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噂の転校生さま

この転校生の名前を考えるのに半日かかったのは言うまでもない。

――本日、我が教室に新たな仲間が加わる。


 ヤーティ教諭の発言に教室が静止する。

 全員の心持ちは『待て、何故ここに来て俺達に天災が割り振られるのだ』である。


「微妙な時期ではあるが、本人とシュテンリュッカ典教院からの熱心な希望により実現した。この学舎まなびやは学ぶ意志のあるものを拒むことはない。みなも仲良くしてやるように。ではユーリ君。入りたまえ」


 教諭のよく通る声の後に、教室の前の扉が開かれる。同時に武器を持つものは全員が抜剣ばっけん、剣を持たぬものはブツブツと呪文をつぶやき始める。全員が戦闘態勢をとり、防御呪文を即発動できる状態にすることで身の安全を図っている。

 過去実績からするとシュテンリュッカからの転校生の場合「ご挨拶がわりです」と微笑みながら広範囲攻撃術を発動する確率が9割を超えるのだ。噂ではシュテンリュッカだと出会い頭に広範囲攻撃術の美しさで挨拶するらしいが、多分、真実なのだろう。


 扉から入ってきた鳶色の髪の少女は、教室全体から向けられた敵意に近い目線と教室全体を包み込む、雑談というには無感情にすぎる呪文の群れに若干涙目になっている。


 あれ? 一般っぽい反応だ。


「あ、あの・・・えっと、なにコレ。私いつのまにラスボスになったの・・・?」


 顔を青くしてぷるぷる震える転校生――ユーリとか言ったか――が少し気の毒になってくる。とはいえ、ここで警戒レベルを下げると二年前の焼き直しとなるので、教室全体の集中が途切れることはない。


 そんな殺伐とした教室をぐるりと見渡したヤーティ教諭は、ふむ、と若干硬質なバリトンで頷いた。


「・・・クラスの皆は少しばかり緊張しているようだな」


 教室がどよめいた!


 さすがのヤーティ教諭だぜ! この状況をその一言で切って捨てるのはあんたぐらいだ!


「ユーリ君。まずは自己紹介でもしてはどうかね? 顔も名前もわからぬうちはお互いに緊張もしよう」

「え、えっと・・・そんなレベルじゃない気もしますが・・・とりあえず分かりました」


 ユーリの現状認識能力は高いようだ。


「こんにちは。初めまして。ユーリ・ジーンエイジと申します。シュテンリュッカ典教院から来ました。専攻は火炎系攻撃魔術でした」


 どよどよ・・・! ざわざわ・・・!

 ユーリの顔に『しまった、失敗した』という表情が一瞬だけ浮かぶが、すぐに笑顔で取り繕った。


「卒業までの短い期間ですが、皆さんと仲良くしていけたらいいなと思います。一緒に迷宮攻略しましょうね」


 にこりと微笑んだユーリは魅力的で、もしこれが入学式だとしたら羨望の的になっていてもおかしくはなかっただろう。

 うん。転校という状況が非常に残念だ。


「さて、自己紹介も済んだ所で・・・そうだな・・・どこに座ってもらおうか」


 ざわざわと教室が再びうごめいた。

 うーん、とりあえず出会い頭の爆発呪文がなかったんだから、ここまで警戒しなくてもいいとは思うのだが。やり過ぎるとイジメと変わらないわけで。


 仕方ないので助け舟を出す。


「先生。俺の隣が開いています。不思議なことに」

「ふむ、ケイトの隣か。ではユーリ君。あそこに座りたまえ」


 ユーリは「はい」と答えて俺の隣の席に座る。そして、周囲に3尺ほどの人のいない空間。ユーリの表情は強張りを通り越して泣きそうになっている。


「ふむ。転校生に緊張して話しかけられないとは。皆、まだまだ若いな」


 はっはっはと素敵低音で笑うヤーティ教諭。現状認識能力はユーリよりも低いことは確かのようだ。

 横目で様子を伺うと『転校失敗したなぁ、イジメとかきついなぁ・・・』という顔をしていた。

 そりゃそう思うわな。


「(ユーリさん、ユーリさん)」


 こっそりとユーリに声をかける。


「(はい、えっと・・・ケイトさん?)」

「(ケイトでいいよ)」

「(じゃあ私もユーリで)」


 にこっと、ユーリは愛想笑いを浮かべた。

 上等。笑顔を作れるうちは虚勢だろうが、まだ平気な証である。


「(で、誤解を解かせてもらってもよいかね)」

「(誤解、ですか?)」



 そう、教室の皆がただの可愛い女の子をここまで恐怖する理由ワケを・・・!



 話は二十年前に遡る。

 シュテンリュッカの教育方針についていけなくなった、ということで半ばドロップアウト気味に王立教導院に転校してきた生徒がいた。そんな彼女を暖かく迎えようと、転校先のクラス一丸となって歓迎会をサプライズで実行したそうだ。

 彼女が教室に入ってくると同時に、色とりどりの光魔術と笑顔で迎えたらしい。

 それはそれは心温まる光景だったそうだ。

 そこまでは(・・・・・)


 人形のように背が小さくて細い、可愛らしい少女だったその転校生は、王立教導院の温かい出迎えに感動して『最上級の親愛を込めた挨拶』を行った。


 爆音と共にどのような果敢無はかなくも美しい弾幕プレゼントが披露されたのか。いまや誰も真実を語らない。だが、1クラス32名の(それも一般人と比較すれば格段に頑丈なはずの)冒険者が根こそぎ全治一年の大怪我を負うことになったことだけは記録に残っている。


 以来、同様のことを恐れた教導院側が必死に対策を取るも、シュテンリュッカからの転校生は実にその9割が過激な親愛表現を、挨拶がわりにするのであった。



「(・・・という話)」

「(現状は把握したけど。私にどうしろと・・・)」


 ユーリは頭を抱えていたが、そんなんは俺だって知らない。ただ、恨むなら皆じゃなくて先人を恨んでね、ということだけ。


「(シュテンリュッカの悪癖なのよ・・・。自分基準で相手も魔術が使えると勘違いしているのが多いから。相手も簡単に防げるよね、という認識なの。馬鹿でしょ? 馬鹿だよね。馬鹿だと思ったのよ・・・)」


 色々と複雑な過去モノを背負って転校してきたらしい。


「(まあ、そんなわけでさ、ユーリ。多少、距離が開いてるのは諦めてね)」


 ユーリががっくりと机に突っ伏した。


「(おかしいなぁ・・・。こっちでは友達百人目指してたのになぁ・・・)」



 ユーリは割と可愛いこと考える子なのだな、という感想を抱いた俺であった。




他人に期待してはいけない3つのこと。


1,自分と同じ能力

2,自分と同じモラル

3,自分と同じモチベーション


勘違いした瞬間から、すれ違いが発生する。

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