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続編のない短編達。

勇者の妹は結婚したい!!

作者: 池中織奈
掲載日:2026/05/11

「本当に行くのかい?」



 私、ミゾラは村のおばあさんからの問いかけにこくりっと頷く。

 この度、私はある目的のために村を出て旅をすることにした。赤ん坊のころから私を知っているおばあさんが心配そうにしている理由にこころあたりはある。



「うん。だって、お兄ちゃんが居ないうちに行動しないと結婚なんて出来ないもん!」



 そう、私は結婚がしたいのだ。だけれども、お兄ちゃんが過保護すぎて、私のことが大好きすぎたために恋人の一人も出来たことがないの。



 両親を亡くした私にとってたった一人の家族で、お兄ちゃんのことは大好きだよ。優しくてかっこよくて自慢のお兄ちゃんではある。でもね、いい加減妹離れをしてほしいなとは思う。

 私のことが大切だから、相手に求める理想が高いことも分かるけれど。そんなことを言っていたら私は結婚なんて出来るはずがないの。





「勇者としての責務を終えたスイガがあんたが結婚したなんてことを知ったら卒倒するんじゃないかい?」

「そんなの関係ないわ。だって、お兄ちゃんが私を連れて行ってくれなかったんだもの」



 私のお兄ちゃんは、つい先日旅に出たばかりである。それも勇者なんてものに選ばれてしまったから。




 時折、魔王と呼ばれる存在がこの世界には生じる。そしてその際に勇者が選ばれる。まさかうちの兄が選ばれるなんて全く想像もしていなかった。

 しかし兄は選ばれた。




 お兄ちゃんは私と離れることをとても悲しんでいた。私はお兄ちゃんのことが大切だから、一緒に旅に行けたらって思っていたの。それなのに、お兄ちゃんってば危険な旅に私を連れていけないんだってそう言って置いていったの。

 お兄ちゃんは凄く強いから、私が一緒についていっても問題ないはずなのに酷いよね。

 私だってたった一人の家族が傷ついたりするのが嫌だから、一緒に行きたかったのに。




 だから、私はお兄ちゃんに意趣返しすることにしたの。元々私は、誰かと恋人になったり、結婚したいなって思っていた。

 でもお兄ちゃんが邪魔ばかりするから全然出来なかった。




 ――だからね、お兄ちゃんが旅をしている間に私は婚活の旅をするの! お兄ちゃんのことだから魔王討伐も簡単に終わらせてしまうだろう。だってお兄ちゃんだもん。



 だから早く婚活の旅に出なければならないのだ!! お兄ちゃんが帰ってきたらそんなことは出来ないし。




 そういうわけで私は村を出ると良い男探しの旅をすることにした。

 私は村から出たことって全然ない。お兄ちゃんと一緒に近くの街に行くことはあったけれどそのくらいだった。




 そう考えると私って結構世間知らずなのかも。お兄ちゃんが沢山のことを教えてくれたし、ある程度戦えるからどうにでもなるはずだけど……女性の一人旅は危険もあるってきくからちゃんと警戒しないと。

 私の身に何かあったりしたら、お兄ちゃんは絶望しちゃう! 私のことが大好きでたまらないお兄ちゃんは私がもし仮に旅の最中に亡くなりでもしたら、大暴れしそう。



 うん、想像が出来る。

 だからこそ私は死んだりしたら駄目なの。

 そんなことを考えながら私は旅を始めたのだった。




 旅は時折危険なこともあったけれど、特に問題は起こらなかった。冒険者登録をして旅の資金は基本的にそこで稼ぐことにしていた。私は魔物討伐なども出来るけれど、結婚相手を探している身なので、なるべくしおらしく過ごすようにしている。



 私の年頃の少女が魔物をなぎ倒していると、引かれてしまったりするの。私はお兄ちゃんと一緒に昔から魔物討伐をしたりしていたからか、戦える方なのだもの。

 だからこなしている依頼は雑用が多い。冒険者ギルドは所謂何でも屋みたいなところなので、様々な依頼があるの。ただ冒険者って、基本は魔物討伐を目指したりするみたい。私もね、一人で雑用依頼を受けていたら「俺達とならば魔物討伐も出来るよ」などといって誘われることもあった。



 正直言って私の方が強いし、そんな誘いに乗る気もなかった。



 私、結婚するなら出来れば強い人がいいな。物理的にか、精神的にかどちらかは強くないとお兄ちゃんが帰ってきた時に認めてもらえないもん!

