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第参章 帰還、そして

 とあるギルドの前に三人の少年少女が立っていた。


 このギルドはこの内の二人の少年少女が所有していた。


 ギルドに変わったところはない。依頼者として来ていた一人の少年―――紅蓮はそう思っていた。しかし、ギルドのオーナーの二人の少年少女―――ジンとライナはギルドの扉の前に立つと一言、


「………妙だな」


「………変ね」


 同時に立ち止まり、同時に言った。


 紅蓮は何が変わっているのか、二人に聞いた。


「何が妙なんだ?」


 ジンは振り向かずに


「中に…………何か」


 ジンが言いかけた瞬間


「何かいる」

ライナが先に言い、扉を蹴破った。


「な、なぁジン」


 弱々しく紅蓮がジンに問いかける


「なんだ?」


「あの子って、女……だよな?」


「ああ、そう見えるだろ?普通」


 当たり前そうに言うジンに紅蓮は


「普通、女って扉は蹴破らないよ?」


 やはり、ジンは当たり前そうに


「俺らのギルドの女は全員やると思うぜ?」


「そうなんだ………ってか二人以外に人いるの!?」


 怪訝そうに紅蓮はジンを見た


「失敬な、二人じゃ依頼なんか請けきれるわけないじゃん」


 そういえばそうだ。二人だけでギルドは作れないはずだ。それにギルド内にいくつか部屋があった。なら他にも人がいると考えられる。


「でもなぁ」


「ん?どうした?」


「あ、いや、なんでもない」


 つい口からでた言葉を聞かれ、紅蓮は少し焦ったがなんとか誤魔化した。


「ああ、そうか」


 ジンは怪訝に思うこともなくすんなりと言った。


「こんな態度だから二人だけでやっているって思われるんだよ」


 紅蓮はジンに聞こえないように呟いた。



 ****



 ジンと紅蓮が話している間、扉を蹴破ったライナはギルドの中に入っていた。


 とりあえず自分の部屋に行き、何か盗られてないか確認した。


 しかし部屋の中に誰かが入った形跡がなかった。ライナは少し安堵し、ジンの部屋に向かおうとしたが


(自分の部屋に勝手に入られるのは嫌よね)


 そう思い、次に倉庫に向かった。倉庫の中に入るとやはり誰かが入った形跡が無く、引き返そうかと思った時、一瞬だが、気配がした。


 ライナは気配がした方に向かうとそこには壁しかなかった。が、よく見ると壁に少しの隙間があった。


 ライナは隙間の横に手を置き、押そうとしたとき。


「おっと、そこまでだ」


 何者かがライナの手と口を抑えた。


 驚いたライナだがすぐに誰か理解した。ライナは抑えている手を振りほどいた。


「驚かさないでよ、ジン」


「さすがに女一人で行かせるわけには行かないだろ?男として」


 ため息をつき、ライナは


「この先、何があるの?」


 訊かれたジンは顔を壁に向けたまま


「俺の秘蔵書(バイブル)


