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もりとき怪談 第一集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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えびす

 この間、大学時代のサークルのみんなで飲み会をしようってなって、そこで聞いた話。

 N先輩は、仲の良かった女友達と3人でとある海辺の町に行ったんだって。詳しい場所も聞いたんだけど、地名を出すのはあんまりよくないかなと思って、とりあえず西の方とだけ言っておくね。5年くらい前の話って言ってた。


 時期は3月の頃で、まだ寒い時期だったんだって。

 なんでその町に行こうってなったのかというと、その町で変な祭りがあるから。N先輩ってちょっと変わったところがあって、そういう民俗学みたいのが好きだったみたい。一緒に行った友達もそういうのが好きだったんだって。


 入り江があって、夜になるとそこに篝火をたいて町人がお面をかぶって出てくる。

 お面は何でもいいみたいで、もちろん縁日で売ってるアニメキャラのはダメだけど、みんな能面みたいなのとか、狐とか、ヒョットコとかのお面をつけてたんだって。

 観光客はお面をつけなくてもよくて、でもそんなに大きくもない町のマイナーな祭りだから、観光客なんてほとんどいない。

 見学は自由で、見学する人もお面をつけてない。町内でも見学に来ている人は老人ばっかりで、お面をつけているのは30人もいないくらい。その人たちが、笛の音に合わせて思い思いに踊ってるような祭りなんだって。


 で、N先輩たちはもっと奇祭っぽいのを期待していたから、大人たちがお面つけて浜辺で踊ってるだけじゃんって思って、飽きちゃって浜辺を散歩してからホテルに帰ろうってなった。

 その日は満月で波はキラキラ光ってたし、浜辺もけっこうきれいで、波の音と笛の音があいまって雰囲気はよかったみたい。

 そうして歩いてたら、友達のひとり――Aさんとするね。Aさんが「あっ」って言って急に走り出した。


 Aさんは立ち止まって、何かを拾い上げる動作をした。

 N先輩たちが近づくと、Aさんの手には赤い靴が片方。エナメルのバレエシューズって感じで、「誰か落としたのかね」なんて言い合ってた。波打ち際にあったせいで靴は濡れて、月明りにぬらぬらと光ってた。

 この辺りでは踊ってる人なんていなかったけど、誰か祭りの参加者が落としたのかもしれないと思って、N先輩たちは靴を持って祭りがやってる方に戻った。

 踊り疲れたのか立ち止まって祭りを眺めているお面をつけた男性がいたので、N先輩たちは「あの、これ落ちてました」と言って靴を差し出したのね。


 そうしたらお面をつけた人たちが一斉にこちらを振り返った。

 笛の音も止まって、一気に空気が張り詰めたって感じ。

 篝火の炎に照らされたお面は黒い影を落としていて、すごく不気味に見えた。

 N先輩たちが戸惑ってると、声をかけた男性がAさんの前に両手を差し出したから、Aさんは男性の手に赤い靴を置いたのね。

 男性は大事なものでももらったかのように靴を捧げ持ったまま深く一礼して、お面をつけた町人たちを引きつれてどこかに行ってしまった。

 それで祭りは終了。

 N先輩たちは「なんだったのかね~」なんて言い合いながら、ホテルに戻った。


 思ったより面白くない祭りだったねって話しながらお酒を飲んで、その日は寝たのね。

 そして翌朝起きてみたら、Aさんがいなかった。

 荷物もスマホも部屋に置いてあったし、大浴場が5時から開いてたからお風呂でも行ったのかねってもうひとりの友達と話してたんだけど、いつまで経っても帰ってこない。

 仕方ないから浴場まで見に行ったけど、Aさんはいなかった。そこでN先輩たちはパニックになって、ホテルの人に相談して、防犯カメラの映像を確認することになった。このホテルは0時~5時の間はフロントが無人になるんだけど、深夜の2時くらいにAさんらしい女性がホテル内を歩いているのが映っていた。

 その時間帯はホテルの出入り口も施錠されているから出入りはできないはずなんだけど、Aさんがホテルの出入り口に立つとカメラの映像が一瞬消えて、次に映像が映ったときにはAさんの姿はそこになかったんだって。


 警察にも連絡して、Aさんの親にも連絡して、みんなで探し回ったけど、結局Aさんは見つからなかった。

 今でも行方不明のままなんだって。

 その話の最後に、N先輩が言ったことが怖かったな。


 その地域では、えびす信仰があったんじゃないかって。

 知ってる? そう、七福神にもいるよね、えびす様。まぁ、N先輩はちょっと難しいこと言ってて私は分からなかったけど、豊漁の神様なんだって。

 それで、海からの漂着物があると、それをえびす様にするんだって。だから、あの夜に波打ち際で見つけた赤い靴も、あの町人たちにとってはえびす様ってこと。

 でね、海で亡くなった人の遺体が流れ着いた場合や、クジラやサメの死体なんかもね、えびす様って呼んで、埋葬して丁重にお祀りすることもあるんだって。

 でも中には、海で遭難して、生きて浜に流れ着く人もいるでしょ? そういう場合でも、えびす様ってことで、埋めることもあったんだって。

 その地域でそういうことをしてたかどうかは分かんないってN先輩は言ってたけど、私、いろいろ嫌な想像しちゃったよ。もしかしたら赤い靴は漂着物で、それを拾ったAさんも一緒にえびす様として埋められちゃったんじゃないか……なんてね。 



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