一人ぼっちのアイツ
どうでもいいけど、これ、世界観的にはエイジアンファンタジーなんだぜ・・・!
ユーリが転校してきてからおよそ一週間が経った。
一時はどうなるかと思われた緊張状態だが、極度の緊張状態を人は維持することができない。厳重警戒体勢はものの3日で終わりを告げた。
今では・・・
「おはよーございます!」
朗らかな声と笑顔で挨拶したユーリから視線を逸らす教室の仲間たち。
ユーリは着々とぼっち街道を歩んでいたのであった。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
「ッてゆーか! 笑顔で挨拶作戦が効果ないんですけどッ!」
わざわざ昼寝をしている俺の隣に来て弁当を食べているユーリに俺は渋々ながらも答えてやる。
「警戒心を薄くしていくのが目的だからな。そんな劇的に改善するわけ無いだろ。とはいえ『私は仲良くしたいですよ』ってアピールだけはしておかないと誰も近づいてこないぞ」
「そんな理論はわかってるのよ、ケイト!」
じゃあ俺に何を言えっていうのだ。
シュテンリュッカからの転校生という話は教導院中に知れ渡っているらしく、課外活動も片っ端から断られて放課後校舎裏で泣いていたユーリ。流石に女の子が泣くのは笑えない冗談である。
とはいえ、過去六回ほど課外活動を永久活動停止に追い込んだシュテンリュッカの悪名高さは伊達ではない。
同じクラスの人間は多少慣れつつあるのだが、それでも一歩距離を置くことが多い。結論として俺の保護欲がマックスになる。
「愚痴りたいだけなの。私は!」
「迷惑だ」
はっきりと意思を表明したのだが、ユーリは無言でスルーして弁当をもぐもぐと元気に食べ始める。
ちらりとユーリの容貌を確認する。方ほどまで伸びた鳶色の髪と、猫のような大きな鳶色の瞳。意思の強そうな少し太めの眉。まあ、可愛いと言っていいだろう。
「なによ。じろじろと人のこと舐めるように見て」
「いや、ユーリは美人なのになー、とか思ってた」
「え、なに。どうしたのよ急に」
そう、ユーリは割と可愛いのだ。だがしかし。
「・・・何故、男子すらも距離を取っているのかが分からん」
「私に聞かないでよ・・・」
ユーリはため息を吐きながら食べ終わった弁当を片付け始めた。
「ああ、このまま友達のいない暗い教導院を送らないといけないのかなぁ・・・」
「俺がいるじゃないか」
にっこりと茶化してやると。ありがと、と割と本気で感謝された。いやいやいや。そこは突っ込むところですよお嬢さん。
「うん、もう為るようにしか成らないよね! 諦めた! 真面目に勉強するぞー!」
「そうしとけ。交友関係なんて後からついてくる」
と思いたい。
「そういえばケイト。聞いていい?」
「俺に答えられることなら、なんでもどうぞ」
ユーリは小首を傾げながら質問を口にした。
「どんな授業があるの?」
「初日にしろよ、そういう質問は・・・。だがまあ、そうだなあ・・・」
剣戦闘、槍戦闘、短剣戦闘といった近接技能から攻撃魔術、防御魔術、利便魔術と言った魔術系。野外料理、陣地構築、罠解除と言った冒険お役立ち技術から、何故か政治経済まである王立教導院の制度を説明してやることにした。
いや、本当にあるんだよ政治経済。しかも割とガチな奴。
「陣地構築って何?」
「パーティーで冒険する時はテントとか作ったり火を起こしたりするだろ? それの基礎とかだよ」
「? それって適当にやってれば、慣れて上手になるとかじゃないの?」
わざわざ授業にするほどかなぁ、という疑問を述べてくるユーリ。だが甘い。甘すぎる。
「風上は取らない、平らな地面が必要、火は大きく燃やさず、周囲を照らす程度にし、翌朝方向を見失わないようにする。そもそも周囲警戒のトラップや魔方陣を作成して魔物を寄せ付けないようにする場合もある」
「え、えっと、つまりどういうこと?」
「慣れるまで待ってたら何年もかかるか分からないぐらい覚えたほうがいいことがあるってことだよ。そうじゃなければ授業にまでならない」
なるほど、と納得してくれるユーリ。
まあ王立教導院の授業は教諭陣営がやりたいことをやっているだけという説もある。それでこのクオリティと種類を誇るのだから、大陸一の教導院を名乗るのも間違ってはいないのだろう。
「でも授業選択は迷宮実習課題とかぶらないように気をつけろよ」
「迷宮実習課題って何?」
割と重要な事実なので教諭から聞かされているのだと思っていたが。
「卒業までにクリアしないといけない授業で、4人以上のパーティーを組んで迷宮20層まで踏破するんだよ。必須条件だから全員やらないといけない」
ふーん、と気のない返事をしたユーリの顔が段々と青くなってくる。
「・・・あれ? 私、どうやって4人以上のパーティーなんて作るの・・・?」
その呟きに俺は同情を禁じ得なかった。転校生は辛いぜ・・・。
「まあ頑張れよ」
「うぅぅ、ケイト、一緒にパーティーになってよー」
「あのなぁ、俺にだって付き合いが・・・付き合い、が」
と交友関係を探っていく。
ん、あれ? おや? いやいやいや、待て待て待て待て・・・。
血の気が引いていく。まずい。これはまずい。
「ほら! ケイトもやっぱり友達いないんだ! やった友達がいない友達だ!」
「いっしょにすんな、ぼっち」
かふっ、と吐血しながら倒れるユーリを無視して、自身の友人関係を辿ってみる。その全てが普段はパーティーメンバーを固定して迷宮に潜っている奴らばかりだった。
いつもなら問題ない。彼らのパーティーに混ぜてもらったり、彼らとパーティーを組んだりもありえる。だが最終学年の場合は事情が異なる。
この時期だけは絶対に、イレギュラーなメンバーを加えることはありえない。
「・・・ふむ、よろしくなユーリ。俺とお前は運命共同体だ」
「今さっき自分の言った発言をもう一度思い返してみなさいよ・・・!」
そんなコントなやりとりをしながら俺達の昼休みは過ぎていくのであった。
ユーリが主人公体質。
ダブル主人公もありかもしれない。
一章書き終えたら考えよう・・・。