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017


 駐留兵たちが石を集めている場所に戻ってきたエドヴァルトは自分の眼を疑う。


 「すごいな。この短時間でよく…」


 山のように積まれた石、というか大半は何かを壊したような瓦礫だが、エドヴァルトの注文通りの大きさの物が大量に集められている。


 想定外の事態に言葉にならないエドヴァルトに対して駐留兵が誇らしげに、


 「主にこちらにいるシスターが集められたのです」

 

 黒い修道服を着た小柄な少女に手を向けて紹介する。見たところ十五、六歳くらいだろうか。見習いではないとすればシスターとしてもかなり若い。

 

 「どうやって集めたんですか?えーと、シスター…」


 「マリオンですわ。精霊騎士様」


 弾けるような笑顔で答えるマリオンにエドヴァルトはちょっとたじろぎながら質問する。


 「シスターマリオン、改めて聞きますがこれほどの瓦礫をどこから調達したのです?」


 エドヴァルトの注文していた千個の倍以上の数の瓦礫はとても短時間で調達できる量ではないはずだ。まともな方法では。


 「必要と聞きましたので聖堂の壁からちょっと拝借しました」


 「聖堂の壁を壊したのですか!?シスターの、あなたが?」


 予想通りまともな方法ではなかったが、あまりの非常識さにエドヴァルトは思わず聞き返してしまう。聖堂と言えばこのシスターが信仰している創世母神の祀られている絶対不可侵の神聖な場所のはずだ。


 「はい。村の皆さまの安全を守るためですから、後で直せばきっと我らが母神も許して下さるでしょう。だって、人が住んでいる建物を壊すとその人が困りますけど、母神様は壁が壊れていても大丈夫でしょうからね」


 (そういう問題なのか?)


 現実的すぎる意見を言うマリオンにむしろエドヴァルトの方が罰当たりな気がしている。


 「あっ、と言っても壊したのはわたくしではありませんよ。さすがにそんな力はありませんからね。わたくしの許可の元で村の石工にお願いしたのです」


 この際、誰が実際に壊したかなど問題ではないのだがマリオンは慌てて手を振って、目を閉じると創世母神に言い訳するようにわざとらしく祈っている。


 (ボクも信心深い方じゃないけど無茶苦茶するなあ、この子。ホントにシスター?)


 マリオンの告白にエドヴァルトは若干ひいてる。しかし、エドヴァルトがひいていることに気づかずに、


 「この瓦礫を運んでおくのによい場所があるのですが。というか一部はすでにそちらに運ばせています」


 と、普通の騎士相手なら余計な事だと怒られかねない事をしている。


 しかし、エドヴァルトはそれくらいで怒るような性格ではないし、もはや怒るよりもどこに運んでいるのかが気になっているので大人しくその場所を案内してもらうのだった。




                       *


 


 マリオンに案内されたのは村の北側にある見透しのいい高台だ。エドヴァルトもこの近くに準備しておくつもりだったが、その場所よりもこちらの方がより適しているようだ。


 村に来て日の浅いエドヴァルトよりも村の地形に詳しいのは当然だが、エドヴァルトの意図がわかっていなければここに石を運ぶことはないだろう。


 「君、ボクの契約精霊が何か知ってるの?」


 そんなわけはないと思いながらエドヴァルトは思わず聞いてしまう。


 「いえ、知りません。ですが、石を集めるように駐留兵の方に頼まれた後に武器庫をお訪ねになったのですよね?ですから恐らく矢のように投てきして使われるおつもりなのかと」

 

 小首をかしげて指摘してくるマリオンに、


 「当たりだよ」


 エドヴァルトは何とも言えない表情になっている。


 瓦礫の使用方法まで当てられてエドヴァルトはこのシスターはどうなっているんだと思う。勘がいいでは済まないレベルだ。


 「しかし、あれほどの大群を本当にそれで撃退できるのでしょうか?駐留兵の方には魔法を使える方もいませんし、私もそんな魔法は使えませんよ」


 マリオンは集めた瓦礫を魔法で飛ばすのではないかと推察しているらしい。確かに少人数で手で投げても大した効果はないのでその見立ては合っているが、その場合、誰がするのだろうと疑問を抱いているようだ。


 「それはボク一人でやるから大丈夫だよ」


 この精霊騎士がどんな魔法を使うつもりなのかわからないが、人間一人の魔力ではこの瓦礫を十個同時に飛ばせればいい方だろう。しかも、連続で5分も使えば魔力切れになるはずだ、とある程度魔法の知識があるマリオンは思っているのだ。


 「お一人で千匹のゴブリンを撃退できるのですか?」


 マリオンは驚きながらも素直にきいてくる。 


 「撃退は無理だね。まあ、魔法騎士連中が残っていれば撃退できる案があったけど。彼らがボクの話を聞いてくれればよかったんだけどね」


 「では、あの方たちがいなければ無理なんですか?」


 「ああ。残ったボクたちだけであの数を撃退するのは無理だね。…だから撃退するのはあきらめて時間を稼ぐ」


 エドヴァルトは撃退は無理でも時間稼ぎならできると言うが、


 「時間を稼ぐって…それでどうにかなるんですか」


 マリオンは時間を稼ぐ事にあまり意味がないと思っているようだ。ここは堅固な城塞ではなく、只の田舎の村だ。守るに適しているとは言い難く、どうやっても長くは持たないだろう。


 「時間を稼げば何とかなると思うよ。幸いうちの騎士長があいつらが援軍を呼びに行った町に来ているはずだよ。騎士長に連絡がつけば、きっと何とかしてくれるはずだよ」


 エドヴァルトの言い方は『思う』と予想の範囲を出ない言い方ながら、かなり確信を持っているように見える。


 「その騎士長って人そんなにすごいんですか?」


 「ああ。この国で一番強い人だよ」


 エドヴァルトの口調が『素直な尊敬』というよりは、『強すぎて呆れる』といった感じだったせいか、不謹慎だとわかっていたがマリオンは笑みをこぼすのだった。

最近主人公の名前を忘れそうになります…。ヨハン、そうヨハンだ。覚えてました。

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