第五階層から始まるみんなのダンジョン
冒頭のシーンを思いついた瞬間に書かねばならないと思ったけど、その後のことは何も考えないで書いている。
ゴブリン の群れが現れた!
ユーリは呪文を詠唱した。
ケイトは周囲を隙なく見渡している。
オージンは雄々しく敵に立ちはだかった!
カグラの先頭に踊りでた!
カグラの上段斬りはクリティカルヒット!
ゴブリンAに176のダメージ。
ゴブリンAをやっつけた。
カグラの水平斬りはクリティカルヒット!
ゴブリンBに136のダメージ。
ゴブリンBをやっつけた。
カグラの袈裟斬りはクリティカルヒット!
ゴブリンCに152のダメージ。
ゴブリンCをやっつけた。
カグラは鋭い直突きを放った。
直突きはゴブリンDの急所にあたった!
ゴブリンDをやっつけた。
ゴブリンの群れをやっつけた!
50オーロの魔晶石を手に入れた。
仲間は呆然としている。
五階層のメインであるゴブリンを瞬殺したカグラは軽く深呼吸をして、と爽やかな笑顔を浮かべた。
「うん、ストレス解消にはなるな」
「この蛮族!」
すぱぁんと、快い音を立てて俺のツッコミがカグラの後頭部に吸い込まれる。いい音させやがって、流石は考える脳みそを捨て去っただけはあるぜ。
「な、何をするんだケイト」
「ええい、お前は今回の冒険の目的を何ら理解してやがらねえ!」
「・・・いや、このパーティーの慣らし運転なんだろう?」
何が間違っているんだ、と真剣に悩んでいる様子のカグラ。大丈夫なのか、こいつ。
「連携の確認とか様子見とか色々あるだろうが。何を特攻してるんだ、お前は」
「私が斬った方が早いじゃないか」
カグラが憮然とした表情を見せる。
「師匠に習ったことは『魔物を前に余裕など見せるな。全力で殺せ』だ。ゴブリンなんて見た瞬間に切り捨てるのが正解だろう?」
間違っちゃいないものを否定するのは心苦しいが、ここはあえて心を鬼にする。カグラちゃんが道を間違わないように!
「カグラ。両手を前に出して見て」
「む、こうか?」
素直に差し出した両手を素早くロープでグルグル巻きにする。
「・・・これをどうするんだ?」
「六階層に行くまで見学に徹しなさい」
「見学と言うには少しひどくないか、これ!?」
隙を見せると即抜刀しそうなので仕方がない。
「しばらく俺達の動きを見て、自分がそこに混ざるイメージで考えなさい」
「混ざろうがなんだろうが先頭に踊りでた自分の判断は間違っていないと思うのだが」
28層までソロで潜るような奴なので、実際に桁外れの戦闘能力を持っているのは確かである。レベル10ぐらいのパーティーに一人だけレベル30とかが混ざっている感じ。
「とりあえず次の戦いではユーリの魔法が発動するように頑張ろう」
「了解」
「頑張る」
「・・・いや、魔物の徘徊する迷宮で両手を縛るとか鬼畜にもホドがあるだろう」
カグラの半眼の訴えは棄却して、五階層の奥へと進む。
「そういえばケイト、ここの地図とかってないの?」
「今回は練習なので持ってきてません。というか普通は地図なんてないので、そういうのに慣れてしまわないようにするのが大事」
「そうなの?」
ユーリの質問にオージン先輩が答える。
「理由は簡単でな。地図ってのは非常に高価なのさ。その迷宮の地図を作るだけで何人もの人間が死ぬことになるから自然と値段も高くなる。完成した地図は非常に高いから、自分たちだけで独占したい、となると自分の手持ちの情報を売る奴もいないってわけだ」
「そんなに高いんだ」
「精度にも依るが、まあ1000オーロは堅い。ものによっては10万オーロで売れる地図もあるとか聞いたことがある」
「じゅ、10万ですか・・・」
ユーリが目を剥いているが俺も初めて聞いた情報だ。さすがはオージン先輩。無駄に学生を長くやっていることだけはある。
「まあ、そんなわけで今回は地図に頼らない探索をしようというわけだな、リーダー?」
「そういうことです」
そうだったのか、とカグラは両手を縛られたまま納得している。俺がやっておいてなんだが、それでいいのかお前は。
「と、そんなことを話している間にお客さんだぜ?」
オージン先輩が身構えるのと同時に、通路の奥から3匹のゴブリンが現れた。
「じゃあ、オージン先輩、ゴブリンを惹きつけてください。俺は遊撃、ユーリは攻撃魔術を頼む! カグラはお座り」
「了解」
「わかったわ!」
「え、こ、こうか?」
オージン先輩が一歩前に進み、ユーリがその後ろで詠唱を始め、カグラがおろおろとその場に正座した。冗談のつもりだったのだが、まあ若干頭が弱そうに見えて可愛いからいいや。
飛びかかってくるゴブリンをオージン先輩は盾で弾き返し、槍で牽制する。俺は厚手のナイフでゴブリンの一匹に切りかかっていく。
「六門を満たせ。虚ろの海。砕き風。下りて天元の灯よ」
妙にしっかりした構成の呪文に少し違和感を覚える。シュテンリュッカ典教院の生徒なのだから、無詠唱に火球の呪文ぐらい唱えられそうなものだが。そんなことを考えながら、ゴブリンのナイフを弾いて、その腹にナイフを突き立てる。悲鳴を上げるゴブリンを直ぐに蹴り倒し、安全な距離を確保。それでも終わらぬ詠唱。
「繋ぐ環。詠唱えて三度。燃えよ。燃えよ。燃えよ」
ゴブリンを再び盾で弾いたオージン先輩を朱色の明かりが照らし出す。炎で描かれた直径4尺程の魔方陣が空中でゆるやかに回転している・・・って、ちょっと待て。
「ちょ、おま・・・っ!」
「紅蓮燐歌」
紅蓮の炎が世界を包む。まごうことなき広域攻勢呪文!!
おすわりしているカグラがぽかんとしているのが記憶に残った初めてのパーティーであった。
ばかなー。
*****迷宮探索レポート*****
探索階層:
五階層
探索結果:
前衛が(後衛魔術師の友軍誤射による)負傷したため、撤退を行ったので、探索済み階層の進捗はなし。
先生から一言:
迷宮探索では後ろからの攻撃にも咄嗟に対応できなければいけない。
初めての背面強襲が仲間で良かった、と考えられる。
ケイトはスカウトなので、一番そういうものに気をつけるべき。
担当教諭 ヤーティ
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ケイトは無茶言うなーと怒ったとかなんとか。