表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もりとき怪談 第一集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/43

エミさん


 私は一時期、副業としてジャズバーでピアノを弾いていました。

 子どもの頃からピアノを習っていて、いつかピアノを弾く仕事をするのが夢だったんです。まぁ、実際はしがない事務員ですよ。でもやっぱり夢が諦められなくて、ノー残業デーの水曜日と、土曜日の夜に副業をしてました。


 ジャズバーでピアノを弾くのは楽しかったですよ。

 ひとりで弾くのも好きでしたし、日によってはジャズバンドと組んで演奏したり。

 夢中になってピアノを弾いていると本当に楽しくて、この時間が永遠に終わらなければいいのにって思うくらいでした。

 あの頃の私は、自分でもびっくりするくらい指が動きましたし、いつもなら難しくて挑戦しにくい曲でも、あのジャズバーのピアノの前では難なく弾くことができました。

 だから、あのジャズバーにいた頃の私って、本当は私じゃなかったんだと思います。


 その当時の私の髪型はショートボブだったんですが、ジャズバーでピアノを弾いていると何となく髪の毛を伸ばしたいなって思うようになったんです。

 髪を伸ばし始めたらびっくりするような早さで伸びて、5日間の出張から帰ってきた職場の人に「すごい髪が伸びたね」って言われるくらいでした。

 人の髪の毛ってたった5日間でそんなに伸びます?

 でも実際、ショートボブだった私の髪は、3ヶ月で肩甲骨の辺りまで伸びてました。


 あと、服装。

 ジャズバーで働き始めた頃の私は、どっちかというと黒とかネイビーを中心にしたシックなワンピースで演奏することが多かったんです。

 あんまり主役になるつもりがなかったというか、自分の演奏を聴いてもらいたいっていうのはあるんですけど、あくまでバーなのでお客さんの会話を邪魔したくなかったですし、ジャズバンドと一緒にやるときは私はサポートで、時々ソロでアレンジを弾く程度でした。だから目立つつもりはなかったんですね。

 それが気が付いたら派手な赤のドレスとか、色が黒の場合はちょっと露出度が高いドレスを着るようになってました。今思い出しても恥ずかしいです。


 ジャズバーでピアノを弾いているとどんどん「私を見て!」って気持ちになってきて、演奏に熱が入るのか、弾いている最中の記憶が飛ぶようになりました。

 我を忘れて最高に気持ちよくて、お客さんの拍手喝采でハッと我に返るような、そんなことが多くなりました。

 それで、そのジャズバーで演奏するようになってから1年くらい経った頃、演奏が終わったあとにひとりの老紳士って感じの男性が、私に話しかけてきたんです。


「久しぶりだね、エミさん。相変わらず君の演奏は素晴らしい。また君の演奏を聴けて嬉しいよ」


 私はエミなんて名前じゃありませんし、その男性も初めて出会う人でした。

 するとマスターが気まずそうに出てきて、その男性に何か耳打ちしたんです。そうしたら男性は驚いたように目を見開いて「そうか……」って呟いて、私に非礼を詫びました。

 私、気になって、閉店した後にマスターにエミさんについて聞きました。

 エミさんは私の前にこのジャズバーで働いていたピアニストで、亡くなった方でした。

 私がこのジャズバーに雇われたのも、エミさんが亡くなってピアニストがいなくなったからだったそうです。


 私はちょっと気味悪く思いましたが、あの男性客が間違えるくらいエミさんと私は似ているのかってマスターに聞きました。

 マスターは「全然似ていないよ、似ていないんだけどね……」と言いよどんで、少し時間をおいてから「最近は何だか、君の雰囲気がエミさんに似てきたと言うか、演奏中には君じゃなくてエミさんがピアノを弾いているような気分になるよ」って言いました。


 ジャズバーでのお仕事は楽しかったんですが、結局私はその店をやめました。

 髪もショートボブに戻して、自分の趣味じゃないドレスは捨てました。

 これは私の想像ですけど、エミさんの霊があの店にまだ残っていて、私に憑りついてたんじゃないかなって思います。

 だってあのジャズバーにいたときの私は、私の実力以上の曲を弾くことができました。あれはエミさんが憑依して私に弾かせてたんじゃないかって思うんですよね。

 よっぽどピアノを弾きたかったんでしょうね。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