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封鎖された迷宮

入る前にね!


 初めて迷宮に挑んだ俺達のちぐはぐパーティーもそれなりの体裁を整え、思い出深い十階層も乗り越える頃には既にひと月ほど経過していた。周囲が十八階層あたりの攻略で盛り上がる中、俺達はオークの落とした魔晶石で祝杯あげていた。


「そういえば気になったんだけどさ、カグラ」

「なんだ? ユーリ」


 魔導研究に必要な素材を交換できるとかで上機嫌なユーリがカグラに質問を始めた。


「四人で迷宮探索してもこれだけお金が手に入るんだから、単独で迷宮に挑んでたカグラっていくらぐらい貯金あるの?」

「貯金はないな」

「え」


 俺はその辺の真相を知っているので黙っている。実際、カグラ名義の口座には大した金額は入っていない。


「金は稼げたが、ほとんどが装備代に消えた。特に睡眠用の警戒結界とかが高くてな。一人だと魔道具とかに頼らないと行けない場所が多いのだが・・・まあ金はかかるんだ」

「なるほど・・・」


 ちなみにパーティーで同じ階層に潜っているよりは儲かるが、割にあわないぐらいに高価な魔道具だとだけは言っておく。俺も予備のために二、三個持っているが、笑えない出費であった。



「じゃあカグラにはたかれないね・・・ちら」

「なんだその目はユーリ。言っておくが俺も大して金はないぞ」


 オージン先輩の王族とは思えない発言にユーリがうさんくさそうに半眼で睨みつける。が、こちらも俺はからくりを知っているので無言で静かに茶をすすっていた。


「エライ人なのに」

「偉い人でもお金はないのだ。俺の場合は放蕩をやめさせたいのか学費以外は出来る限りで金絞ってくるからな、実家が」

「学費払ってもらえれば十分じゃない」

「その通り。その辺りが実家の間抜けなところというか。曲がりなりにも冒険者になろうとしてるなら、この程度、締め付けにも何もなっていないんだよな」

「学費絞るほうが早いのにそれは面子でできないんでしょうね」

「まあ、ケイトの言うとおりだな。やんごとなき御方を学費を渋って勉強させないなんてとんでもない! でも、とっとと野蛮な学校はやめてほしい、とかそんな感じなのさ」


 オージン先輩は苦笑しながら魚の香草焼きを完食した。


「生活費は苦しいが、本の虫をやっている分には困らん。ここは図書館が大きいからな」


 真面目に本を買い漁れば冒険者見習い程度では一瞬で破綻するのだが、王立教導院の誇る大図書館の蔵書を主体にするならば、学生の身分でもそれなりに楽しめる。オージン先輩は教導院性としての生活を大いに満喫しているというわけだ。留年してるくせに。


