05
「精霊騎士長ヨハンです。この度は私の部下が失礼いたしました」
目的の村に着いたヨハンはさっそく村長の家を訪ねていた。ちなみに先ほどの金髪の大男の精霊は村に入る少し前に「わし、あきたから帰るわ」と姿を消しているので今はヨハン一人だ。
「精霊騎士長様自ら来られたのですか!そんな恐れ多い!こんなところまでよくいらっしゃいました。ほら、お茶の用意をせんか!」
村長は精霊騎士長が自ら来た事に驚き、ペコペコと頭を下げながらもせわしなく家僕を叱りつけている。
精霊騎士長と言えば他の騎士団で言えば騎士団長にあたる身分だと聞いている。地方の村からしたら雲の上の存在である王国の幹部が来たのだ。粗相があってはならないと村長の顔に緊張が走る。
「いえ、お構いなく。それよりも問題の精霊がいる場所を教えてください。さっそく対処いたします」
内務大臣の言葉に毒されたのかヨハンは思わず『対処』という言葉を使ってしまって、苦々しく顔をゆがませれるがそれも一瞬の事だ。
しかし、その一瞬を村長は見逃していない。田舎の村長にしては目端の利く方なのは今回の精霊事件が起きてからすぐに王国が動くように働きかけた事からもよくわかる。
「いえいえいえ!少しでも休んでいってください。そうしなければわたくしの気がすみませんから!」
「そうですか、では…」
実は急いで出立したのでそれなりに疲れていたヨハンが言葉に甘えて腰を据えようとすると、
「…ですが、村人たちは大変不安に思っています。怒らせてしまった精霊様がいつ何時、村に災悪をもたらすかと思うと気が気でないというか、今も皆怯えていたところです」
と村長は目線を下げながら大げさな身振りで嘆息している。
(嫌な事言うなあ…)とヨハンは思いながらも休息をあきらめる。普通はヨハンくらいの身分の者なら田舎の村長のため息など無視して腰を据えるところだろうが、この騎士長はこういった事が気になるタイプなのだ。
「わかりました。では、さっそく…」
「いーや、お待ちください!いくらなんでもおもてなしもしないのは失礼になります。この村ではそんな失礼な事はできません…ところで騎士長様はお一人で来られたんですか?お連れの部下の方とかは?」
「急を要する事態だと思いましたので私一人で参りました」
「あ~、お一人ですかぁ…」
小声で言う村長はあからさまに残念そうな態度を隠せていない。たった一人ではどうにもならないとでも思っているようだ。
(言いたいことはわかるがあからさま過ぎないか?)
どうもこの村長はちょくちょく本音が漏れ出ているところがある。
「時間をかけて用意して来ても村に被害が出てからでは遅いでしょう。もっとも、今回の件を引き起こした騎士は連れてこようと思いましたが、彼は未熟ですからあえて置いて来たのです」
本当は張本人が「定時だからあとはよろしく」と帰っただけなのだが、意図的に置いて来たかのようにヨハンはとぼけている。
そんな事情を知らない村長は(ここまでハッキリと言われるのはそれだけ自信があるのか?)とヨハンを改めて値踏みする。
精霊騎士長と名乗るこの青年は二十代後半くらいに見えるが、そのわりに苦労をしているような顔をしている。男前と言えば男前なのだが、無条件にモテるタイプではなく人を選びそうだ。
正直、あまり強そうに見えないが、かと言って無謀な事はしないタイプにも見える。なにより身分に相応しい偉ぶったところがない。
普通の田舎の村長ならここでヨハンに好感をもつところだろうが、この村長は違う。(こいつは扱いやすいが来た)とヨハンの本質的な人の好さを見抜いてほくそ笑んでいる。
「つまり、騎士長様がお一人で急いでこられたのは、それが最善であるとお考えだったのですね!」
村長はヨハンを持ち上げるように、さも驚き、その思慮深さに感心したかのように目を見開いている。
もちろんヨハンが一人で来た理由は全く違うのだが、「その通りです」とヨハンはそれらしく頷いている。
しかし、この言葉は迂闊だった。「その通りです」に勢いを得た村長は畳みかける。
「なるほど。騎士長様はそれほどまでに急いで来られたのですね!ではその思いを無にするわけにはいきませんな!本っ当に残念ですが今、すぐに、お立ち下さい。そうですよねえ、今回の事は元はと言えば精霊騎士様が原因ですからこの村に被害を出すわけにはいきませんよね!あっ、だからと言って、わたくしたちは被害が出たとしても騎士様たちを責める気持ちなんてこれっぽっちもありませんよ!ええ、ありませんとも!ありませんとも!そんなことはありませんとも!」
「今すぐ行きます…」
同じ言葉を繰り返す村長にどっかの大臣の面影をヨハンは感じて嫌な気分になる。
もはやヨハンは旅の疲れなのか、村長を相手にする事の疲れなのか、わからなくなっていたが重い足取りを引きづりながら精霊のいるという洞窟に向かうのだった。
明日も更新します。