 私はね、お兄ちゃんが居たら結婚できないって思ってこうして行動をしてはいるけれど、そのままお兄ちゃんに二度と会わないままにするとかは思ってないんだ。それに結婚するならお兄ちゃんにちゃんと認めてもらえる方がずっといい。

 そう考えると条件が難しいのは分かっている。




 だってお兄ちゃんって、怒ったら怖いだろうしね。私が結婚相手でも連れてきたら全力で審査するだろうし。




 そんなことを思いながら私はぶらぶら旅をしている。

 その間に男性陣との出会いは多くあったよ。色んな人と出会って、沢山の経験をした。




 例えばある冒険者の男性とは、薬草採取の時に出会った。その人はそこそこ見た目がよくて、薬草の知識も凄くあった。だけどある時、私がね、魔物を退治したら怯えちゃった! 私の強さを認めてくれない人は駄目だよね?


 例えばある図書館の職員の男性。少しおどおどしていたけれど、いざという時にはちゃんと迷惑な来観客に注意をしたり出来るタイプだった。中々見どころはあるなって思った。でもその人は他に好きな人が居た。しかも両想いだったから、寧ろ手伝った。


 例えば獣人の男性。虎系の獣人で、滅茶苦茶ワイルドでかっこいい人だった。女性も好きだったみたい。女遊びも結構していたね。ただ本能で私の強さを感じ取れるのか、私のことは口説いてこなかったの。なんか手を出したらいけない気がしたらしい。


 例えば道中で盗賊に襲われていた貴族の男性。私のことも口説いてきて、悪い気はしなかった。ただ婚約者がいることが発覚した。平民である私のことを愛人にしようとしたみたい。結局断った。確かに平民だと正妻に出来ないとかあるのかもとは思った。


 例えば武道大会の優勝者の男性。国内でも強い分類で、戦える女性のことも受け入れるって言っていた。ただ私が何でもかんでも一人で出来るタイプなのを知って、可愛くないと思われてしまった。


 例えば精霊の男性。長寿である彼は人族の女性にも関心を持つ性格だった。何人かの女性と交わり子供を成したこともあるらしい。私に関心を抱いていたが、私は自分以外の女性を見るのは耐えられない。ちなみに私がお兄ちゃんの妹だと知って、手を出すのをやめたみたい。そういう意気地なしは駄目だよ。


 例えばはぐれ魔族の男性。これは魔王とは別物。人族を滅ぼそうとしている魔族も居るけれど、ただ生きているだけの魔族。見た目は好みの方だったけれど、その男性も私がお兄ちゃんの妹だって知って駄目だった。




 というかさ、私のお兄ちゃん凄すぎじゃない?

 勇者として活動し始めてすぐにこう、強さとか恐ろしさとかを周りに知らしめさせているんだよ。びっくりだよね?




 お兄ちゃんも含めて私のことを受け入れてくれる素敵な人が居たらいいのになと思いながら私はぶらぶらしている。



 ……その間に魔物討伐をしたり、盗賊退治をしたりも度々あった。だけど名乗ったりはしなかったよ。だってね、お兄ちゃんの妹である私がこんなことをして有名になったら勇者の責務で忙しいお兄ちゃんがとんぼ返りしちゃう!!




 まぁ……一部の人には私がお兄ちゃんの妹だってバレているけれど。

 それにしてもこうやって旅をするのは初めてだけど、中々楽しい。色んな場所へと向かい、見たことない景色を見ると気分が高揚する。



 ……お兄ちゃんが私のことを勇者の旅路に連れて行ってくれていたら、同じ感動を一緒に共有出来たのにな。そう思うと少しだけ残念だ。

 お兄ちゃんの旅はとても順調に進んでいるらしい。魔王ももうすぐ倒されるだろうって。

 そんな時期なのに、私は全然結婚出来る気配がなかった。




「はぁ……どうやったら私、結婚出来るんだろうか」



 恋にも興味があるし、誰かと結婚したい気持ちはある。あとは私が自立した方がお兄ちゃんを、縛り付けずに済むってそうも思うから。

 お兄ちゃんのことは大切な家族だと思っている。でもだからこそ、私はお兄ちゃんが私にばかりかまけて、自分の幸せを考えないのが嫌だなってそう思ってしまった。



 お兄ちゃんだって、異性から騒がれているのに全然恋人とか作らないんだもん! 私とお兄ちゃんって兄妹で、結局ずっとずっと一緒に生活していくわけでもないからね。

 いずれ自立をしなければならないのだ。




 結婚したいけれど、すぐに結婚するのって難しいのかも。ではそれはそれで……まぁ、お兄ちゃんが帰ってきた時に驚くぐらいの何かを成し遂げられたら嬉しいかも?

