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もりとき怪談 第一集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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07 キョウコちゃん家の鏡台


 僕には、キョウコちゃんっていう幼馴染の女の子がいました。

 僕は小さい頃から走ったりボールを投げたりするのが得意ではなくて、同じくらいの年齢の男の子より、女の子と遊ぶ方が多かったです。

 それでお母さんに心配されたり、男の子にからかわれたりしたけれど、僕はあんまり気にしてませんでした。


 キョウコちゃんと僕はとても仲が良くて、公園に行けばいつも二人で遊んでいました。二人でよく砂場でおままごとをして遊びました。

 親同士も仲が良くて、お互いの家に遊びに行くこともしょっちゅうでした。

 キョウコちゃんの家は和風で、キョウコちゃんは両親のほかにおばあさんと一緒に住んでいました。僕の家は洋風の家で畳の部屋もなかったので、和風なキョウコちゃんの家は新鮮に見えました。特に掘りごたつは、僕のお気に入りでした。


 僕の祖父母は遠くに住んでいたので、キョウコちゃんのおばあさんも僕にとっては新鮮でした。

 遊びに行くといつも掘りごたつの部屋にいて、僕やキョウコちゃんにかりんとうやお煎餅なんかのお菓子をくれました。

 そういうお菓子を食べながら、おばあさんが話す昔話を聞くのも僕は好きでした。

 キョウコちゃんのおばあさんはどうやら少し痴呆があったようで、キョウコちゃんのお母さんは僕やキョウコちゃんがおばあさんの話し相手になってくれるから助かると言っていました。

 キョウコちゃんのおばあさんは確かに同じ話を何度もすることはありましたが、それ以外は特に痴呆のような症状はなかったと記憶しています。


 掘りごたつの部屋はおばあさんの部屋だったのですが、そこには小さなテレビと、数冊の本や人形が納められたテレビ台、たんす、そして布が掛けられた鏡台がありました。

 こじんまりとしていますが整っていて、通りに面した大きな窓から日差しの差し込む気持ちの良い部屋でした。

 でも、僕にはどうにも鏡台だけが異様に思えていました。

 畳の上に座って過ごす部屋の中で、鏡台だけが背が高く威圧的に見えたことが理由かもしれませんし、鏡台に掛けられた布の深い紫色が重苦しく見えたのかもしれません。

 僕はおばあさんに、なぜ鏡に布を掛けているのかを聞きました。

 おばあさんは、鏡が死後の世界とつながっているから使わないときは布を掛けておくんだよと教えてくれました。

 僕の家の鏡には布がかけられていなかったですし、鏡が死後の世界につながっているところも見たことがありませんでしたから、僕はおばあさんのそんな話は全然信じていませんでした。


 僕とキョウコちゃんは小学校に上がっても仲が良く、どちらかが風邪を引いて休んだときはプリントを届けたりしていました。

 ある日、キョウコちゃんが風邪で休んだので、僕はキョウコちゃんの家にプリントを届けました。キョウコちゃんのおばあさんがお菓子があるから部屋においでと言って、キョウコちゃんのお母さんもプリントのお礼だからと言って、僕はいつもみたいにおばあさんと饅頭を食べていました。


 ふと鏡台に目をやると、いつもはちゃんと掛けられている布が少しずれていて、覆い隠されている鏡面がほんのわずかに見えていました。

 僕はなんとなく、そのわずかに見える鏡面を眺めていました。

 すると、その鏡面にぱっと小さなてのひらが映りました。

 僕が思わず声を上げると、おばあさんは何かあったのかと聞いてきました。

 僕は鏡を指さしながら、小さなてのひらが見えたことをおばあさんに伝えました。


「あぁ、それはリンコちゃんだねぇ。リンコちゃんは、キョウコちゃんの双子の妹で、お母さんのお腹の中で死んじゃったんだよ。でも寂しいんだろうねぇ。だからときどき、鏡を通してこっちの世界を見ているんだよ」


 そう言って、おばあさんは鏡の布を直しました。

 リンコちゃんの話を、僕はそれまで聞いたことがありませんでした。

 でも確かに、僕は鏡の中に小さな手を、おばあさんが言うことが正しいなら、リンコちゃんの手を見たのです。


 僕は帰るときに、見送りにきてくれたキョウコちゃんのお母さんに鏡の中の手について話しました。

 そして「キョウコちゃんには、リンコちゃんって妹がいるのか」と聞いてみたのです。

 キョウコちゃんのお母さんはすっと無表情になって、しばらく黙ったあとに、いつもみたいなやさしい笑顔で「おばあちゃんは、ちょっとボケちゃってるから、変なことを言ったのね。キョウコはひとりっ子だよ」と言いました。


 その後もキョウコちゃんの家に何度も遊びに行きましたが、おばあさんの鏡台の布がズレていることはなく、僕も確認をしなかったので、『リンコちゃん』に出会うことはありませんでした。

 小学校3年生にもなると女の子と一緒に遊んでいることをひどく冷やかされるようになり、僕とキョウコちゃんは疎遠になりました。キョウコちゃんは私立の中学に行ったそうで、時折顔を合わせる程度になりました。

 そして僕が大学生の頃におばあさんは亡くなりました。僕は何となく気まずくて葬儀には行きませんでした。


 僕も就職と同時に一人暮らしを始め、すっかりキョウコちゃんとの縁は切れてしまいました。鏡台がどうなったのかも知りません。

 でも、あの日に見たてのひらは見間違いではないと思いますし、『リンコちゃん』について尋ねたときのキョウコちゃんのお母さんの無表情は、今でも忘れられません。



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