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もりとき怪談 第一集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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降りちゃ駄目ですよ


 金曜日の仕事終わりに、家に帰らないでそのまま友達の家に遊びに行く予定になってたの。

 友達の家っていうのがちょっと遠くて、家からだと乗り換えがあるんだけど、会社からなら時間はかかっても乗換なしで行けるのよ。

 席は空いてなかったから、電車のドア横のスペースに立ってたのね。途中でターミナル駅を通り過ぎるから、そこを過ぎたら座れるだろうって思ってたの。会社の最寄り駅からターミナル駅まではだいたい30分くらいかな。

 そうしたら途中で、杖をついたおばあさんが乗ってきたのよ。

 電車内もけっこう混んできたから、私、おばあさんに場所を譲ったの。ほら、ドア横のスペースって手すりがあるじゃない。座れなくても手すりに掴まれればいくらかマシかなと思って。

 おばあさんも「ありがとう」って言ってそのスペースに収まってた。車内が混んでるから動けなくて、私はおばあさんの近くにいたのね。


 次でターミナル駅に着くって頃に、おばあさんが顔をこっちに向けたのね。

 それで、「私、次で降りるから。本当にありがとうね」って言ってきたの。丁寧なおばあさんだなと思って、私は笑顔で「どういたしまして」って返した。そうしたらおばあさんがじっと私を見て「あなた、降りちゃ駄目ですよ」って言ってきたの。

 一瞬何を言われたのか分からなかった。とりあえず「私の降りるのはずっと先なんですよ」って答えたら、おばあさんは「そうでしょうとも」って言ったのね。

 ますます訳が分からないなって思ってる間に駅に着いて、どっと人が降りていった。おばあさんもそれに合わせて降りて、あっという間に見えなくなっちゃった。

 私は空いた席に座って、ボケてる感じでもなかったのにおばあさん変なこと言ってたなーって思ってた。


 ターミナル駅を過ぎて、友達の家の最寄り駅まではだいたい1時間半。路線の端っこから端っこまで行くような距離感だよ。

 電車に乗ったのが21時前だったから、到着は23時頃ね。私は本を読んだりスマホを見たりして時間を潰してた。

 ターミナル駅を過ぎてからは降りる人は多いけど乗ってくる人は少なくて、徐々に電車内は空いてきたのね。車内はざわつきもなくなって、ただ電車が走る音だけが大きく聞こえてた。


「次は〇〇、次は……」


 車内アナウンスが不自然に止まったの。

 アナウンスを間違えたのかしらって思ったんだけど、いつまで経っても訂正のアナウンスが入らない。

 とはいえ目的の駅はまだ先だったし、私は本を読んでたのね。

 結局アナウンスは訂正されないまま、次の駅に着いた。

 着いたんだけど、妙に長くドアが開いているし、駅に着く前のアナウンスもなかった。


 私は「あれ?」と思って本から顔を上げた。

 窓の外は真っ暗闇だった。ドアの方も見たけど闇が広がるばっかりでホームが見えない。もしかしたら駅じゃないところでドアが開いちゃった? だからアナウンスもなかったのかなって思ってた。

 でもトラブルを知らせるアナウンスもなければ、ドアも開きっぱなし。他の乗客はどうしてるんだろうと思って、車内を見回したのね。

 そしたら、他の乗客は全員、私を見てた。

 無表情でじっと私を見てるの。

 え? って思ってたら、車内アナウンス。


「どうぞ、降りてください」


 ノイズ混じりの声だった。

 もう私、パニック。なにこれ、私に言ってるの? って感じよ。


「どうぞ、降りてください」

 また同じアナウンス。無表情で私を見てる乗客たちの顔。

 私はなんとなく、自分がここで降りなくちゃいけないような気持ちになったの。


 腰を上げかけたそのとき、ふっとあのおばあさんの言葉を思い出したのね。


「あなた、降りちゃ駄目ですよ」


 そうよ、私は降りちゃいけない。そう思って、足が震えそうになるのをぐっとこらえてた。

 しばらくしたら同じ車両にいたサラリーマン風のおじさんが立ち上がって、ふらふらっとした足取りでドアの外に出たの。私にはホームなんて見えない闇だったけど、おじさんの足元にはホームがあるみたいで、おじさんはふらふらしたまま闇の中を進んでいった。


 ややしてから、電車のドアが閉まって、電車は何事もなかったように進み始めたのね。

 窓の外の景色はしばらく真っ暗なままだったんだけど、電車はやがてトンネルの中みたいな等間隔にライトがあるような場所を進んでいった。そこを抜けると普通の住宅街の灯りが見え始めた。

 車内アナウンスも「次は◯◯、次は◯◯」って言ってて、その駅名は確かにこの路線に存在している駅名だった。

 ホッとしてスマホを見ると、友達から「何時くらいに着きそう?」ってメッセージが入ってた。現実世界に戻って来れたような気持ちになって、ちょっと泣きそうになっちゃった。


 もしあのおばあさんの言葉を思い出さなかったら、私が電車を降りちゃってたかもしれない。あの車内アナウンスの声は、そんな感じの強制力があったように思うんだよね。

 それに電車を降りていったあのおじさん。あのおじさんがいつから電車に乗ってたのか知らないけど、あのおじさんはどこに行っちゃったんだろうね。



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