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もりとき怪談 第一集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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母さんとカエル


 俺ん家は母子家庭だったんだ。

 父親の名前も顔も知らない。

 母さんの両親も、母さんの妹夫婦も車で1時間くらいの所に住んでたんだけど、母さんは誰にも迷惑かけたくないって言って、女手一つで俺を育ててくれた。

 母さんは夜遅くまで仕事で帰って来ないから寂しい思いをすることもあったなぁ。暮らしは贅沢はできなくてもそこまで貧乏でもなかった。住んでたアパートもこじんまりとはしてたけど住むのに不便はなかったな。

 俺がひとりで留守番してるとときどき叔母さんと旦那さんがやってきた。「困ったことがあったらすぐに連絡してね」って連絡先の書かれたメモと100円玉の入ったお守りをくれたりして、すごくやさしい人たちだよ。


 俺にとっては母さんとふたりで過ごすことが日常だったし、そんなに困ってもないから普通に暮らしてた。

 でも、母さんにとってはそうじゃなかったんだな。

 まぁ、ひとりで働いて子どもを育てるなんて簡単なことじゃない。大人になった今なら分かるよ。

 それに俺が小さかった頃はまだ片親の家庭って少なかったから、世間の目もあったんだと思う。あとから知った話だけど、母さんは職場でも陰口を言われたり、軽いいじめをされてたみたいなんだ。


 俺がいなければ仕事を辞めることだってできただろうけど、母さんは仕事を辞めることもできなかったんだな。

 徐々に元気がなくなっていって、俺も心配して声をかけたりしてたんだけど、「大丈夫、大丈夫」って言って笑ってた。

 母さんは頑張ってたんだけど、ある日、限界が来たんだ。


 母さんはどうやって手に入れたのか、カエルを飼い始めたんだよ。

 ペットショップで見るようなやつじゃなくて、普通のカエル。

 休みの日とか、ときどき仕事から早く帰ってきた日には、カエルを眺めてニコニコしてる。

 俺も虫やカエルが好きで、俺も一緒にカエルを見て、母さんとニコニコしてた。

 で、そのカエルの数が、徐々に増えていったんだ。

 俺たちが住んでるところは確かにちょっと行けば雑木林があったりする長閑な土地で、母さんはどうもそういうところでカエルを捕まえては持って帰ってきてたらしい。

 最初のうちは俺もニコニコしてたけど、数が増えてくるに連れてだんだん気持ち悪くなってきた。


 それまで仕事で夜遅くに帰ってくることが多かったのに、学校に行っている俺よりも早く家に帰っているときもあった。

 様子がおかしいからか職場でも早く帰らされていたか、仕事をクビになってたんだと思う。

 それで、その日も俺が友達と遊んで夕方くらいに帰ってきたら、玄関に母さんの靴があって「あ、母さんが帰ってきてる」って思って、「ただいま」って声をかけたんだ。

 返事はない。

 でも奥の方から、母さんが何か言ってる声は聞こえたんだ。


 電話でもしてるのかなって思いながら母さんのいる奥の部屋を見たら、そこには異様な光景が広がってた。

 夕日が差し込む薄暗い部屋の中で、母さんは電気もつけずに座ってた。

 畳の上にはいつの間にこんなに増えてたのかたくさんのカエルがいて、いたる所をぴょこぴょこ這いまわってた。

 それで、母さんはニコニコしながら


「タケシ、タケシ、私の可愛い赤ちゃん」


 って言って、カエルを撫でてるんだよ。ちなみにタケシって俺の名前。

 母さんは頭がおかしくなってたんだ。

 カエルは母さんの手の中で、ぐったりしてた。


 俺は、俺の名前を呼びながらカエルを撫でている母さんが怖くて、そのまま家を飛び出した。

 家の近くにある薬局の前に公衆電話があったから、そこから叔母さんに電話をかけた。

 そのあと俺は叔母さん夫婦に保護されて、叔母さん夫婦から母さんの両親に連絡が行って、母さんはしばらく病院に入ることになったんだ。

 カエルであふれたアパートは引き払われて、俺も祖父母の家で暮らすことになった。


 それから何年も経って、母さんは今じゃすっかり元気だよ。

 意地を張ってたけどあんなことがあったからか、今では素直に祖父母と一緒に暮らして、叔母さんとも仲良くしてる。

 ぜんぶ丸く収まったけど、俺はいまだに、あの夕焼けに赤く染まった母さんの笑顔と、暗く落ちた影、這いずり回るカエルたちを夢に見ることがある。



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