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07

 ヨハンが悲鳴の元に駆け付けると、二十歳くらいの女性冒険者がオーガに襲われて倒れ込んでいたところだった。彼女が悲鳴の主だのだろう。


 まわりにゴブリンの死体が何体かあるのでそれらは自力で倒したのだろうが、このオーガに遭遇して危機におちいったようだ。


 こういった時のヨハンの行動は早い。いつも愚痴ばかり言っているが、その実力は確かで精霊騎士長の地位は伊達じゃないのだ。


 「飛び跳ねろ!炎兎」


 ヨハンは道中で話をしていた金髪の大男の精霊とは別の精霊を呼び出している。炎の精霊で兎の姿をしているそれは可愛い見た目には似合わずヨハンの命令に従い一瞬でオーガだけを黒焦げにする。


 女性冒険者とオーガはかなり接近していたにも関わらず、炎兎は女性冒険者に火傷ひとつ負わせることなくオーガだけを正確に燃やし尽くしている。


 これだけ正確に標的だけを攻撃するのは普通の魔法では制御するのがかなり難しいのだが、精霊に任せると簡単にできてしまう。こういった精密性も精霊魔法の強みであるのだ。


 (決まったな…)


これ以上ないシチュエーションで助けに入る事ができた、とヨハンは内心にやけていた。しかし、あえて厳しい顔を作り直して助けた女冒険者に向ける。


 「あぶないところだったな」


 「あっ、ありがとうございます」


 冒険者はいきなり現れてオーガを瞬殺したヨハンに驚きながらも、丁寧に頭を下げてお礼を言っている。


 そして驚いたままでヨハンを見上げたその顔は美女とまではいかないがなかなか可愛いらしい顔をしている。


 絶世の美女とまではいかないが、ある意味気軽に声をかけやすいモテる感じの容姿だろう。


 しかし、これに対してヨハンは、

 

 (…いい。すごくいい。めちゃくちゃ美しいじゃないか!)


 とかなり過大評価してしまっている。


 実はこの騎士長はかなり惚れやすい(『モテない』ともいう)ので、この女冒険者は実は普通の可愛さに過ぎないのだが、危ないところを助けたという状況もあいまってヨハンにはものすごく可愛く見えていたのだ。


 普通は助けられた方が助けた相手を実際よりもよく評価しそうなものだが、この場合は違っていた。


 助けられた女冒険者の方は、普段は見せないとっておきの男前っぽい表情をしているヨハンに対して、(うーん、イケメンっぽい雰囲気だけど…普通?)と状況に流されずに冷静に判断している。


 ただ、女冒険者は自分の方も普通くらいの容姿と自覚しているので、ヨハンの視線がまさか自分をとびきりの美少女を見るものだとは想像もしていない。


 そのためヨハンの妙に熱っぽい視線が意味することがわからずに、


 「あの…何か?」


 と警戒するように問いかける。一応、命の恩人なので失礼な事はできないが、すでにヨハンの事はちょっと怖いと思い始めている。


 そうとは知らないヨハンは、


 「いや、なんでもない。しかし、君はこんなところで何をしていたんだ?」


 見とれていたのをごまかすように女冒険者にたずねる。冒険者がこの洞窟に来る目的は一つだろうが、念のため確認しているのだ。


 「村の人に頼まれてこの洞窟の精霊の怒りを鎮めようとやってきたのです。ただ、洞窟のモンスターに囲まれてしまってオーガに襲われていたところをあなたに助けられたのです」


 予想通りの答えにヨハンは少し考える。


 (この冒険者に精霊の事を話したのはあの村長か?いや、違うな。あの村長が頼んだのならこの事をあらかじめ俺に言っているだろう。「先に冒険者が入っています」とな。あのおっさんはそう言うタイプだ。ということはおおかた村の住人が独自に頼んだと言ったところか)


 このヨハンの考えは半分は正しい。


 この女冒険者はたまたま立ち寄ったこの村の窮状を知って「私に任せてください!」と村人が半ば止めるのもきかずにこの洞窟に来たのだ。つまり村長は頼んでいないが、村人も頼んでいないのが正解なのだ。


 しかし、ヨハンが気になったのはそこではない。


 「君は精霊魔法が使えるのか?」


 精霊の怒りを鎮めるなら精霊魔法を使う素質がなければまず無理だ。それができるという事は精霊魔法が使えるということなのだろう。


 「いえ、まだ契約している精霊はいませんが声を聞くことはできます。だからなんとかなるかと…」


 自信なさげに答える女冒険者にヨハンは厳しい言葉をかける。


 「そうか。でも、それは無茶だ。この奥にいる精霊は並みの精霊じゃないはずだ。声を聴くことができる程度ではどうにもならないぞ」

 

 まあ、精霊魔法が使えればオーガ程度におくれはとらないだろうから精霊魔法が使えないのは本当なのだろう。


 だが、精霊の声を聞くことができるのは精霊魔法使いとしての素質があるに違いない。精霊騎士長としてリクルートに悩んでいるヨハンとしては見逃す手はない。


 (このまま一人で帰すわけにはいかないな)そう考えると、

 

 「自らの力量を考えずに引き受けたのは迂闊だったな。仕方ない、一度村まで送っていこう」


 ヨハンの申し出に女冒険者は少し考えるが、


 「いえ、結構です。ここであなたに送ってもらったらこの洞窟の精霊の怒りを鎮めるのが遅くなります。そうなると村に迷惑をかける事になるので私は一人で帰ります」


 女冒険者が言っている事は確かに理屈が通っているので止める理由はないのだが、ヨハンとしてはそうもいかない。

 

 「いやいや、送っていくぞ。村に宿を取っているのか?そこまで送っていこう」


 「本当に結構ですから!」


 しつこく送って行こうとするヨハンに、女冒険者も強めに拒否しだす。


 特に宿まで送って行こうという言葉が余計な警戒心を女冒険者に抱かせている。


 女が一人で冒険者などをしていたら、この手の男が言い寄ってくるのはよくあるのだ。


 (これってナンパよね?でも、この人、一見強気に見えるけど、根は気が弱そうだからキッパリ断れば大丈夫そうね!)


 となかなか鋭い観察眼をしているが、完全にヨハンの目的は精霊騎士としてのスカウトではなくナンパだと思っている。


 しかし、実際のところヨハンも純粋に精霊騎士としてスカウトしたいだけでなく、『この可愛い子とお近づきになりたい』というよこしまな気持ちもあるにはあるのであながち間違っていないのだ。


 つまりヨハンはその本心(下心)を女冒険者にしっかり見抜かれているために話がややこしくなっている。

次回は土曜日に更新します。

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