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もりとき怪談 第一集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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3/10

03 赤いレインコートの女の子


 これは私が実際に体験した話です。


 私が住んでいた地域は自治会の活動が活発で、毎年夏になると地域の小学生を中心に、長野県にある山荘でキャンプをしました。

 キャンプ場にはロッジとバンガロー、テントサイトがあって、白樺に囲まれた炊事場やキャンプファイヤーをするための広場もありました。


 このキャンプはもちろん大人もついて来ましたが、活動の中心は子どもになります。

 小学生だけで班を作り、基本的には班行動をします。さらにリーダーさんと呼ばれる高校生や中学生もいて、それぞれの班の行動を見守ったり指導したり、夜には私達がちゃんと寝ているかの見回りもします。

 リーダーさんも小学校の頃から毎年のようにキャンプに来ていますから、そのキャンプ場のことはとても詳しかったです。


 リーダーさんはキャンプ場に向かうバスの中でいろんなレクリエーションをしてくれました。そのレクリエーションの中には、キャンプ場にまつわる怖い話がありました。

 キャンプ場にまつわる怖い話はいくつかありましたが、その中でも有名だったのは「赤いレインコートの女の子」でした。

 赤いレインコートの女の子に会うとこんな怖い目に遭う、という話ではなく、ただ「あのキャンプ場には赤いレインコートの女の子が出る」というものでした。

 具体性のない「赤いレインコートの女の子」に、私は単純に幽霊と同じような恐怖を抱きました。幽霊だって遭遇したら対処法などありませんし、必ずしも憑り殺されるわけではありませんよね。

 私は「赤いレインコートの女の子」はなんとなく怖いし、会いたくないと思っていました。


 私は「赤いレインコートの女の子」に遭遇することなく、毎年のキャンプを楽しみました。

 私が小学4年生の年はキャンプに参加するリーダーさんが少なく大人がリーダーさんの役割をしたり、低学年の頃はキャンプに参加していたけれど高学年になると習い事や塾で参加しなかったりと、徐々にキャンプに行く人は少なくなりましたが、私自身は小学校卒業までキャンプを楽しみ、中学生になるとリーダーさんとしてキャンプに参加しました。

 リーダーさんになると、夜の見回りも仕事になります。

 就寝時間が21時だったので、22時にテントサイトに行って小学生が外に出ていないかを見回ります。

 テントサイトは明かりなどなく真っ暗ですが、近くの炊事場には電気が通っており、炊事場のテーブルでは大人たちがお酒を飲みながら談笑しています。

 炊事場をてっぺんにして、テントサイトは緩やかな下りの傾斜に点在しています。私は他の女の子のリーダーさん二人と一緒に懐中電灯を持って見回りをしました。

 折しも雨がぽつぽつと降り出し、長野の山奥は夏とは思えないほどひんやりとして、長袖の上着が必要なほどでした。


「外に出てるの、誰? もう寝ようね」

 私の前を歩いていたリーダーさんが、突然呼びかけました。

 彼女の懐中電灯の先には、赤いレインコートを着た子どもが立っていました。

 私達に背を向けているので、顔は分かりません。レインコートの裾から白いふくらはぎがすっと伸び、レインコートと同じ赤い長靴を履いています。

 赤いレインコートの子どもは、私達に声をかけられても微動だにしませんでした。


「ねぇ、あれって……」

 私の隣の子が、小さく私に言いました。

 たぶん彼女は、私と同じことを考えていたのだと思います。

 小雨の降る中、懐中電灯も持たずにただ外で立っている女の子。赤いレインコートは雨に濡れ、ぬらぬらとした光沢を放っていて、まるで別の生き物のように見えました。

「赤いレインコートの女の子?」


 その言葉を合図にして、私達は炊事場まで一気に傾斜を駆け上がりました。

 炊事場に駆け込んできた私達に、お酒を飲んでいた大人はびっくりしたようでした。

 何があったのかを聞かれて、私達は口々に赤いレインコートの女の子が出たことを言いました。

 大人達は顔を見合わせて、続きの見回りは自分達がするからテントに戻って寝るように言いました。

 私達は素直に従って、寝袋に入って身を寄せていました。


 いつの間にか眠っていたようで、外は明るくなっていました。

 テントの外に出ると、夜に降った雨は上がって霧がかかっていました。まだ起床時間には少し早いようでした。

 炊事場にはすでに何人かの大人が集まっていたので、私は少し悩みましたが昨日の夜のことを聞いてみました。


「あのあと見回ってみたけど、赤いレインコートの女の子なんていなかったよ」

「でもねぇ、前にも同じようなことがあったんだ」

「あなたもその年のキャンプに来てたと思うけど、リーダーさんが全然来なかった年があったでしょ?」

「その前の年にね、夜の見回りの時間に雨が降って、女の子のリーダーさんが怖いからって言って、グループで見回りしてたの。そうしたら、全員見ちゃったんだって」

「それで何があったって訳じゃないけど、次の年は女の子のリーダーさん、誰も来なかったんだ」


 私も赤いレインコートの女の子に遭遇した年以降、あのキャンプ場には行きませんでした。そして去年、あのキャンプ場は少子化に伴う利用率の低下と、建物の老朽化を理由に閉鎖されたとのことでした。

 ただキャンプ場に出るというだけの存在だった赤いレインコートの女の子。あの子は一体どこから来た存在で、キャンプ場がなくなったあとはどこに行くのでしょうか。



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