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もりとき怪談 第一集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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01 帰り道



 これは俺が小さい頃にじいちゃんから聞いた話だ。


 うちのじいちゃんはドがつく程の田舎に住んでる。

 母方のじいちゃんだったのもあって、じいちゃんの家に遊びに行くのは2・3年に1回くらい。

 そんな感じだから、じいちゃん家に行っても遊ぶ友達もいないし、外に行っても周りは山ばっかりだから迷子になりそうで怖かった。

 だから俺はずっとじいちゃん家に引きこもって古いマンガとか読んで過ごしてた。うちの母親には兄がいて、その部屋がそのまま残ってて古いマンガとかもあったのね。

 で、俺がよっぽどヒマそうにしてたからか、じいちゃんが若い頃に体験した話をしてくれたんだ。


 じいちゃんがばあちゃんと結婚したばかりの頃。じいちゃんはまだ20代で、山の中に入って猪とか鹿とかの猟をしてたんだって。

 ばあちゃんのお腹の中には子ども(俺の伯父さん)がいたから、じいちゃんは猟に精を出してたんだと。

 でもその日はさっぱり獲物が見つからないし、仕掛けた罠にも何もかかってなかった。

だんだん日も暮れて暗くなってきたから、じいちゃんは仕方なく帰ることにしたんだ。


 そろそろ見慣れた道に出るかってところで、周りはすっかり夜になってた。

 その辺りはまだ街灯なんかもなくて、ぼんやりした月明りだけが唯一の明かりだ。

 ばあちゃんも心配して帰りを待ってるだろうと一歩踏み出そうとしたら、着物の裾を何かにツンとつままれた。

 じいちゃんは振り返ってつままれた辺りを見てみると、黒い靄みたいなのがかかっていてよく分からないものの、子どもみたいな何かがいたんだ。

 じいちゃんは狐か狸が化かしに出てきたのかと思ったが、その割には妙に弱々しくじいちゃんの着物の裾を掴んでるんだと。


 じいちゃんが黙ってると、その何かが「帰り道が分からなくて怖い。(にれ)の御山まで連れて行って」と言った。

 楡の御山ってのはこの近くにある神社のことで、楡の木を御神木にしているからみんな「楡の御山」って呼んでたんだ。

 その何かの声が今にも泣きそうな子どもみたいな感じだったから、じいちゃんは何だか可哀想に思って楡の御山まで連れて行くことにしたんだ。楡の御山は聖域みたいなもんだから、そこに連れて行けと言うなら悪いものではないだろうとも思ったんだって。

 じいちゃんが歩き出すと、その何かもじいちゃんの着物の裾を掴んだままついてくる。

 そうして歩いていると、急に生臭いような匂いが漂ってきた。それで、道のわきの草むらの中からじいちゃんを呼ぶ声がしたそうだ。


「やぁ、変なものを連れているじゃないか。それは良くないものだ。俺が食ってやるからここに置いていけ」


 じいちゃんが言うには、何か水の中にいるような、ごぼごぼしたくぐもった声だったらしい。

 着物を掴んでいる何かが、ぎゅっとじいちゃんの体に抱きついた。怯えてるみたいだったから、じいちゃんはその何かを手でかばうようにして引き寄せて、猟銃に手をかけながら進んでいった。

 声はその後もしばらくついてきて、それを置いて行けば果物をやるとか、きれいな石の在り処を教えるとか言っていたけどじいちゃんはぜんぶ無視した。

 そうして、楡の御山に続く石段に着いた頃にはそんな声も聞こえなくなっていた。


「ここでもう大丈夫。送ってくれたお礼にこれをあげる」

 そう言って何かはじいちゃんの手に小さなお守りみたいな袋を渡した。袋はボロボロだったけど、中に丸くて固い物が入っているのが分かった。

 じいちゃんの目には石段を駆けのぼる黒い靄が見えてたんだけど、途中で夜の闇に溶けるように消えてしまった。


 じいちゃんは不思議なこともあるもんだと思いつつもらったお守りを着物の合わせにしまって、ばあちゃんが待つ家に帰った。

 その帰り道で、さっきのごぼごぼした声がまた聞こえたんだ。

「あれを俺によこせば良かったのに。かわりにお前の右目をもらうぞ」

 急に、自分の右側が真っ暗になった。じいちゃんは驚いて右目をおさえた。ケガはしてないし、てのひらに自分のまつげが当たってまばたきしてるのも分かる。でも手は見えない。声が言った通りに右目が見えなくなったんだ。

 じいちゃんは猟銃を構えたけど、右目は見えないし真っ暗な草むらの中で声の主がどこにいるかも分からない。


「次は左手をもらうぞ」

 ごぼごぼした声が笑うように言った。

 途端に左手に力が入らなくなって、猟銃が落ちた。じいちゃんは怖くなった。

 神様、神様、助けて!

 って念じてたら、腹の辺りがじんわり温かくなって、感覚が戻って来た。気が付いたら右目も見える。

 着物の合わせに手を突っ込んで見ると、さっきもらったお守りがじんわり温かくなっていた。

 じいちゃんはさっと猟銃を拾って構えて、とりあえず声が聞こえる方に一発撃ち込んだ。


「あぁ、悔しい、悔しい。ならばお前の息子をもらう」


 ごぼごぼした声はそう言って、草むらをガサガサ鳴らした。その音はじいちゃんから離れて山の中に消えていった。

 それ以降は変な声は聞こえなくなったんだけど、じいちゃんはゾッとして慌てて家に帰った。じいちゃんはばあちゃんのお腹の中にいる子どもに何かあるんじゃないかと思ったんだ。

 家に帰るとばあちゃんには特に変わった様子もなくて、じいちゃんはほっとした。

 じいちゃんはばあちゃんにさっきあったことを話して、お守りはばあちゃんに持っててもらった。

 その後、ばあちゃんは無事に伯父さんを産んだ。でもじいちゃんは変な声が言ってた通りに息子が生まれたから、いつかあの声が伯父さんを取りに来るんじゃないかと思って、今度は伯父さんにそのお守りを渡したんだ。


 これが、俺がじいちゃんから聞いた話。

 この間、伯父さんに会ったときにこの話を思い出してお守りを持っているか聞いてみたら、まだ持ってた。

 でも袋はボロボロになっちゃったから、着物の端切れみたいなので新しい袋を作って、今も大事にしてるんだって。



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