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もりとき怪談 第一集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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25/43

深夜のコンビニにて

 俺、ちょっと前までさ、深夜のコンビニでバイトしてたんだよ。

 22時から翌朝5時までの勤務で、23時頃までオーナーがいて、そこから朝までワンオペ。正直そのくらいの時間になるとたいして客も来ないし、レジ横の事務室で待機しながら防犯カメラの映像眺めて、お客さんが来たらレジに出るって感じで、けっこう楽なバイトだった。

 治安もいいところだったから、不良のガキどもも来ないし、0時過ぎて来るのなんて終電で帰ってきたんだろうなっていうサラリーマンとか、トラックの運ちゃんとかだった。

 オーナーから廃棄する弁当やパンを腹が減ったら食べていいって言われてたし、俺にとっては天国みたいなバイトだった。


 で、いつも通り事務室で防犯カメラの映像を眺めつつスマホやってたら、入店チャイムが鳴った。客が来たんだなぁと思って防犯カメラを見たら、この時間には珍しく女が来てた。

 その女っていうのがありえないくらいガリッガリに痩せてて、最初はカメラの映像がおかしくなったのかと思った。

 レジに出てみると、確かにガリガリの女が店内にいた。

 棒みたいな腕に買い物カゴを持って、商品の棚を見てる。服装なんかは全然普通で、オフィスカジュアルって感じだった。

 でも頬はこけてるし、目の周りも落ちくぼんでて眼球に皮が張り付いてるって感じだった。


 ちょっと気持ち悪いなと思ったけど、カゴを持って店内を歩いてる様子は普通だったから、俺はあんまり見ないようにして女が商品をレジに持ってくるのを待ってた。

 5分くらいして、女はレジにやって来た。

「お願いします」

 消え入りそうな、小さな声だった。

 でもレジ台の上に置かれたカゴには、何も入っていなかった。


「え? あの、お客様?」

 困惑して女の方を見ると、女はまっすぐ俺を見つめて「会計、お願いします」って言った。

 いや、お願いしますって言われても商品がない。これでどうやって会計するんだよ。イタズラかなんかかなって思ったけど、女はじっと俺を見続けている。

 俺も何だかヤケになっちゃってさ。


「袋、いりますか?」とか聞いて、何も入ってないカゴから商品を取り出すふりをして、ハンディでバーコードを読み込むマネ。

 もちろんレジには何も表示されないし、ハンディも何も読み込まない。それでも商品を袋に詰め込むような演技をして、最後に「1100円です」って言ったんだ。

 そうしたらその女、本当に金を払ったんだよ。

 冗談にしてもここまでやるかって思いながら、俺も続けるしかなくて「今、レジが故障しててレシートが出ないんですけどいいですか?」って聞いたら、女は頷いて、空のレジ袋を下げて出て行った。

 しばらく呆然として立ってたんだけど、これってまずかったかなと思って、女が置いてったお金はとりあえず募金箱に入れておいたんだ。


 これ、オーナーに話した方がいいのかなと思ってたけど、何となく話せないまま数日経った。

 そしたら、その女がまた来たんだよ。やっぱりカゴには何も入れないままレジに来て、その日も俺は適当な金額を言って、女はお金を払って、店を出てった。変な金額は吹っかけてないけど、女はいつも会計ぴったりに支払って、お釣りは出なかった。で、俺は受け取った金を毎回募金箱に入れてた。

 どう考えても良くないよなぁと思いつつ、でもその女になんて言っていいのかも分からず、何も売ってないのにお金をもらうってことを続けてた。

 徐々に今日もあの女が来るんじゃないか、今日こそはこんなことやめた方がいいんじゃないか、今度あの女が来たらちゃんと断ろう、みたいなことで頭がいっぱいになっていった。


 そして、またあの女が店に来たんだ。

 俺は今日こそちゃんと言おう、ちゃんと言おうと思って、レジに立ってた。

 やがて空の買い物カゴを持った女が、レジまでやって来た。いつも通り「お会計、お願いします」と小さな声で言う。

 俺は意を決して女に向かって言った。


「これまですみませんでした。でもあなた、何もカゴに入れてないですよね。こういうことをされると困ります」

 女の目が驚いたように見開かれたが、少しして口元が笑っているような形になった。唇の間から見える歯は乱杭歯みたいになってて、凄まじい笑みだった。

 俺は何かされるんじゃないかと思って、レジから一歩下がった。

 女は何も言わず、そのまま店を出て行った。女が消えてから、急に俺の心臓がバクバクいって、恐怖で膝が震えた。何とか事務室まで行って、椅子に座ったよ。


 その日はまたあの女が来るんじゃないかと思って、ビクビクしながら早番の人が出勤してくるのを待った。

 女が来るってことはなかったんだけど、俺は何だか気が滅入っちゃって、バイトを上がってからオーナーに電話して「急だけど実家に帰ることになって、しばらく戻れないからバイトを辞めたい」って伝えたよ。

 深夜のワンオペバイトなんてたいしたことないって思ってたけど、あの一件は意味不明すぎだった。

 お金をもらっちゃった俺も悪いけど、あの女は何がしたかったんだろうな。

 


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