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もりとき怪談 第一集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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よく当たる占い


 俺の彼女が占い好きでさ。俺はぜんぜん興味なかったんだけど、よく当たる占い師がいるって言うんで、むりやり連れて行かれたんだよ。

 その占い師っていうのがいわゆる占い師って感じの人じゃなくて、普通のおばちゃんだった。なんでも旦那さんが喫茶店を経営していて、その手伝いで喫茶店で働いてたんだそうだ。

 そのおばちゃんは前から聞き上手だったのもあって、ちょっとした人生相談も受けてたらしい。そんで、趣味だったタロット占いを使って相談に乗りつつアドバイスをしていたら、それがいつの間にか「よく当たる占い師」として評判になってたらしい。

 今じゃおばちゃんの占い目当てで来るお客さんが多くなっちゃったんだって。旦那さんの手前もあって1日で占う人数っていうのはかなり絞ってるらしい。

 彼女は「私が頑張ったから予約が取れたんだよ、感謝してね」なんてドヤ顔で言ってた。


 で、喫茶店に行ってコーヒーとケーキを楽しんでから、さっそく占ってもらったんだよ。彼女は俺との相性とかこの先を占ってもらってて、俺を眼の前にして結婚の話題とか振ってたんだよ(おばちゃんは俺の甲斐性次第とか言ってた)。

 ただ彼女を占っている最中に、おばちゃんは何かチラチラ俺のことを見ててさ。

 彼女の占いをあっさりと切り上げると、俺の方に向き直って「彼氏さんも占うよ」って言ってきた。俺は興味ないから断ったんだけど、彼女もノリノリで占ってもらえって言うし、女ふたりのパワーに押されて結局占ってもらうことになったんだ。


「そう遠くない将来、たぶん一ヶ月後かその辺り、あまり良くないね。後ろを振り返るのは絶対やめた方が良い。あなたに後ろを振り向かせようといろんな誘惑がある。でも前だけを見るのが自分自身を救う方法だね」


 おばちゃんはそんなことを言ったんだ。

 なんだか意味深なことを言われたような気がしたけど、そのときの俺にはさっぱり分からなかった。彼女もきょとんとした顔をしてた。


 まぁ、そんなことがあって、だいたい一ヶ月経った頃だったかな。仕事の残業がけっこう長引いて、帰りが23時近くになったことがあったんだ。

 俺が住んでるアパートは駅から歩いて10分くらいかかるんだけど、そこそこ大きい通りをずっと歩いていく感じだから街灯もあって明るいのね。車も数は少なかったけどまだ走ってた。

 そうしたら背後から「◯◯先輩じゃないですか?」って声をかけられたんだ。

 ◯◯は俺の名前。

 思わず足を止めたよ。

 懐かしい後輩の声だったんだ。高校時代の後輩で、部活が一緒で俺にすごく懐いてたんだ。俺はひとりっ子だったから、弟がいたらこんな感じかなって仲良くしてて、何度か家に呼んで一緒に晩飯を食ったこともあった。

 俺が高校を卒業して2年後に、交通事故で亡くなった後輩なんだ。


 後輩の声は俺の背後から聞こえて「やっぱり◯◯先輩ですよね。お久しぶりです!」って言ってくる。声はすぐ後ろで聞こえるのに、奴は俺の前に回って顔を見せることはなかった。

 俺はそのとき、占い師のおばちゃんの言葉を思い出してたんだ。

 つまりこれが、俺に後ろを振り向かせようとする誘惑なんじゃないかと思ってさ。

 だから、俺は後輩の声を無視して歩き出したんだ。そうしたら声はついてきて「あれ? 俺の声、聞こえてますよね?」「どうしちゃったんですか? 俺ですよ、先輩」って、後ろからずっと話しかけてくるんだ。

 声はついて来るのに、アスファルトに響くのは俺の靴音だけ。背後から足音は聞こえなかった。

「ねぇ、先輩。ちょっと話をしましょうよ」「俺の話、聞いてます?」「今度、飯でも食いに行きましょうよ」「俺、今はいろいろあって、話を聞いてほしいんですよね」「頼れるの、◯◯先輩だけなんですよ」

 本当にずっと、声は俺に話しかけてたんだ。後輩の声はときどき切実な感じだったり、切羽詰まった感じで、俺は何度か振り返りたくなった。でも、その度におばちゃんの「振り返るのは絶対やめた方がいい」って言葉を思い出して、こらえてた。


 やがてアパートの部屋の前に着いて、俺は後輩の声には応じず、後ろも振り返らず、部屋の鍵を開けた。

 その間も声は後ろをついてきていて、このまま部屋の中まで入ってきたらどうしようって思ってた。振り返らないっていうのは、いつまで振り向かなければいいんだろうって思ってたよ。

 とりあえず部屋の中に入ろうとドアを開けると、同時に舌打ちが聞こえた。


「なんで振り返らないんだよ」


 明らかに後輩の声じゃない、低い男の声がそう言った。

 俺は慌てて部屋に入って、鍵とチェーンをかけて、キッチンの引き出しから塩を袋ごと持ってきた。自分と部屋の扉に、袋の中の塩をぜんぶぶち撒けたよ。

 ドアスコープを覗く勇気はなかったな。


 それ以降、同じようなことは起きなかった。この間、ひとりで喫茶店に行ってきて、おばちゃんにこの話をしたんだ。

 おばちゃんはニコニコしながら「あなた、人がよさそうだから。そういうのが寄ってきちゃうの」なんて言ってた。この件以降、俺は占いはしてもらわないけど、この喫茶店の常連になってる。



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