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もりとき怪談 第一集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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夜の工場勤務


 工場で夜勤してた頃の話。

 夜勤の仕事って22時から5時までで、俺は夜型人間だったからけっこう性に合ってたんだよね。マシンオペレーターの仕事で、ベテラン社員の佐藤さんと一緒だったから仕事はそんなに難しくなかった。あ、出てくる名前はぜんぶ仮名ね。

 マシンオペレーターって言っても機械を操作していればいいだけじゃなくてさ。できあがった製品や、機械の部品に不具合がないかも確認しないといけない。だから、それなりにやることは多かった。


 とはいえ別に体力を使う仕事でもなかったし、そんなトラブルはそうそう起きないから、俺は佐藤さんとくっちゃべりながら仕事してたな。

 佐藤さんはもう20年以上、その工場の夜勤で働いてて50代半ばくらいの気のいいおっちゃんだった。夜勤明けに一緒に飲みに行くこともあるくらい、仲が良かった。

 その日もいつも通りに仕事をこなして、休憩時間になった。仮眠休憩はまだ先だったから眠くならない程度に軽く食事して、トイレに行ったんだよ。

 で、トイレから戻ってくるときに、工場の機械の前でしゃがみ込んでる人がいたんだ。

 気分でも悪くなったのかと思って、俺はその人に近寄って「大丈夫ですか?」って声をかけた。

 俺と同じ作業着を着た、ちょっと小太りなおっさんだった。頭には白髪が混ざってて、あんまり見た目には気を使ってなさそうな人。

 俺が声をかけたのは無視して「なくしちゃったんだ、どうしよう」って小さな声で言ってた。


 俺は機械の部品か、製品を落として見つからなくなっちゃったのかと思って「何を落としたんですか? 一緒に探しましょうか」って言った。

 そうしたらおっさんは「一緒に探してくれるのかい? 助かるよ」って言って、俺に振り返ったんだ。

 その顔には、鼻と、唇と、まぶたがなかった。

 ごそっと削げ落ちてるの。

 むき出しになった肉からは血が滲んでて、目玉がぎょろぎょろ不規則に動いてた。

 情けないことに俺は絶叫して、休憩室に駆け込んだ。正直、トイレに行ったあとで良かったよ。もしトイレに行く前に見てたら、間違いなく失禁してた。


 俺の様子に、佐藤さんはビックリしてた。お茶を出してくれたけど、それどころじゃなくて、俺は見たものを必死に説明したんだ。すごく支離滅裂なしゃべり方になってたと思うけど、佐藤さんは辛抱強く俺の話を聞いてくれた。

 佐藤さんがずっと背中をさすってくれてたから、俺も徐々に落ち着いてきた。俺の話を聞き終わって、佐藤さんは「また高田が出たんだな」って言った。

 そして、俺にその高田さんって男の話を教えてくれたんだ。


 高田さんは10年くらい前にこの工場で夜間勤務をしていたそうだ。

 うだつの上がらない不器用な男で、仕事を覚えるのも遅かったそうだ。ミスも多くて、しょっちゅう叱られてた。それに、あんまり夜勤の仕事が合ってなかったみたいで、居眠りすることもあったみたいなんだ。

 うん、お察しの通り。機械事故だよ。

 聞いたことがないような異音がして、佐藤さんが慌てて駆け寄って機械を止めたんだけど、高田さんは顔面を削ぎ取られたようになっていて、亡くなったそうだ。


 それ以降、夜の工場にときどき高田さんが出るようになったんだって。

 だいたい、俺のときと同じ。何かを探すような仕草をしていて、声をかけると表面の削げた顔面を見せてくるの。

 たぶん、なくなっちまった自分の顔を探してるんだろうな。

 高田さんに遭遇した夜勤の人はみんな辞めてったそうだ。俺もそう。あの壮絶な顔面は一度見たら忘れることはできないし、今でも夢に見るくらいだよ。


 俺はその日のうちに辞める連絡をした。会社の方も分かってたみたいで、理由とかは聞かれなかった。

 最後に佐藤さんと飲んだときに、佐藤さん、すごく残念がってた。俺、本当に夜間勤務もきつくなかったし、機械操作も得意だったからさ。どうしても残れないかって説得されたけど、やっぱ無理だった。

 逆になんで佐藤さんはあの工場で長く働けてるんですかって聞いたら、「だって、高田は俺の前には出てこないもん」って言ってた。

 そりゃ、出てこなければ怖くはないとは思うけど、佐藤さんはあの事故を目撃してるんだぜ? よく平気だよなぁ。



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