02
今回の揉め事をまとめると、精霊騎士と呼ばれる精霊を操る騎士(新人)が『調査』を命じられた精霊と勝手に契約しようとして失敗し、精霊を怒らせてしまった。しかもどうやらその精霊は近隣の村に大災害を引き起こしかねないほどの強力な力を持っているらしく、すでにその前兆もあったので早急な対応をさせるために内務大臣がその上司である精霊騎士長ともども叱りつけていたというところだ。
分かりやすく言うと新規の取引先にとりあえずの顔つなぎに挨拶に行った新人社員が自分の方が相手方より立場が上と勘違いして契約してやろうと上から目線で言って、取引先が激おこ。このままでは地方支社に大損害を与えることになる可能性が出てきた。
それを知った本社の幹部が新人を叱りつけていたが、一緒に来ていた新人の直属の上司がその間に入って新人をかばってその責任を押し付けられた。←いまここ。
そんな、なかなかやらかしている新人騎士エドヴァルトは上司である精霊騎士長ヨハンと二人になると神妙な顔をして、
「騎士長…申し訳ありませんでした」
と一応謝っている。先ほどの大臣に対する時よりはだいぶ申し訳なさそうではある。彼なりに本心から謝っているのだろう。
「いや、過ぎたことは仕方ない。ただ、もうちょっと大臣の問いにちゃんと答えてもよかったんじゃないのかな?」
(あの態度はなかったよなあ)と思いながらも慎重に言葉を選んで問いかけるヨハンに、
「え?でもあれって、『正しい答え』じゃなくて『大臣が考える正しい答え』を言うだけですよね?意味なくないですか?だって、結局は騎士長にどうにかしてもらえって事でしょ?大臣はそれが分かってますよね?でも、それを言ったら言ったでどうせ難癖付けてまた怒るだけでしょ?『お前は上司に責任を押し付けるつもりか?自分でどうにかしようとしないのか?』って。どうせボクの力じゃどうにもならないのはわかってるし、あれは説教を長引かせる理由を引き出すためだけの無意味な質問でしょう?」
大臣に詰められていた時とは別人のように饒舌に答えるエドヴァルトだ。
(こいつ、叱られながらそんな事を思ってたのか?)とヨハンは唖然とするが(まあ、確かにその通りなんだどな…)と思わず共感してしまったヨハンはエドヴァルトを怒りにくくなってしまう。
言い方はよくないが本質的にはエドヴァルトの解釈は間違っていないから質が悪い。
とはいえエドヴァルトの態度にも問題がなかったわけではないし、ここは上司としては毅然と指導するべきところなのだろう。
(と言っても、ただ怒ればいいってわけじゃないからな…。下手に刺激して『辞める』って言われても困るし…)
精霊騎士は貴重だから指導するにしても言葉を選ばなくてはいけない。少なくともエドヴァルトが納得するような内容にするべきだろう。
(難しいな…)ヨハンがどう声をかけようかと悩んでいると、
「そもそも騎士長もどうせならもっと早く止めてくださいよ。どうせ結果は同じなんだし、さっきも言いましたけどお説教が長くなるだけ時間の無駄でしょ。もっとタイパを大事にしましょうよ」
ぬけぬけというエドヴァルトに(もう、辞めてもいいから叱るか?)とさすがに好人物のヨハンでもキレそうになると、その様子に目ざとく気付いたエドヴァルトは、わざとらしく反省したように目を伏せる。
エドヴァルトは見ているかどうかわからないような糸目の癖にこういった観察眼はしっかりある。
「…いや、ボクだって少しは悪いと思っているんですよ。でも、うまくいけば強力な精霊と契約できるかなって思ったんですよ、マジで悪気はなかったんです。いまだ足手まといである新人のボクが強くなれば他の精霊騎士たちや国のためにもなるし…」
普通ならこんな見え透いた言い訳に納得する者はいないだろうが、この騎士長はチョロかった。まあ、人がいい。
(まあ、そうだよな。俺だって新人の時は焦って契約しようとした事もある。…契約精霊の数を早く増やしたかったからな。今はそんな事は思わなくなったが新人に最初からそれを求めるのは酷か。失敗から学ぶこともあるし)
ヨハンは自分が新人の頃の心境を思い出して、エドヴァルトが『調査』と言われた指示を無視して契約をしようとした気持ちを理解しようとする。
もっとも、気持ちがわかるだけでヨハン自身は新人の頃でもそんな失敗はしていないが、(俺たちの頃とは時代が違うしな)とたいして歳が違わないくせにおじさんの様な考えをしている。
そこで今回の件では精霊を怒らせたことにはふれずに、エドヴァルトがうまく対応できた点だけを褒めてやる事にする。
「いや、気にするな。おそらく相手は神級の精霊だ。その場で無理に一人で対処せず、戻ってきたお前の判断は正しい」
ここでヨハンがエドヴァルトに期待したのはヨハンの激励を受け入れた上での「命令に反した勝手な行動をしてすみませんでした」という反省の言葉だったが、そんなしおらしい事を言うエドヴァルトではない。残念な事にヨハンの言葉を額面通りに受け取っている。
「そうですよね!今回の事で言えば相手が神級精霊だとわかっていなかったという組織としてリサーチ不足があったわけだし、それをボクに任せたって事で考えればあながちボク個人だけのせいではないですよね。ここはやはり個人で責任をとるのではなく組織として責任をとって頂くという事で。それでは騎士長殿、後はよろしくお願いします!」
「ん…後はよろしく?」
「じゃあ、ボクは帰りますね。定時なんで」
「君は…帰るのか?私一人に任せて?」
「どうせボクがいても役に立たないでしょ?相手はたぶん神級なんでしょ?そんなのが相手だったらボクなんていてもマジで足手まといになるだけですよ!お疲れさまでした!」
あまりにも明るい声で言うので『聞き間違いかな?』と目を丸くするヨハンだが、エドヴァルトはそのまま振り返ることもなく去って行く。
「あれー?帰っちゃったなあ…まじかぁ」
呆然とたたずむヨハンはエドヴァルトの姿が見えなくなっても、その方向をしばらく向き続けるのだった。
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