 そんな結論に至って、とある町で竜族の里の噂を聞いたのでそちらに向かってみることにする。竜族って、あんまり人と関わらない種族なんだって聞いている。どちらかというと人間嫌いも多いらしい。




 噂ではお兄ちゃんだって竜族は仲間にしていないんだよね! エルフとかは仲間に居るらしいけれど。なら、私が竜族と仲良くなったらお兄ちゃんも褒めてくれるかな?

 そう思ったので竜族の里へと突撃した。




「人間の女子が何の用だ!!」



 もちろんのこと、物凄く警戒された。私を捕らえようとした竜族たちのことは全員躱しておいた。




 お兄ちゃん直伝で戦闘を学んできた甲斐があったよねぇ。

 私は竜族たちを倒したいとかそういうわけじゃないので、あくまで軽くいなしたよ。

 ちなみに私みたいな小娘にやられて悔しそうにしていた。ただ彼らからすると自分より強い存在って敬意を表すべき存在らしいんだ。




「興味本位で竜族の里に来ただけだから、何かする気はないですよー。お兄ちゃんをびっくりさせようかなって」



 私が竜族の里へとやってきた理由を告げたら、「なんだ、それ」って目で見られてしまった。そんな理由で竜族の里に来る人っていないみたい。



「ミゾラは面白いな。こんなに強くて、愉快な女は初めて見た」

「そう? でも確かに変わっているのはそうなのかも。お兄ちゃんの妹だからね!」



 私に話しかけてきているのは、竜族の長の息子であるディゴーネだ。赤髪の男の子だよ。見た目は若く見えるけれど、竜族だから私よりも年上らしい。

 なんでそんなに強いのか聞かれた時に、勇者の妹だということは伝えている。納得してくれた。

 竜族の里での暮らしはとても楽しかったので、しばらく滞在することにした。

 ディゴーネ達に引き留められたからというのもある。

 ディゴーネとはよく模擬戦をしている。あと魔法を互いに教え合ったりとか! 竜族にだけ伝わっているものも特別にって教えてもらえて凄く嬉しかった。




「普通なら教えたところでつかえないんだが、流石だ」

「元々私、お兄ちゃんに沢山魔法を教わっていたからね。そのおかげかなぁ。それにしてもディゴーネも凄いね。私、自分より強い人ってそこまで見かけないから凄いなと思う」




 ディゴーネは私よりも強い。私と模擬戦している時も、女性だからって油断したりしないんだ。そういう風に私を特別視しないでいてくれることはとても有難かった。

 勇者の妹であること、私がこれだけ戦えること。

 それがあるから変な目で見られたり、対等に見てもらえなかったり……そういうことも旅をしている中で多かったから。

 だから凄く心地よかった。




 一か月ほど滞在した後、私は竜族の里を後にしようと思い至った。

 居心地が良いからっていつまでも滞在していたら、そのままずるずるもっと此処で過ごしちゃうから。




「私、もうすぐ次の場所いくね」


 何気なくそう言ったら、ディゴーネが驚いた顔をした。



「行くのか?」

「うん。お兄ちゃんが帰ってくるまでにもっとぶらぶらしたいもん」



 私はそう答えた。

 お兄ちゃんの旅路はまだ続いている。でも私の元へ帰りたいからって想定より早めに魔王討伐は終えそうだって噂。

 あくまで噂だけど、お兄ちゃんのことだから何も心配していない。




「……俺も行く」

「え?」


 突然の申し出に私は驚いてしまった。



「……竜族ってあんまり里の外に行かないんじゃなかった?」

「ミゾラと一緒に行きたいから。なぁ、ミゾラ。聞いてほしいことがあるんだが」



 ディゴーネは神妙な表情をしている。



「なに? 改まって」

「俺はミゾラが好きだ」




 急に告白されて私は固まった。結婚したいけれど、難しいかなって思っていた。

 だから竜族の里に来てから、そのことはあんまり考えてなかった。ただのびのびと過ごしていただけだった。




「わ、私の事が好き?」

「ああ。ミゾラは可愛いし、面白いし、一緒に居て飽きない。だから一緒がいい」

