LIVE・ファンタジー
気が付くと、真っ白な空間にいた。
「……え?」
あまりにも唐突な出来事で、一瞬ぽかんとした。
これは……そうか。
選ばれたんだ。
実感が、奥底からじわじわと競り上がってくる。
ようやくあの『地獄』から出てこれたんだ。
絶対に転生してみせる。
誓い、周りを見渡す。
たくさん人がいた。みんな俺と同じように、キョロキョロとあたりを見渡している。
声がした。
『これより説明を開始します。なお、今回は『日本人であった』『若くして命を失った』以上二つの条件を満たした魂の中から百、選ばれました』
機械的なアナウンスが流れ、いったん区切れた。
『おめでとうございます! 皆様にはチャンスが与えられました』
声が変わり、人に近いものとなる。
しかしそれは、人と言うにはあまりに無機質なものだ。声というより、音に近い。
そしてそれは真上から響いてきた。俺たちはいっせいに上を向く。
しかし、上には何もなかった。
果てすら見えない。思わず足が竦んだ。
声が続く。
『皆様は、『輪廻転生』という言葉をご存知でしょうか?
知らない方のために簡単にご説明いたしますと、生き物の魂は皆、死ぬとこちら側の世界、下界ではあの世と呼ばれている世界へやってきます。そしてそこでしばらく過ごし、再び下界へと戻ります。これが輪廻転生と呼ばれています』
静まり返っていた。
遮っちゃいけない。
なんとなく、そう思った。
『しかし転生できる魂は、こちらで選定することが決まりとなっています。無差別に戻しているだけでは、いつまで経っても同じことの繰り返しになってしまいますから。だからより良い魂を下界へ戻し、それ以外の魂にはこの世界で精進を続けてもらっているのです。
さて、ここまでで何か質問は?』
誰からも質問はない。これくらいのことは聞かされているはずだからだ。
一呼吸おいて、声が続く。
『さぁ、ここからが本題です。あなたたちは、その輪廻転生ができる魂の候補として選ばれました。
さて、これから選定を行うわけですが、それに伴い、皆様にはあるゲームを行ってもらいます。
そのゲームの名は『LIVE・ファンタジー』です。
ゲームの内容は毎度異なり、抽選で決まるため、得手不得手があるとは思いますがご了承ください。
今回のゲームは、下界ではRPGと呼ばれるジャンルのゲームに最も近くなります。皆様にはこれからダンジョンと呼ばれる洞窟に入ってもらい、そこで最下層を目指していただきます』
場がざわめいた。
『声』が遮られ、いったん消える。
ゲーム? そんなんで決めていいのかよ。性格とか仁徳とか……なんかこう、そういう感じのは求めなくていいのか。
どうやら周りも同じようなことを思ったらしく、ところどころから不平が上がっていた。
しかし再び声がすると、静かになる。
『ゲームなんかで、と思う方もいるでしょうが、これはそう単純なものではありません。この中ではあなたたち魂も実際に肉体を持つことになり、生活することになるでしょう。それは下界にいた頃と何ら変わりはありません。そしてゲームのクリアには相応の時間がかかります。当然、苦労も……』
一拍置き、声はどこか有機的なものに変わる。
『とはいえ、これは長い間修練を積んできたあなた方への、いわば慰労という意味も持っています。あなたたちにはぜひ、ゲームクリアだけを目指すのではなくて、楽しんでもらいたいと思っているのです。
これは人生のリハーサルなのですから。
より良い魂。それはすなわち、人生を楽しむ、謳歌することができる魂ということです。楽しまなければだめですよ』
それはどこかやわらかい声で。
俺は、いや、おそらくほかの人たちもみんな、反論することさえ忘れてしまった。
『それでは、ゲームスタート』
その声と同時に、視界がなくなった。
次の瞬間、真っ暗闇の中、目の前に青いホログラムが出現した。
LIVE・ファンタジーへようこそ!!
『次へ』と念じてください。
青に白のくりぬきでそう彫られていた。
いわれるがまま念じる。
ホログラムが横へスライドし、新しいページへと切り替わった。
このゲームは、ダンジョンと呼ばれる洞窟内で様々な敵――モンスターと戦いながら自身を強化し、最下層を目指すものです。
途中の階層にはレスト・スポットと呼ばれる町があり、そこに住む様々な人との交流も楽しめる、本格的なゲームです!
