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09

 村に戻るために洞窟を引きかえしていくアンナと女冒険者の姿が完全に見えなくなったところで、

 

 「ところで…お前らたちはいったい何時から俺の後を付けていたんだ?ん?どうせお前の精霊で様子を探っていたんだろ?」


 ぎぎぎっと音をたてながら首があり得ない角度まで振り返っている(ように見える)ヨハン。


 人間の限界を超えたホラーな動きをするヨハンに、


 「騎士長が王都の城門を出てしばらくしてぐらいですかね…」


 愚痴のほとんどすべてを聞いていたことを自白するガブリエル。


 嘘をついても良かったが、後でアンナに確認でもされたら面倒だと思ったのだ。アンナはどうせ騎士長にきかれたら本当の事を言うだろう。そういう融通がきかないタイプなのだ。


 (それにしても俺たちが盗聴していた事に気づいていたわりに、さっきは素知らぬ顔でアンナに対応していたな。俺だったら気づいた瞬間に絶対取り乱すわ~。さすがは騎士長)


 ヨハンの精神力の強さ?にガブリエルは感心している。


 今もガブリエルの口から盗聴していたことをハッキリ告げられてもヨハンの反応は落ち着いたものだ。


 「あ~なるほどねー。全部きいていたんだー。あー、はいはい。なるほどねー」


 なぜかうんうんと頷きながら、納得しているような表情をしている。

 

 (よかった~。ぶちギレられたらどうしようかと思ったよ~)


 ガブリエルがほっと胸をなでおろしたその瞬間、

 

 「マジかよ~。あ~、やっちまったよ!マジで!絶対、ひかれたよ~!絶対、ヤバい奴だって思われたよ~!部下にヤバい上司だって思われちゃったじゃん!最悪だー!」


 その場でしゃがみんで頭を抱えたまま大声で叫び出すヨハンだ。

 

 (あっ、ちゃんと取り乱した)


 ヨハンが取り乱したことに妙に納得するガブリエルだがヨハンの叫びは更に続いていく。


 「どうせお前たち俺の事を器のちっせーヤツだと思ったんだろ!あ~、きかれちまったよ~!最低なところをを~!お前たちもさあ、聞いていたなら直ぐにでてくればいいじゃん!俺が一人で行くの嫌がってたのは分かっただろ~。何で出て来てくれなかったんだよ~」


 批判の矛先が自分たちに向いてきそうになってきたところで、ガブリエルはヨハンに劣らない大きな声で釈明?をする。


 「あの、すいません!正直、どっちなのかわからなくて!あの場合、出ていくのが正解なのか、出て行かないのが正解なのか!それにあれだけ愚痴を言ってれば正直なところ、こっちも出て行きにくいんですよ!実際、こうやって取り乱してるじゃないですかー!」


 謝りながらもしっかり反論してくるガブリエルにヨハンはたじろぐ。まさか反論されるとは思っていなかったようだ。


 「おっ、俺が悪いのか?!」


 「悪いって言うか…。騎士長のせいでもありますよね、俺たちが出て行きにくくなったの…」


 「…っ‼」


 声にならない声を上げて伸び上がるヨハン。その顔は気絶した人間のように目が半開きになり、一気に十歳くらい歳をとったようになっている。


 (この顔されたらこれ以上どうすればいいんだよ…)


 ガブリエルが扱いの難しい上司に困惑していると、


 「こういう奴には、もっとはっきり言ってやるんじゃ。『お前が悪い!』とな」


 いつの間に出現したのか金髪大男の精霊が茶々を挟んでくる。しかし、これが効いたのか、


 「お前には言われたくないわ!っていうか呼んでないだろ!勝手に出てくるな!」


 なんとか意識を取り戻したヨハンが精霊を怒鳴りつけているが、精霊はまったく意に介さない。


 「だって、お前はわしを呼ばんじゃないか。さっきだってわしじゃなくて炎兎を呼んでたし。どうせ女相手だから兎とか出しとけばウケるとか思ったんじゃろ。単純じゃのー」


 「はっ、はあ?!違うし!ぜっ、全然そんな事考えてねーし!」


 精霊の指摘が図星だったのかヨハンはわかりやすく動揺している。


 (…この人、そんな事考えてたのか)


 ガブリエルの呆れた視線に気づいたヨハンはごまかすように精霊に八つ当たりする。


 「呼んでないのに出てくるなー!さっさと帰れ!」


 「そう言わんと。せっかく、わしが話をつけてやろうと思ったんじゃ。この奥におる精霊と話をするんじゃろ?いっとくが、わしならたいていのやつを黙らせることができるぞ?」


 完全に契約精霊というよりは、ガラの悪い地元の(ちょっと嫌な)先輩のような態度の精霊だ。


 「うるさい、うるさい、消えろー!」


 「へいへい。じゃ、またな~」


 そう言って精霊が消えた後、ヨハンはぜいぜいと肩で息をしている。怒鳴って疲れたのか、精霊を無理やり追い返して疲れたのかよくわからないが確実に疲労していた。


 「本当に頼らなくてもよかったんですか?あの精霊めちゃくちゃ強いですよね?」


 ガブリエルも精霊騎士だけあって精霊の強さを感じ取る事はできる。


 と言っても判別できるのは『弱い』『普通』『強い』といった三段階でざっくりわかるくらいなのだが、ヨハンの精霊を今回初めて身近で見て思ったのは『ヤバい』だ。


 今までも遠くから見たり、一瞬だけ近くで見たこともあったが、今回のようにしばらく近くにいてわかったのだ。


 (あれは『えげつない』)と。 


 あの金髪の精霊が相手ならヨハン以外のクギョウロキ王国の精霊騎士を総動員してもとてもかなわないだろう。バカみたいな会話をしていたのに、それだけの力の差を感じさせたのだ。あの精霊が仲介すればたいていの精霊は言う事をききそうだ。


 「まあ、心配するな。俺だって勝算がないわけじゃない。ちゃんと準備もしてきているしな」


 ヨハンはそう言って自信ありげに何かが入った袋をガブリエルに見せる。


 「それなんですか?」


 「まあ、見てのお楽しみだ。ただ、手に入れるのに相当苦労したとだけは言っておこう」


 ドヤ顔で思わせぶりな言い方をするヨハン。


 (こういうところがモテないところなんだろうなあ…。本人はいいと思ってやってるんだろうけど)


 それがわかっているくせにあえて指摘しない『わかっている部下』、ガブリエルなのだった。

来週も更新します。

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