初めてのパーティー
レッツパーリー的な意味で。
迷宮の前で腕を組みながら俺が待っていると、いかにも魔導師らしい紫のローブと、羽飾りのアクセントが少し可愛い帽子をかぶったユーリがやってきた。
手には長柄のステッキ。おそらく魔術杖なんだろう。
背中には小型の背嚢と・・・大きな鍋。中華鍋のような形を想像していただければいい。
「おはようユーリ」
「おはようケイト。・・・で、私が背負ってるこの鍋について説明が欲しいんだけど」
「ん? 迷宮内で保存食しか食べないって言うなら持ってこなくてもいいけど」
言うまでもなく調理用である。
俺の回答に不満だったのか、ユーリが頬を膨らませた。
「用途は流石にわかってます。なんでパーティーメンバーで一番、力がない私に持たせるのかと聞いているんですけど」
「理由は二つ。一つ目は、前衛は魔術師よりも重い装備を着込んでいるから。二つ目はそれを背負ってるだけで防具代わりになるから。何か質問は?」
「う、ないです」
そこそこ厚い鉄板を背中に背負っているだけで背中からの攻撃をあまり気にしなくていいというのは大きいのだ。
「えっと、後の二人は?」
「オージン先輩は多分遅れる。常識的な範囲内だけどね。カグラは定刻通り以外期待するな」
なんじゃそりゃ、とユーリの視線が物語っていたが真実なので他にいいようがない。
明けの鐘からジャスト半刻。カグラがその姿を現した。
鉢金にポニーテイル。いつもの和装の上からブシドー装備を着込んだ姿だ。相変わらず凛々しい美少女である。
「おはよう二人共」
「おはようカグラ」
「おはようございます」
カグラはやってくるなり背嚢をどさりと地面においた。
「パーティーになったら持っていく荷物が減るかと思ったのだが、そうではないんだな」
「ソロで潜ってるのに小型の背嚢だけで済ませてるお前がおかしいんだよ。まあ、今回は初めてパーティーということで様子見ということもある。次回からは様子を見て荷物は減らすさ。昇降転移陣もあるから本当はこんなに荷物いらないしな」
「それは助かる。私はこういう大きいものを背負って戦いたくないんだ」
戦闘中もそんなもん背負う必要はないのだが。
こいつ本当に授業中何をやっていたのだろうか。
「肩のところにスイッチあるだろ。それを押せば肩紐が全部はずれる」
「それは・・・中の荷物がダメージを受けるんじゃないか?」
「だから割れ物を運ぶような時は使えないな。まあ、大きい荷物は地面に落としてから戦うことも可能だってこと」
もちろん信用できるパーティーメンバーがいないときなどはこのワザは使えないし、足場の悪いところでこれをやると転げ落ちることも有りうる。
「なんというか、ままならないな」
「まあ、無補給でいかないとダメな迷宮もあるわけで。諦めてくれ」
と、カグラとユーリに荷物関係のあれこれを説明している間に、オージン先輩がやってきた。がっしりとしたプレートメイルと大きな盾、短槍と大きな背嚢を背負った姿だった。
「よう、ケイトと美しいお嬢さん方。悪いな、待たせた」
「おはようございます」
挨拶を済ませて、もう一度先輩の全身を見渡す。
「言われたとおりに完全装備で来たが、そんなキツイ行軍するつもりないんだろ?」
「最初の一回でできる限り練習しておきたいな、と思いまして」
「了解。そのへんはリーダーどのに任せる」
俺がリーダーだったのか。(肉体年齢的には)年長者のオージン先輩に丸投げするつもりだったのだが。
「じゃあ、とりあえず迷宮探索の申請を出しますか」
メンバー全員が揃った状態で、迷宮前の詰所に顔を出す。
たったそれだけの話だが、これをやらないと公式記録にはならないのだ。
受付のおじいちゃんはニコニコと笑って申請を許可してくれた。
「さて、では迷宮に行きますか」
と、俺。
「真面目にパーティーするの初めてだ」
カグラは割と楽しそうに。
「緊張します」
ユーリは少し硬く。
「適当にやるかねぇ」
オージン先輩はゆるゆるだった。
僕達の冒険は始まったばかり――!
いやいや、終わってないですよケイトさん。