『次へ』
どうやら『声』の言っていた通り、ただ下を目指せばいいってものでもないらしい。
だが、ここだけでは何もわからないので先へ進める。
さて、ここからはあなたのことについてかんたんに説明させていただきます。
以下の項目から一つ選び、念じてください。
・あなたの姿形について
・ステータス、レベルについて
・スキルについて
・モンスターについて
・レスト・スポットについて
上から見ていくか。
・あなたの姿について
あなたは現在、仮の肉体の中にいます。
仮の肉体は死んだときのあなたの姿をそっくりそのまま模っており、機能も、筋力などのゲームに関わる部分以外は完全に再現されています。
背が伸びたり太ったりとかいうことは一切ございませんので、自由に飲み食いして、大いにゲーム内の食生活を満喫してください。
基本情報
・身長 178cm
・体重 70kg
・体脂肪 9.8%
・ステータス、レベルについて
このゲームは、基本的には下界の法則に則っています。
ただしゲームなので、いくつかステータスと呼ばれる、身体能力を数値化したものを作りました。
・体力(いわゆる体力で、高いと疲れにくくなります)
・筋力
・敏捷
・運
以上です。
なおHP、あるいは防御力といった、いわば『死にやすさ』を表すステータスはございません。そこは普通の人間と同水準なので、おきをつけください。
防具などで補いましょう。
また、レベルはございません。
各ステータスは、使うほどに上昇していきます。トレーニングによって高めることも、モンスターを倒すことによって高めることも可能です。
ステータスか。まさにゲームだな。
説明が大雑把すぎてよくわからないが、大体は理解できた。HPや防御力がない。それには気を付けないとな。
ただ『運』は、よくわからない。
一番説明がほしいのにされていないとは……かゆいところに手が届かないというより、悪意を感じる。
おかしい。
ステータスにはほかに、隠された何かがあるはずだ。
でも、これ以上は考えても無駄だな。
先へ進もう。
・スキルについて
スキル、すなわち技能ですが、それはその技能を完全に習得したとき得られます。
個々人の適性によって習得難易度は異なりますが、ほとんどのものが訓練によって得られます。
なお、皆さんにはランダムで一つ、スキルを進呈します。上手に使ってください。
スキル
改造者……自分のステータスをいじくれます。クールタイム(発動から次の発動までかかる時間)五分。
スキルか。
たぶん『剣術』のスキルがあれば上手く剣が使えるとか、そういうことなんだろう。こればかりは確認しないと始まらない。
今考えるべきなのは、初期スキルだ。
『ステータスを自由にいじくれる』というのは、後天的に得られるスキルとは考えにくい。
つまり、レアなスキルということだ。それとも、初期スキルはすべてその人固有のものになるのか。
とにかく、使ってみないとなんとも言えないな。
先へ進もう。
・モンスターについて
下界のゲームを参考に作られています。
下層に行くほど手ごわくなり、また各階層にはボスもいるので、他人と協力して倒すなり、スキルをうまく使うなり、鍛えるなりして戦ってください。
・レスト・スポットについて
村、あるいは町といった、ゲームの世界に住む人々の集落です。宿はもちろんほかにも様々な店があるので、生活の拠点にどうぞ。
レスト・スポットは五階層ごとに用意されています。
住人との交流は皆さんにとって有意義になものになるかもしれません。
コミュニケーションは、大切です。
『次へ』
「ふぅ……」
一通り見終えて、一息つく。
あまりにも多くの情報がいっぺんに入ってきたからか、少し疲れた。あとのことは、実際に目で見て確認しないと何とも言えないだろう。
「くぅ~~~」
一回”のび”をする。
目をぎゅっとつぶると視界に火花が飛び散り、頭の先からなんか悪いものが抜けていくような気がした。
ホログラムをスライドする。
以上で説明を終わります。何かご質問があれば念じてください。
「なっ!?」
うそだろ? まだいろいろと肝心なことがわかってない、気がする。
慌てて念じた。
Q・死んだらどうなる?
↓
A・ただではすみません。
こわい。
というか適当すぎるだろ、答えるあんのか?
次の質問。
Q・ステータスについて。『運』とはなんですか?
↓
A・高いと宝くじあたります。
それだけ?
職務怠慢にもほどがある。
次の質問。
Q・お金とかってどうなってます?
↓
A・働かざるもの食うべからずです。
わからない。何を言ってるのか。
とにかくお金が存在して、働けば得られるのだろうという推測はついた。
次。
Q・魔法が使えるようになるスキルは、どうすれば手に入れられますか?
↓
A・がんばりましょう。
答える気、ぜろ。
でも、頑張れば手に入るということだろう。それだけわかれば十分だ。
次の質問。と思ったら、ホログラムが切り替わった。
時間です。
それでは、楽しいゲームライフを!!
瞬間、再び視界がなくなった。