にホイホイついて行った罰だ。尻百叩きとお花摘み、好きな方を選べ」

「おはな、つみ……? トイレですか?」


 人差し指を顎に、小首をかしげる。結構余裕そうな表情だ。

 その顔、苦悶に歪めたいっ!!

 俺は今、水晶のおかげで野獣性が引き出されているのだ。


「そんなわけないだろう。お花というのは比喩だ。ヒントは花弁はなびら。花弁を散らすと言い換えることもできる」

「……」


 鈴森、ちょっと考える。徐々に青ざめる。


「ま、まさか……」

「うむ、おそらくそれであってる」


 鷹揚にうなずく。

 一拍置いて、


「れーぷだぁああっ!!」


 鈴森が恐怖に耐え兼ねて叫び声をあげた。


「レイプじゃない躾だ」

「愛無し禁止!!」

「愛のない交尾がすべてレイプみたいな言い草だな」

「その通りですっ!!」


 断定しやがった。全くおこちゃまだなこいつは。金を介した交わりのことも知らんらしい。


「じゃあ尻百叩きを選ぶんだな?」

「……ひゃく……」


 鈴森は昨日のことを思い出しているに違いない。

 俺は昨日、肉弾戦がどれくらい通じるのか確かめるべく、ボロボロにしたミノタウロスを『筋力』極振りでぶん殴ったのだ。結果は、今、鈴森が青ざめている通り。


「も、もちろんご容赦……」

「いたしません。俺はいつでもガチだ」


 極振りのまま素振り。小気味のいい轟音が響いた。


「……百っていうのは、比喩?」

「そのままの意味だ」

「……終わった……」


 鈴森は両手を床につき、伏せった。

 しばらく、よよよっと泣いて。


「うぅ……百叩きで、……」

「傷一つない玉の尻……生贄に捧げるのか」

「……背に腹は、代えられないです……」

「そんなに膜が大切か」

「当たり前ですっ!!」

「そうか……」


 すっくと立ち上がり、肩を回す。

 

「あれっ……いつもみたいに冗談では……?」

「なわけないだろう。躾けねば……いつまでも治らん」

「……はぃ……」


 四つん這いになった。

 ていうか、マジでミニスカ。パンチラしまくってる。というかモロ。


「……」


 ヤバい……いつもより殊勝だ。まじで四つん這いになるとは。いや、マジでやるつもりじゃないんだが。……しょうがない。

 右手を尻に添え、スタンバイOK。

 震えてる。伝わってくる。

 ぴちぴちパンツが張り付いた尻……手にほぼダイレクトでその生温かさが伝わってくる。ていうか、や、やっこい。触れただけで軽く沈み込む。にもかかわらず、ちょっと力を入れると抵抗がある。

……あれ、尻叩きってこんなにエロいものだったっけ?

 

「いくぞぉおおっ!!」

「……っっ!!」


 振りかぶり、


「ひぃっ!!」

 

 寸止め。鈴森の体が硬直しきった。

 つまらん。やっぱ反撃してきてもらわないと。

 なんかいじめてるみたいで気乗りしない。それに、素直に尻を差し出したということは、一応反省してるってことだ。


「……え?」

「正座」

「あ、はい……」


 鈴森がぽかんとした声をだし、正座した。


「今のでわかったろう。もし俺に理性がなかったらリアルレイプの餌食だったぞ。お前は誰でもホイホイ信じすぎるんだ。三人組のときもそうだったが、危なっかしい」

「……はい……」

「いつでも疑ってろ。根拠がなければ信じるな、以上」

「いえす・さー」


 鈴森は、殊勝な態度でうなずいた。

 お開きにして、ベッドへ。

 寝転がって考える。

 これで直るだろうか? 

 いや、直らないだろう。今までも何度かこういうことがあって、さんざん注意してきたが駄目だった。

 何がここまで彼女をそうさせているのかはわからないが、このままだといずれ大変なことになるのは目に見えている。

 

「ふぁ……」


 軽く欠伸。

 俺には関係のないことかもしれない。鈴森の何を知っているわけでも無し、何を考えているのかわかるわけでもない。

 だが、クリアに必要ではある。バカだがスキル能力は高く、裏切る心配が少ない。道具とするにはベストな人材だ。

 そういう意味では、死なれたり、事件に巻き込まれてもらっては困る。最低でも自衛できるくらいにはなってもらわなければならない。

 あぁ、まただ。

 理由、打算、打算。油断するとすぐこうだ。だから本物とは程遠い。

 布団を被った。

 明日からまた戦いだ。眠ろう。



 


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