「お、おおう。あ、ありがとう?」

「ミゾラ、全然俺の気持ち気づいてなかっただろう」

「うん、まぁ……」



 私は結婚したいとは思っていたけれど、きちんと恋をしたことがあるわけじゃない。

 なんだかんだディゴーネのことはそういう風に考えてなかった。



「返事は?」

「えっとね、じゃあ、まずはお試し期間でどう? ディゴーネと一緒に旅をするのは楽しそうだし、私も一人旅よりはそっちの方が楽しそう。ただ、ちゃんと恋人になるとしてもお兄ちゃんが戻ってきてからね?」



 私は結局そう答えた。



 だってディゴーネのことを嫌いなわけじゃない。これまで考えてはいなかったけれど、ディゴーネともし一緒に人生を歩んでいけたら、それはそれで楽しいかもって思ったから。

 これで本気じゃなかったらお兄ちゃんを前にして、破局するだけだろうしね。




 そういうわけでこういった条件を出した。面倒なことを言っているかもだけど、ディゴーネは頷いてくれた。

 それから私はディゴーネと一緒に旅をした。

 お兄ちゃんがそろそろ魔王討伐を終えそうって頃になると、私もすっかりディゴーネのことが好きになっていた。

 だから、「好きになった」とは告げた。でも恋人になったり、結婚するのはお兄ちゃんが帰ってきてからっては告げている。



 ディゴーネは待っていてくれているみたい。そうやって私の意思を尊重してくれるのは嬉しいなと思った。

 ディゴーネを連れて村に帰ったら、昔から私とお兄ちゃんをよくしる村人たちに「大丈夫なのか??」と滅茶苦茶心配されたけれどね!



「……ミ、ミゾラが恋人を作っただと!! そこのお前! ミゾラと付き合いたければ俺と戦え」



 魔王討伐から帰ってきたお兄ちゃんは、想像通りそんなことをディゴーネに言い放っていた。



 うん、全く仕方がないなぁ。

 ディゴーネもお兄ちゃんと戦うのを楽しんでいるから良いけどさ。




 結果として何回もディゴーネはお兄ちゃんと戦った。あと滅茶苦茶恥ずかしいのだけど、私の可愛いところを言い合う会みたいなのもしていた。そういうのは私のいないところでやって欲しいなと思った。




 ――何度も拳や口で語り合って、お兄ちゃんはディゴーネを認めてくれた。付き合うというだけでもむせび泣きしていたお兄ちゃんには驚いた。

 あとそのまま結婚の話もして、一年後に結婚式を挙げることが決まった。

 お兄ちゃんは私の結婚式を盛大にしたいらしい。



「世界で一番幸せな花嫁にしなければ」



 などと馬鹿なことをいっていた。



 お兄ちゃん、勇者として培った人脈をただの村娘の私の結婚式に使おうとしないで! 王様からの祝辞とか、要らないから!!

 そう言うのは要らないの!!



 私の結婚式のために、本人である私達以上に張り切っているお兄ちゃんをとめるのに大忙しだった。




 ――大切なお兄ちゃんと、大好きな恋人が出来て何にしても私は幸せだなと思った。

 結婚したいって願望も、一年後にはかなうわけだしね!


勇者の妹の話です。前々からかこうとしていたのですが、別作品で忙しく短編で投稿しました。


ミゾラ

勇者の妹。明るい茶髪の可愛らしい少女。背は低め。

シスコン勇者から溺愛される妹。なんだかんだブラコン。兄から様々なことを習っていたため、一人で基本的に何でも出来てたくましい。


スイガ

兄。シスコン。勇者に選ばれる。両親が亡くなり、妹を守らなければと大切にしていた。

滅茶苦茶強い。美形。魔王討伐には妹を連れて行かなかった。その結果、帰ってきたら妹に恋人が出来ていてショック。

魔王討伐中も妹のことばかり語っていた。


ディゴーネ

山奥の竜族の里の一つの、長の息子。赤髪の青年。見た目は若いが長寿な一族なので、長生きしている。

戦闘能力は高い。ミゾラのことは最初から気に入っていた。勇者である義兄と戦うのも楽しんでいるタイプ。

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