出国前夜
旅をしようと思ったのは、彼女が世界へ出たからだった。
失恋とか虚無感とか、大げさなものではない。
「また会おうね」
そう言ってくれた。だから旅に出る。
出国前夜、仲の良い友人と東京の夜景を見下ろせる店で食事をしていた。
ガラス越しの街はいつも通りだった
「ほんとに明日からリュック一つで行くの?
どこまで行くとか決めてるの?」
グラスを揺らしながら、友人が覗き込むように言う。
「行くよ。キャリーは邪魔だし、盗られたら面倒だし。
とりあえずアジアからかな」
「へぇ、相変わらず突発的。まぁ零くんらしいね」
友人は笑って、グラスを置いた。
「じゃ、久々に朝まで付き合ってよ」
友人はいつも通りだった。
止めるわけでもなく、特別に何かを言うわけでもない。
僕たちはそのまま夜の街へ向かった。
気が付けばお昼を過ぎていた。
「やば、今何時だ...」
目が覚めたとき、天井が少しぼやけて見えた。
頭が重い。
昨日の記憶は曖昧なまま、リュックだけベッドの横に置かれている。
適当に顔を洗って、準備していた荷物を肩にかける。
確認したような、していないような感覚のまま家を出た。
タクシーを呼ぶと、朝の空気が少しだけ冷たかった。
走り出した車の中でスマホを開くと、見慣れた名前がひとつだけ光っていた。
[やっと旅するんだ。はやく見つけてね]
彼女だった。
返信を打とうとして、やめて、また打ちかけて、やめる。
そんなことをしているうちに空港に着いていた。
ターミナルに入った瞬間、空気が変わった。
人の数が増えた。
また、日本語、英語、中国語 ..言語も一気に増える
長い列を並び、搭乗券を受け取る。
そのまままた別の列に吸い込まれていく。荷物検査だった。
気づけば、もう一時間近くが過ぎていた。
搭乗までの時間は思ったより短い。
軽く何かを口にして、スマホに入れた動画をぼんやり確認する。
気づいたときには、呼び出しのアナウンスが流れていた。
機内に入ると、隣の席だけがぽっかり空いていた。
少しだけ肩の力が抜ける。
最後にスマホを機内モードにする前、返信を打った。
[すぐ見つけてやる]
機体がゆっくりと動き出した。
低いエンジン音が、少しずつ体の奥に響いてくる。
窓の外の光が、滑るように後ろへ流れていく。
加速が増すにつれて、シートに背中が押しつけられ、身体に緊張が走る。
機体が斜めに傾く一瞬、身体が浮くような感覚があった。
主人公の零について
元経営者現ニートの20代。
性格は基本的にフラットで、思いついたら動くタイプ。
人付き合いは広いが、友人と呼べる人は少ない。
彼女との再会のため、旅をすることにした
ここまで読んでいただきありがとうございます。
更新はゆっくりになりますが、彼の旅の続きを気楽に見てもらえたら嬉しいです




