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もりとき怪談 第一集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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5/11

05 塀と電柱の間


 子どもの頃ってさ、変な空想ばっかりするよな。

 母ちゃんのスカーフを首にマントみたいに結んでさ、塀から飛び降りれば空を飛べるんじゃないかと思って、塀から落ちてケガしたことある。そんで母ちゃんにめっちゃ怒られた。

 まぁ、俺はそういう馬鹿な子どもだったんよ。


 そんでさ、絵本とかアニメの影響で、俺、知らない扉を通ったらその先に異世界みたいなのがあるんじゃないかなって思ってたんだ。

 俺が住んでたとこってほどよく田舎だったから古い家が多くてさ、家を囲む木の塀に玄関とは違う小さな扉がついてる家がときどきあったんだよ。

 で、そういう扉の先には絵本みたいなファンタジーの世界があるんじゃないかって思ってた。

 でも俺はちゃんと節操のある子どもだったから、人ん家の扉を勝手に開けちゃいけないなってのも分かってた。だから俺にとってはあの扉って、「もしかしたら不思議の世界に通じてるかもしれない扉」っていう夢の扉だったのね。


 でさ、家の塀と電柱の間。大人は通れないけど子どもだったらギリ通れる程度の幅があいてることあるじゃん?

 人ん家の扉は通りたいけど通れないからさ、俺はそういう隙間を扉に見立てることにしたんだよね。

 扉と同じようにその隙間を通ると、いつか不思議の世界に行けるんじゃないかと思って、俺はそういう隙間を見つけるたびにわざと隙間を通ってたんだよね。

 でも当然、不思議の世界に行くことなんてなくて、俺は「今度こそ」って思いながら隙間を通ってたんだ。


 で、俺はいつものように、塀と電柱の間の隙間を通ったんだ。

 そしたらさ、さっきまでまだ明るかったはずなのに、急に夕方みたいになったんだよ。

 それも何か赤黒いの。普通夕方って黄色っぽいオレンジとか、赤っぽいオレンジって感じじゃん? 何か赤黒いの。雨が降りそうなのとはまた違う、何か気持ち悪い赤。

 隙間を通り抜けた俺はびっくりして足を止めて「え?」ってなってたのね。

 あんだけ隙間を通ったら不思議の世界に行けるかもって思ってたのに、そのときは不思議の世界に来たんだっていうより、何か風景が変になっちゃったとしか思ってなかった。

 だって、色がおかしいだけで、見えてる景色はいつもと一緒だったから。

 そこは普段から通る道だったし、並んでる家が変になってるってことはなかった。でも通行人はいなかったな。隙間を通り抜ける前に通行人がいたかどうかは覚えてないけど、誰もいなかったんじゃないかなぁ。


 そんで、おかしいなぁって思いながら立ち止まって周囲を見てみたんだ。

 道路をはさんだ向こう側、俺の視界の斜め前にも電柱があったんだけどさ、その電柱から顔をのぞかせてる人がいたんだよ。

 その人の顔は異様にシワシワで、じーさんみたいに見えた。頭はハゲてた。

 そのじーさんが、目を細めてニタァって笑って俺のこと見てるの。人間の口ってあんなに口角上がるのってくらい上がってた。

 でさ、電柱の後ろに隠れてたとしても、普通は肩とか見えるだろ?

 全然見えないの。

 電柱から首が生えてるって感じ。


 俺、動けなくなってずっとじーさんと目が合ってたんだけど、急に足がガクガク震えだしてさ。どうしていいか分からなくて、とにかく元の世界へ戻れって思いながら、振り返ってもう一回塀と電柱の間を通ったんだ。

 そしたら、元の明るい世界に戻ってた。

 さっきじーさんがのぞいてた道路をはさんだ電柱も見てみたんだけど、当然そこには何もなかった。


 今となっては本当は夢かなんかでそんなことはなかったんじゃないかなとは思うんだけど、俺はそれ以来、塀と電柱の間を通るのやめたよ。



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