卵
話半分で聞いて欲しいんだけどさ、〇〇廃病院で見つかったバラバラ死体遺棄事件ってあったじゃん? ちょっと前にニュースになってたやつ。
そう、死体がバラバラの状態で見つかって、一部はまだ見つかってなくて、その見つかってない一部ってのも右腕とか左脚みたいな感じじゃなくて、中指とか鼻とかの細かいパーツってやつ。
俺がこれからする話は、推測だけど、この事件に関係あるんじゃないかなって思ってるんだ。でもあまりに荒唐無稽な話だし、誰に話しても信じてくれそうにないから黙ってたんだけどさ。
あの事件がニュースになる2日くらい前かな。俺、仕事であの廃病院の近くにいたんだよ。っていうか、車を止める場所がなかなか見つからなくて、ちょうどあの廃病院の近くの駐車場が空いてたの。
あの辺りってやっぱり不気味だし、あんまり人も通らないじゃない? だからけっこう穴場なんだよね。とはいえ、営業先からは少し離れてたから、面倒臭いっちゃ面倒臭かった。
仕事も終えて、俺は少し車の中で休憩してから会社に戻ろうかなって思ってさ。時間は夕方にはまだ少し早いくらいだったけど、日が暮れかけて影が長く伸びてたな。
駐車場のところに自販機があったから、缶コーヒーを買おうと思ったんだ。
金を入れて、ボタンを押したら、かしゃん、みたいな妙に軽い音がした。
変だなと思って見てみたら、コーヒーはなくて、かわりに卵がひとつあった。
卵だよ。何の変哲もない卵。スーパーで売られてるような。割れてもなくて、きれいな状態で入ってた。さすがに生卵かゆで卵かなんてことは分からなかったよ。
誰かがイタズラで入れたのかなって思って、俺は駐車場のアスファルトにそっと卵を置いたんだ。で、確認してみたんだけど、やっぱりコーヒーはない。
金入れたのになんだよと思ったけど、俺の間違いかもしれないからもう一回金を入れて、コーヒーのボタンを押したんだ。そしたら、また、かしゃん。
俺は「え?」と思って自販機を見たよ。
やっぱり、卵がある。何でコーヒー買おうとすると卵が出てくんの? と思って俺は卵を取り出したが、やっぱり何の変哲もない卵なんだ。
意味分かんなくて頭がおかしくなりそうだったんだけどさ、ふと視線を感じて周囲を見ると、駐車場の端に人影みたいなのがいた。
人影みたいなのとしか表現しようがないんだ。ひょろりとして、真っ黒な何かが、目なんてなかったけど俺のことを見てる気がした。
それに気が付いて、俺の喉はヒョッてなったよ。
その瞬間、自販機からかしょん、かしょん、かしょんって絶え間なく音が聞こえてくる。
自販機に向き直ったらありえないくらいの卵が、かしょかしょ自販機から吐き出されてたんだ。受け取り口がいっぱいになると、卵は自販機の外まで出てきた。
黒いアスファルトの上を、無数の白い卵がころころ転がっていく。
受け取り口から落ちた衝撃で、割れてしまっている卵もあった。
そんで、割れた卵から出てきたのがさ、血の気が引いて少し青黒く変色した指だった。見たことないけど、切断された人間の指だと思った。マネキンみたいな作りものじゃない。
別の卵からは鼻、内臓みたいなぐねぐねしたもの、目玉……。
頭がすごい早さで、この卵にはぐちゃぐちゃになった人間が閉じこめられているって理解して、俺は手に持ってた卵を投げ捨てた。
そうしている間にも、卵はどんどん自販機から吐き出される。
呆然として卵を眺めていると、俺の右側から声がした。
「それ、ぼくの……」
俺は声がした方を反射的に見た。
そこには誰もいなかった。
さっきまで人影みたいなのが立ってた場所も見たが、人影はいつの間にか消えていた。自分の心臓の音がすごく大きく聞こえて、気が付いたら卵が吐き出される音は聞こえなくなっていた。
自販機に目をやると、さっきまであった大量の卵はなくなっていた。
一気に寒気がして、俺は急いで車に乗って会社に戻ったよ。
会社には報告だけして、その日は残業もせずに定時で家に帰った。家に帰ってからもそわそわしてたんだけど、時間が経つにつれて自分が見たものがあまりにもおかしなものに思えてきた。だって卵が出てくる自販機だぞ? 風呂に入る頃には、疲れとかストレスからくる幻覚だったんじゃないかなと思えてきて、その日はさっさと寝たんだ。
そんなことがあった2日くらい後に流れてきたのが、あのニュース。
割れた卵の中に指とか鼻が入ってたからさ、もしかしたら見つかってない部分がさらに細かくされて、卵の中に入ってたんじゃないかなって思ったんだよ。
でも卵の中に入れるためには、卵を割らないといけないだろ? 俺が見た卵には割って接着したような跡なんてなかったよ。
だから荒唐無稽な話だっていうのは分かってる。
それに俺の耳元で囁いた声。あれだって恨みがましい感じの男の声だった。それもおかしいんだ。
だって、見つかった死体は女性だったじゃないか。女の声なら分かるけど、何で男の声がするんだよ。