 ジンは笑って言ったが顔は笑っていなかった。


「あっそ」


 ライナもその事を察してか、軽く受け流した。


「ライナ、紅蓮を呼んでこい」


「え、何で?」


 意外な人物の指名にライナは戸惑った。しかしジンは続けた


「これは下手したら俺らの問題じゃないかもしれない」


「……………わかった」


 何か言おうとしたがなにも浮かばずライナは渋々従った。



 ****



 気がつくと紅蓮は一人、ギルドの扉の前に取り残されていた。


 というのも、ジンが紅蓮に


「少し待ってろ、ちょっと中、見てくる」


「あ、だったら俺も行く。何かあったら大変だろ」


 紅蓮はギルドの中が気になっただけなのだが


「いや、いい。ここにいろ」


「いや、でも……」


 何かあったら、自分ならなんとかできる。そう思い、食い下がっていたが


「これはギルドの問題だ」


 とジンに言われたので紅蓮は一人、ギルドの扉の前に取り残されている。


 しばらくしてギルドの扉が開き、中からライナが出てきた。


「おっ、何だったんだ?」


 紅蓮は気になっていた事を聞いた。しかしライナは


「ちょっと来て」


 言うや否や紅蓮の腕を掴み、ギルドの倉庫の中に連れ込んだ。


「遅いぞ、ライナ」


「あなたねぇ、まだ一分も経ってないでしょ?」


 呆れて言うライナを無視し、ジンは紅蓮に視線を向けた。


「紅蓮、ちょっとここに立ってくれ」


 紅蓮は理解できずにジンの言われた通りに壁の前に立った。


「な、なぁ、何か意味あるのコレ?」


 壁に顔を向けたまま聞く紅蓮、しかしジンは答えず真顔で紅蓮の向かいの壁を見ている。


「な、なぁ」


 振り返る紅蓮が見たものは、顔を背けているライナ、そして………


「何だよ、振り向くなよ。まぁいい、痛くはないってか一瞬痛いだけだ」


 そう言って剣をこちらに向けているジンの姿だった。


 紅蓮は何が起こるのか大体予想がついた。


「う……そで……しょ?」


「いや、本当だ」


 戦慄の言葉。紅蓮は力を振り絞ってジンに伝えた。


「優しくお願い」


 しかしジンは


「無理だ」


 即答した。刹那


「狼影斬!」


 振り抜いた剣の一閃から凧糸ほどのジンの闘気が押し寄せる波のように群れをなして紅蓮を襲った。


 紅蓮の連想の通りに凧糸ほどだった闘気は互いに結び合い今では一つの狼になっていた。


「う、わあぁああぁぁあぁあっ!」


 紅蓮は吹き飛ばされ壁に激突した。しかしその程度では威力が収まらず壁を突き破った。


 舞い上がる砂煙。紅蓮は咳き込みながら立ち上がった。


「ゲホッゲホッ、いててて、少しは手加減してよな、ゲホッ、せめて意味を教えてくゲホッれ」


「あ〜意味か、教えてやるよ」


 そういうとジンは紅蓮の足元を指差した。


 釣られて紅蓮は下を見た。すると瓦礫の隙間からなにか白いものが見える


「なんだ、コレ」


 紅蓮がそれを取った。


「……………(ぬさ)?」


「幣だな」


「幣だね」


 ジンとライナも紅蓮と似たような事を言った。


「………ジン、紅蓮のいる左下」


「了解」


 ライナの意味不明の言葉に紅蓮は呆然としていたのに対し、ジンはすぐに意味を理解した。


「えーっと、意識があるなら今のうちに出てこいよ?もう一発撃つから」


 そしてジンが再び構え、技を放とうとした瞬間。


「わああああっ!待って待って待って待って待って!出るから出るから!」


 高い声がし、瓦礫の下から出てきたのは袖が無く、肩・腋の露出した赤い巫女服(彼女自身が別途袖を腕に着けている)というその独特の巫女姿の少女だった。


「……………お前っ」


 いち早く言葉を発したのは紅蓮だった。


「知ってるの?」


 ライナが紅蓮に聞く


「あ、ああ、こいつは…」


 紅蓮が言いかけたとき巫女少女が


「こいつじゃないわよ失礼な、親しき仲にも礼儀ありって言葉、知らないの?」


 予想外の言葉にジンとライナは頭をおさえ


「「………あー、悪い、紅蓮あと頼んだ。知り合いでしょ?」」


「二人して同じことを同時に言うなよ!無責任な」


 この世の終わりを悟ったかの様な悲痛な声で紅蓮は叫んだ。


「いや、だってお前の………なぁ」


「何だよその『間』は!」


 今まで見たことない紅蓮の慌てぶりにジンは心のなかで笑っていた。


「ってかあんた、そこの黒髪の子」


「俺?」


 いきなり呼ばれジンは驚いた。


 巫女少女は呆れた表情を見せ


「あんた以外に誰がいるの!?」


 巫女少女の叱咤にジンは似たような懐かしいような感覚を覚えた。


(あ〜コイツ、あいつと似てるな)


