職員会議の様子
一応、冒険を開始する前に後2話ほど。
もうしわけない。迷宮モノなのに迷宮に入るまでこんなに時間がかかって申し訳ない。
学院の中を偉そうに肩をいからせて進む姿がある。
白髪交じりとはいえ、壮健な体つきをしたその男の名はターロン教頭である。校長が実質不在なこの王立教導院における最高権力者である。
その、ただ事ならぬ様子にすれ違う人々は戦々恐々としながらも、通り過ぎた後に『ああ、私は無関係だったか』とほっと胸をなでおろしていた。
ターロン教頭はそのまま真っ直ぐに職員会議をしている部屋の前まで行き、扉を開けた。中には既に他の教諭たちが揃っている。
「すまない。遅れた」
一言だけそれを告げて、そのまま着席して、客員に配布されている議題目録に目を通していく。
「さて、それでは会議を始めましょうか」
議事進行役の教諭がそう言ったが、教諭は片手を上げてそれを制した。
「待ちたまえ。その前に確認したい点が一点ある」
教頭は円卓の端で呑気に茶を飲んでいるヤーティ教諭に目を向けた。
「ヤーティ教諭。最終学年の全員が固定パーティーを作ることができたと聞いたが、本当に全員なんだろうね?」
「ええ、間違いなく。光帝シーラからオージン・アーバンクラインまで。それなりに東奔西走しましたが、なんとか今年は最終課題開始前の脱落人数を0人に抑えることができました」
友達が少なくて四苦八苦していたのはケイト達だけではない。昨年の留年者達の仲にも固定パーティーを作れずに留年と相成った人間が何人かいたため、この問題にヤーティ教諭が対処していたのだ。
(ちなみに東奔西走の部分は彼なりの冗句なのだが、もちろん笑う人間はいない。笑いどころがさっぱり分からないからだ)
「それ自体は喜ばしいことだがね、ヤーティ教諭」
「はい。何か問題でも?」
「オージン・アーバンクラインだけは別だ。彼がこのパーティーで挑むことは許可が出来ない」
一学生に対する介入に職員たちが絶句する。教頭ともなると、そこまでの暴権を振りかざすことが出来るのかっ。
「冒険者の自主性は常に保たれるべきです。ことが交友関係ならば尚の事。耄碌しましたかターロン教頭」
職員全員の驚愕の視線をその身に受けて、同様の欠片もないヤーティ教諭。ざわざわし始めた周囲の空気をものともせずに、言葉を続けた。
額に(比喩表現ではなく)青筋を浮かべたターロン教頭が重々しく口を開く。
「極めて政治的な話をしていたつもりだったが、ヤーティ教諭。君がそんなにも、この教導院の方針に納得がいっていないとは思いもしなかったがね」
「まぁまぁまぁ」
二人の険悪なムードを遮るようにグェン教諭が立ち上がった。
縁無しのメガネが妙に似合う、若い黒髪の男である。
「ターロン教頭が危惧されているのは、妙な輩がオージン様の懐に取り入ろうとしているのではないか、ということですよね? ですが、彼の御方の交友関係はパーティーを作る前の段階で篩にかけられています。お側付の方がいますしね。つまり、そもそも危険人物なんてあの方の側にはいないんですよ。・・・ということでよろしいですか、ヤーティ教諭?」
「光帝シーラは割とどうかと思いますが、概ねはその通りです」
過去の『おっぱい無礼討事件』を思い出して、ヤーティ教諭は苦い顔をした。あの事件を見過ごす時点で、交友関係チェックは割とザルと言うか、王族と言うことを特に気にしなくてもいいのではないだろうか、というのがヤーティ教諭の判断であるが、あえて口にはしなかった。
「パーティーの人員の人柄についてはヤーティ教諭が保証してくれると思いますが、ターロン教頭。これで問題がありますでしょうか?」
「む。・・・まあ、そこまでいうならば」
教頭は唸った。
「自主性を重んじるというのは分かる。だが、出来れば迷宮探索中にも護衛を付けたいぐらいなのだ・・・」
ヤーティ教諭が普段は絶対にしないような苦い顔をする。
「ああ、言わずとも分かっている。ヤーティ君。仮にも冒険者を排出する王立教導院だ。そこまでの勘違いはせんよ。事前の問題はできるだけ排除したいがね」
「生徒オージンにそこまで過保護になる必要はなさそうですが」
「まぁまぁまぁ」
尚も反論するヤーティ教諭をグェン教諭が収める。
「えー・・・では、職員会議を開始させて頂きます」
議事進行役の教諭がなんとか話を元の流れに戻した。
王立教導院の職員会議は続いてゆく・・・。
割と重要なシーンのはずなのに、書くのが面倒なシーンでした。