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R童話-やんわり-情景童話

ヴァレンタイン2013-2014-2015もう何でもいっか、だって私は万年空の雲だし

作者: RYUITI

 寒々しい風がビュウビュウと吹いている地上の先に彼の姿を見る。


そんな私は空の雲。


人間、というか青春真っ盛りの彼にとっても、

一年に一回しか来る事のない特別な日の筈の今日。

彼は、よく来る公園のベンチに一人で佇みながら項垂れていた。


今日は、今日は。


恋が実り、友情を再確認し、勇気を表に出すこともある日。

そう、【ヴァレンタインッアアアアア】である。


先ほどまで落ち込んでいた彼はいつの間にか、

いやいつものようにもくもくとスズメに餌を与えていた。

いつの日だったか怪我をしていたスズメの手当てをして以来、

彼はスズメに懐かれてしまった様で、

巣に返したところで彼の傍へと戻る様なそんな人懐こさを見せている。


彼に眼を向けると、

彼は、「おいしいかぴーたろ!今日はちょっと豪華な餌だぞ~」なんて……


とても穏やかな顔でスズメに声をかけながら餌をやっている。

ああ優しい、ああ感動的、アアアアア!!羨ましい事この上ない。

わたしもあーんとかされたいわッ!!

ウワアアアアアア地上に降りたい。

ウワアアアア地上で彼にあーんをしてもら――



いやいや欲を――下心をぶつけている場合ではないのよ。

今日はヴァレンタイイイインヌッなのだ!!

何故彼がベンチに置いてある荷物の中に女子から渡された贈り物らしき袋が一つも無いのだ。

ありえないよそんなのありえない。

カッコいいじゃない!!優しいじゃない!!!

彼には私がむしろチョコあげちゃうよ!

むしろチョコになるんだ!!

なって彼に食べられたいのよッ!!!


はいあーーーn






はい?いえ?

別に自分の欲が現われたわけじゃ有りませんけど!?

多分空耳か幻聴でも聴いたんじゃないですか?

HAHAHA!





――――っというかねえ!荷物がなんでわかるかっていうとね!!愛よ!!愛!!!

L・O・V・イーッ!

ってそれ悪の軍団だったわごめんなさい。


ええい!薄い空気相手に何を弁解しているのだ私は。


それはそうと、

たまに一緒に帰ってる女の子が今日は居ないみたい。

一緒に帰っている日はいつも彼がチビドリに餌をあげてるのを微笑んで暖かく観てたのになー

彼氏とデートかな!!!

だとしたら彼は私が貰うチャンスがあるってことよねええええええすけ

隣のばんごはあああああん。

いや今は晩でもなかったわね。

ご飯はチビドリが食べてるけども。


何も知らない顔して餌つつきやがってこのやろー!!

そんなところも可愛いぞ!


――はっ!!いけないっ!

今の私はチビドリに対してあられを降らせるほどツンツンとした冷たい雲のつもりだったのに、

ちょっと本音が――――いやデレ成分が出てしまってたわっ!!

なによ……。

ちょっとやめてよねー!!

なんで私があんな小さいチビドリにきゅんきゅんしないといけないの!?するわけないてしょー!

あんたは黙って炭酸水の元にでもなってればいいのよ二酸化炭素のくせに雲をいじるなんて最低だわっ


それはそうと――可愛いと思ったからにはちょっとチビドリに眼を向けてみましょうかねー



【そういって私はチビドリを全力でマークした、眼が血走るまでマークした】

ウィイイイン



チビドリが彼の周りを鳴きながら歩いているようね。

何て言っているのか聞いてみましょ。

キュイイイイイ


「エサうまいうまい!!うまいよ!ありがとっありがとっ!!」





――――っはあああん!!!ナニコレなにこれカワイイイイイッ!!!

おねえさん鼻血でそうなんですけどーーーー!


え?人間じゃないから鼻血は出ないって?窒素のくせに何言ってんのよッ失礼しちゃうワ!


というか言葉が理解できない状態でチビドリの声を聞くと、

ただすっごくうるさくピーピー聞こえるだけだからちょっと悲しいわあなんて思ったり。



気体に突っ込みを入れるのが面倒になった私は、

愛しの彼がいる場所に視点を戻した。


相変わらずビュウビュウと強めの風が吹いているような音がする。


さっきと変わらない公園のベンチ、

さっきと変わらないチビドリのテンション。


だけど、ベンチに座っている愛しの彼は――

さっきよりも随分と暗く重い何かを背負っているように深くうな垂れていた。

そして小さく、

「なんで……あんな奴と一緒に……」と呟いている。


嗚呼、きっと愛しの彼はチョコを貰うどころか一緒に帰ることも出来ずに、

揚句の果てに別の男に取られてしまったんだわ。


なんてカワイソウな彼、

なんて愛おしい彼、

なんて抱きしめたくなる彼、

なんて――チビドリがうるさあああああああい!!