 とジンが思っているとき


「なんでお前がいるんだ?」


 紅蓮の質問に巫女少女はばつを悪くしたような顔をし


「わからない」


 そう、呟いた。


「ってか誰?紅蓮」


 ジンに質問され戸惑う紅蓮


「え?あ、えーっと、どうする?自分で名乗る?」


 すると巫女少女は


「ん?ん〜、うん、名乗る」


 そして一呼吸し


「えーっと、私は泉崎朱雀(せんざきすざく)、紅蓮と同じ…………って紅蓮、言っていいの?」


「んえぇ?ああ、いいよ、知ってるし、ってか俺らより詳しい」


 紅蓮は投げ遣り気味に答えた


「へー、そうなんだ。じゃ話は早いわね、私たちを元の世界に戻して頂戴」


 急に言われた台詞にジン驚いた


「…………普通さ、名乗る序でに言う台詞じゃないよ?」


 しかし、朱雀は構わずジンに質問する


「ねぇ、何処に(ゲート)があるの?さっき調べたんだけど、このギルドの何処にもないし」


「おいおい、無視すんなよ。ってかお前何勝手に人のギルド漁ってんだよ」


「気付いたときにはここにいたから」


「だったら漁っていいのかよ」


「普通はまず、身の回りから手掛かりを探すべきだと思うよ?」


「いや、お前……………はぁ〜」


 噛み合ってそうで噛み合っていない会話にジンは深いため息をついた。


「悪い。紅蓮パス」


 と言い残し、ジンは倉庫から出ていった。


「え、俺かよ」


 紅蓮は泣きたくなったが開き直り、朱雀の方を向いた。


「なんでお前がいるんだ?」


「扉が急に現れて間違えて入っちゃった」


「入る直前は何処にいた?」


「えーっと、リヴァイシス」


「……………昼間か?」


「え、あ、うん、何でわかったの?」


 朱雀は時間帯を当てられ驚いた


「俺も同じところの昼間に扉に突っ込んだ」


 紅蓮は朱雀の表情が変わっていくのがよくわかった。


「やっぱり、リヴァイシスの通りのどこかに扉があるってことね」


 朱雀の台詞に紅蓮は驚きの表情になった


「紅蓮もそう思うでしょ…………ってあんたなんて顔してんのよ」


 驚きの表情のまま固まっている紅蓮を見て、朱雀は呆れた表情を見せた。


「……………いや、だって俺が突っ込んだ扉はリヴァイシスの通りの上空だったんだぜ?」


「それが何?」


 紅蓮の言っている意味がわからず、朱雀は不思議そうな顔つきになった。


「扉は普通、中心から半径二十五mしか範囲がない」


「それがどうしたのよ」


 当たり前の事を話す紅蓮に朱雀は苛ついていた。しかし、紅蓮は敢えてそんな朱雀に聞いた


「じゃあ何故、おま………朱雀がここにいる?」


 お前と言いかけて朱雀に睨まれた紅蓮は訂正して言った。


「それは、私も扉を通ったから……………」


 朱雀は何かに気づいた表情になった。それを見た紅蓮はニヤリと笑って


「扉が動いた」


 しかし、朱雀は否定した


「扉が動くなんてあり得ない」


「でも、そうだとしたら説明がつく」


「それはっ………そう…………だけど………」


 口籠る朱雀、何とか納得してもらおうと考える紅蓮


「………」


「………」


 長い沈黙。


「…………あ〜、悪いんだけどちょっといいかな?」


「その説明。間違ってると思うんだよね〜」


 沈黙を打ち破って言葉を発したのは、さっき出ていったはずのジンとさっきまで居たはずのライナだった。


「え、何処が間違ってるんだよ」


 否定され、戸惑いを隠せない紅蓮。ため息をつき説明を始めたのはジン。


「まず、扉は動かない」


「だったら何で朱雀がここにいるんだ!?」


 紅蓮の怒鳴りにジンはうざったいような顔をして


「最後まで話を聞け」


「いやっ、でも!」


「紅蓮、落ち着きなさい」


 これは、朱雀。紅蓮は朱雀に宥められ落ち着きを取り戻しつつあった。


「んじゃ、続きを話すぞ」


 そういってジンはライナから地図を受け取った。地図を開きながら


「偶然かどうかは知らないが、この世界にもリヴァイシスって国があるんだ。ほら、ここだ」


 ジンが地図の左上を指差す、そこには確かに『リヴァイシス』と書かれてあった


「で、紅蓮君が突っ込んだ扉はこっちの世界のリヴァイシスだと思うんだよね〜」


 ジンの言葉を紡ぐライナ。その言葉に紅蓮は俯いた


「やっぱりな。お前、その可能性を視野に入れてなかっただろ?」


「っ!そんなのわかるわけないだろ!」


「ま、そりゃあそうか」


 ライナは少しため息をつくと


「話が進まないから静かにしててくれる?」


 ジンと紅蓮を睨み付けた


「ってか、俺が話してたんだが」


「なにか言った?」


 ライナは睨んだまま声のトーンを低くして言った


「いや、何も…………」


 ジンはこういう押しに弱かったりする


「まあ、正確にはわからないんだよね。もしかしたら紅蓮君の言う通り、扉が動いたのかもしれないし、紅蓮君達の世界のリヴァイシスで、紅蓮君が何らかのせいで気付かずにこっちの世界のリヴァイシスに着いてしまって、それからまた扉を潜ってこの街に来た。のかもしれない」


 ライナの説明に朱雀は相づちを打った。


「そうね、後半の方がなんとなくだけど納得するわね。私達の世界でも扉が動くなんて聞いたことがないもの」


「だからといって扉が動かないとも限らない。動かないなら一年に一回は誰かが迷い込むはずだし……………」


 男を除いたライナと朱雀の二人で話し合いが行われていた。


 蚊帳の外の二人は、こっちはこっちで女に振り回される辛さを熱く語り合っていたのはあえていわないでおこう。






 ジンと紅蓮はギルドのロビーでライナと朱雀を待っていた。


 しばらくして倉庫の扉が開いた。


「ってことで、今からリヴァイシスに行くことになったから」


「ちょっと待て、どうしてそうなる?」


 ライナにいきなり言われ、ジンは戸惑った。


「それは勿論、扉が動いたのかどうか調べるためよ」 ジンはあきれた顔で


「冗談きついぜ、これ以上タダ働きはゴメンだ」


 しかしライナはジンに囁いた。


「わかった情報をフィズに売れば儲かるんじゃない?」


 ジンはしばらく考えると、ため息をついた


「………はぁ、しょうがねぇな」


 ジンは立ち上がった


 ライナは勝った、という顔をした。そして


「すぐ行くけど、みんな準備出来てるよね?」


 その言葉には皆、ほぼ同時に頷いた。





知っているかもしれませんが念のため


『幣』は『ぬさ』と読みます


巫女が手に持っている白い紙の付いた棒のことです

(わかる・・・かな?)

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