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もりとき怪談 第一集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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孕んだもの


 俺は昔から怖い話が好きで、いろんな人に「怖い話はないか」ってよく聞いてたんだ。

 俺の叔父さんもけっこうオカルトが好きで、怖い話があるとお盆とか正月とかで集まったときに話してくれた。

 その叔父さんから聞いた怖い話。

 叔父さんが大学生の頃に教授から聞いた、教授のおじいさんが話してくれた怖い話ってことだから、明治か大正の頃の話じゃないかな。


 ある夜、村からひとりの男が消えた。

 翌朝、村に住んでいる若い娘がその消えた男から乱暴を受けたと言う。それからしばらくして、娘は妊娠していることが分かったんだ。

 暴行の上にできた子どもだったんだけど、娘は宿った命に罪はないと言ってそのまま産む決心をしたんだそうだ。

 村人たちも娘のひたむきな姿に心を動かされて、何かと世話を焼いてやった。


 そうして男がいなくなってから10ヶ月。

 娘の腹は臨月を迎えてまんまると大きくなったが、子どもが産まれる気配は一向にない。

 11ヶ月、12ヶ月と過ぎたがまだ産まれない。その間も娘の腹は大きくなる一方だったんだ。

 最初は見守っていた村人たちも、さすがに1年を越した頃には気味が悪くなってきた。

 娘は腹が大きくなりすぎて、動くことも難しくなってきた。そんなんだから一日中、家の中で座って過ごす。そこに娘の家族や村人たちが食事を運んだりしていた。


 やがて村では「あの娘は神か妖怪の子を宿しているのではないか」と噂されるようになった。

 娘は男に乱暴されたと言っていたが、実際は乱暴されていなかったのではないかとか、娘を襲ったのは山の神か妖怪なのではないかとか、あるいは男が何か禁忌に触れてその祟りを娘が受けたのではないか、なんて噂した。

 もし娘の孕んだものが神や妖怪の子であるならば、娘をぞんざいに扱うとこちらにも祟りがあるかもしれない。

 だから村人たちは、甲斐甲斐しく娘の世話を焼き続けたんだ。

 2年、3年と過ぎ、娘の腹はある程度の大きさになるとそれ以上大きくなることはなかったが、重くなりすぎて娘はほとんど動けなくなった。どうしても動く必要があるときは、ふたり掛かりで娘の腹を抱えてゆっくり歩くしかない。

 そして村人の中でも特に信心深い人たちは、娘を拝むようになっていた。


 間もなく4年が経とうかという頃、娘は衰弱して死んだ。ほとんど動けない状態で、健康な生活なんてできるわけない。むしろ4年もよく生きたもんだ。

 結局、娘が孕んだものが産まれてくることはなかった。

 この当時はまだ土葬が主流だったが、娘をこのまま埋葬して良いものか、村人たちは頭を悩ませた。

 娘の大きな腹に宿った何かごと、娘を埋葬するのか。それとも。

 困り果てた村人たちは、隣の村から坊さんを呼び寄せて相談することにしたんだ。


 隣の村の坊さんは、娘の異様な姿を見て事の成り行きを知り、状況はどうあっても通常どおり「身二つ」の埋葬をするべきだと主張した。

 「身二つ」っていうのは、妊婦が亡くなった場合、腹を割いて胎児を取り出してそれぞれ別に埋葬することだそうだ。

 村人の中には娘が神や妖怪の子を孕んでいた場合、腹を割くなんて恐れ多いのではないかと反対したが、村長が村人を説得し、娘の腹は割かれることになった。


 そして娘の腹は、興味本位で見物する村人たちの目の前で、坊さんの手によって割かれた。

 娘の腹から出てきたのは、あの夜いなくなった男だった。

 男は苦悶の表情を浮かべ、ガリガリにやせ細って死んでいた。男のへそからはへその緒が伸びて娘とつながっていた。

 娘は神や妖怪の子ではなく、自分自身に乱暴をした男を宿していたんだ。

 あまりに不可解な出来事であったが、村人と坊さんは二人をそれぞれ別に埋葬し、謎とともに遺体を地中に埋めた。


 そんな話。

 話し終わったあと、叔父さんは「これってどういうことだと思う?」って聞いてきたけど、俺はよく分かんなかったよ。

 娘の腹の中で育ってたのは、最初からその男だったのかな。それとも途中でその男になったのかな。

 どう思う?



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