ちょっと悲劇の主人公を慰めるヒロインの心情をやってみようと思ったのに、

さっきからピーピー、ピーピー鳴き過ぎなのよ!!!!

そんなに鳴いてると雪を降らせて雪だるまにするぞっ!!


あ、あられがチビドリに落ちちゃった。

ごめんチビドリそんなつもりじゃ……



まあいっか。

ふふふーん♪


ざまあみろっ!

あらやだ本音がポトリと落ちちゃったわあ鳥だけに!

なんちゃって…………




チビドリの鳴き声が響かなくなってしばらくしたところで、

改めて愛しの彼を見る。


ああやっぱりステキだわっ

もう優しそうな顔がサイコー!


後、今にも泣きそうな顔がとってもキュートね!

やっぱり彼を私のものにしたいわあああ!

――ウオオオオオ

――――キタアアアア。


誰かしらねこの濃い声。

そう思って辺りを見回しても、

公園には未だに重苦しく顔を下げている愛しの彼とチビドリだけ。


気のせいだわねと思いなおして静観していると。



コツコツという足音が、

公園に、

うつむいて、ベンチに座っている彼に近付いてきていた。


公園に近付くにつれて、

足音は早くなっていき、

ベンチの直ぐそばに辿り着いた時、

足音ではなく、呼吸音が早くなっていた。


私の愛しい彼の元に辿り着いた誰かは、

呼吸を整えようとしながら、

うつむいている彼に合わせるようにしてしゃがんで唇を開いた。


「もーやっぱりここにいた。

みんなにチョコ配り終わって一緒に帰ろうと思ったらいつの間にか居なくなってるし、

公園の近くに来るまでちょっと心配してたんだよ? 」



そう言われた彼は、

ハッとした感じで顔を上げ、

目の前にいる人物が視界に入ると、強い安堵の顔を見せた。


が、直ぐに暗い顔に戻って、

「だってお前、アイツと……」

そう彼が呟いた瞬間、少しだけきょとんとした彼女は、

しゃがんでいた姿勢から少し伸びをして。


少しだけむっとした表情のまま「あーもー仕方ないな。 」と呟いた後、


何か言いたそうな彼の口を、柔らかい感触で塞いだ。


彼女が彼から離れた後、

彼は声にならないと言った感じで呆然としていたけれど、

そんなこと関係ないと言った感じで、

持ってきていた自分の鞄から小さな箱を取り出して、

「はい、チョコ。

みんなにあげた奴みたいに既製品じゃないから、

形も悪いし味も悪いかもしれないけど……我慢して食べてね? 」


そう、少しだけ柔らかい笑顔で彼に小さな箱を差し出した。


差し出された彼はまた安堵した表情で小さな箱を手に取って、

渡した彼女に開けていいかと促した。


少しだけ照れくさそうに頷く彼女と彼の周りは、

とても寒いし風も吹いているのだけれど。



なんだかとっても暖かい気がした。


そう感じて、野暮な事はしたくないと彼と彼女、公園から視点を外そうとする直前。


彼女の周りではしゃいでいるチビドリから、

「白い肌サイコオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」

という声が聴こえたのは気のせいだと思いたい。

万年雲だしを読んで頂きましてありがとうございます。

久しぶりの後書きとなります。

なのでちょっと長くなりますが、

お付き合いくださると嬉しいです。


いやー長かった。

完成させるのに三年もかかったんですねー

三年前の22時44分、

タイトルだけ思いついてさらっと書こうと思ったら、

思った以上に何も浮かばない!!


裏話を書くとするならば、

最初のタイトルはヴァレンタイン2013のみで、

独りぼっちの青年がチョコを貰えず落ち込んでいるところを、

小鳥に煽られ糞をされさんざんな結果になるという感じで考えていたんですが、思っていた以上に何も浮かばす三行くらいでずっと眠ってしまっていましてね。

雲の語りにしようと思ったのも、

今までにない感じで、

書いてみようと思ったのも去年からだったんです。

まさか直感的なギャグを入れてしまうとは思っても見ませんでしたが。


去年はいい年でした。

人との出会いと別れ、

大切な事を多く感じ汲み取れたようなそんな年でした。

だからこそこの作品の彼には決まった結末を用意したくないという気持ちから、

今回のような感じになりました。


この彼のように、彼以上に

まだまだ成長途中ではありますが、

どうぞこれからもよろしくお願い致します。


RYUITI。


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