「で、ケイトは」

「人並み」


 俺はユーリの問いかけにお茶を濁しておくことにする。

 そんなに隠す程でもないが、ちょっと恥ずかしいので言わないのであった。


-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=



翌日、準備を整え迷宮探索に挑もうとすると、迷宮の入り口で学生たちが集まって騒然としていた。


「入れないってどういうことだ!」

「聞いてないぞ!」


 などという怒号が飛び交っているので、まあそういうことなんだろう。

 対応をしているのはグェン教諭。男子から妙に人気のあるヤーティ教諭とは違い、どちらかと言えば女子に人気のある若い教諭であった。


「ですから、急遽決まったことです。ターロン教頭の命令で迷宮の調整を行うことになったんです」

「いつまでだよ!」

「それまで迷宮に入れないの!?」

「グェン教諭ー付き合ってー!」

「作業完了は今から一ヶ月後ですが、作業完了次第、上層から順次開放していきますので、ご容赦ください。あと、教導院生とは付き合えませんのでごめんなさい」


「「「えー」」」


 あのパーティー仲良さそうで楽しそうだな。


「仕方ない、自主訓練にするか」

「だな」


 俺とカグラは早々に諦めて帰る気まんまんであった。



「あら。あらあらあら。これはこれは奇遇ねケイト。どうしたの、元気に負け犬やってるの? 死ぬの?」


 横暴極まりない声をかけられたのは、そんなタイミングであった。


「シーラ。何故出会い頭でそこまで他人を罵倒できるんだ・・・」

「ただの挨拶よ。二人の仲なら当然でしょ?」


 艶然と微笑むシーラ。

 既にオージン先輩とユーリは楽しそうに喋りながらこちらに一瞥もくれずに逃げ出してた。あいつら・・・。


「あーケイト君だ。お久しぶり!」

「お、お久しぶりです」

「・・・」


 元気に挨拶してくれたのはルーシー。シーラほど虐めを生きがいにはしていないものの、大概に嗜虐趣味。ただその点を除けば可愛いだけの緑髪の少女である。おどおどしているのはリコ。よく知らないけど、こんなに可愛い生き物が女の子なわけがないので、多分少年。(でも間違えたら可哀想なので一応どちらとも断定せずに接している)

 最後に片手を上げるジェスチャーだけで答えてくれたのがクルス。相変わらず寡黙な奴である。鎧の中身は見たことないので知らない。声も実は聞いたことがない。


「お久しぶりルーシー、リコ、クルス。相変わらず破滅的な弩Sパーティー楽しんでそうだな」

「その評価は何ですか!?」


 リコが涙目で叫んでくるが、俺としては学年の総意を述べたまでである。


「ケイト君もつれないよね。どうせ浮き球になってたなら私達のパーティーに来ればよかったのに」

「そうすれば虐めることができたって? 冗談じゃない」

「あはははは。私はシーラじゃないからそんな事言わないよ? 揶揄(からか)いたいだけ」

「・・・ルーシーに(いじ)られるとドキドキするから止めてくれ」


 ルーシーは恋愛的な意味で俺を(もてあそ)ぶので勘弁してほしい。時々15歳という年齢相応な反応を返してしまい笑われるのだ。中身が割合おっさんなので反動のダメージはそれなりに大きい。


「あら嫉妬。えい」


 おもむろに攻撃された俺とリコはシーラが光球を厨二浮かべた瞬間に回避を行なっていた。自分のことを棚に上げて言うが、リコって子も大概、回避能力高いよな。


「え、あの。なんで今の会話で私が攻撃されました・・・?」

「え。なんであなた虐められていることに今更疑問を持っているの?」

「そこを疑問に思っちゃダメなんですか!?」


 涙目で抗議するリコが恐ろしく可愛い。いや、これが女の子だったらパーフェクトな生き物すぎる。納得がいかん。少年説にまた有力な証拠が積み上がったのであった。


「相変わらずそういう動きはソソるよね、ケイト君」

「止めろルーシー。ケツを撫で回すな」


 ルーシーが尻を撫で回してきたので逃げ出した。本当に止めて欲しい。最終的にシーラの暴虐の被害をうけるのは俺なんだから。

 シーラからの視線が冷たい冷たい。本当にフォローとかどうしようかね。


「ねえ、ケイト」

「なんだシーラ。今日も美人だな」

「ありがとう、ケイトは今日も弱そうね。子犬のように保護欲(しぎゃくしん)が湧いてくるわ」

「おい、今ルビが不穏当じゃなかったか?」


 おべっか作戦が大失敗した件について。


「今度本格的にお話(・・)しましょう。大丈夫。二人っきりよ。どんなことでも出来る状況にしておいてあげるから」

「ソレは俺が全く安心できないんだが・・・まあ、そのうちな」


 どうしてこうシーラは死刑宣告が上手いのか。迷宮探索用に真っ当な錫杖を持っているが、あれが鎌だったとしてなんら違和感がないのが恐ろしい。




 嵐のようなシーラ一行が過ぎ去った後にカグラが顔を赤くしていることに気づいた。


「どうした、カグラ」

「いや、ルーシーが羨ましい・・・」

「お前も俺の尻を狙っているというのか・・・!」



 無言で否定もせずにこちらを睨んでくるカグラに俺は戦慄するのであった。



おまたせしました。最新話でした。

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