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014

(今日は厄日だよ)


 精霊騎士エドヴァルトは巡回先の村で自分の運のなさを嘆いていた。


 ちなみに巡回とは国内各地の安全が保たれているか確かめるために、定期的に王都の騎士たちが地方に派遣される仕組みだ。


 以前、エドヴァルトがクゥーラという神級精霊を怒らせてしまうという事件があったが、これも巡回先での出来事なのでよくよくこの新人騎士は当たりを引く(本人の行動のせいでもあるが)運命にあるらしい。


 巡回の目的である『安全が保たれている』はあまりにも漠然としているように思えるが要はモンスター対策だ。


 クギョウロキ王国は近隣諸国との関係は良いものだし、国内の治安も安定していて大規模な盗賊団もいないのだが、モンスターたちはそうはいかない。


 一応小さな村にも数名の駐留兵は派遣されているが、対応できるモンスターのレベルには限りがある。駐留兵たちが対応できるのはせいぜい弱いモンスター数体を追い返すくらいだからだ。


 そのため王都の騎士たちが持ち回りで巡回して対応しているのだ。


 各騎士団から数十人規模の小隊が派遣されているわけだが、精霊騎士は一人で小隊並みの戦力があるとされているので新人のエドヴァルトもこうして一人で巡回しているというわけだ。

 

 もっとも、その例外は魔法騎士にもあてはまり、魔法騎士も精霊騎士ほどではないが普通の騎士よりも数倍強いとされているエリートなので、小隊も普通の騎士団なら数十人規模で構成されているのだが、魔法騎士団の小隊は十人程度と少ない。


 問題はその魔法騎士の小隊とこの村で鉢合わせてしまったことにあった。


 「いやあ、まさか我々と巡回日程が重なっているとはおもいませんでしたなあ。でも、まあ精霊騎士殿は危なくなったらいつでも逃げ出されても構いませんよ」


 同じ場所に巡回が同時に2隊派遣されることは通常ありえないので巡回ルートを作成した内務省のミスだろう。


 しかし、次の予定地の都合もあるので早く切り上げるわけにもいかず、数日はこの連中と同じ宿舎にいる事になるのだ。


 別に同じ宿舎にいるだけならいいが、この魔法騎士たちはエドヴァルトに事あるごとに絡んでくるのがめんどくさい。


 「精霊騎士殿の逃げ足の速さは有名ですからなあ。少数精鋭と言われたら聞こえはよろしいが、逃げるのには一人の方が都合がよろしいのでしょうなあ」


 彼らはエドヴァルトが神級精霊のクゥーラを怒らせて王都に逃げ帰った事を揶揄しているのだ。


 元々魔法騎士は精霊騎士に敵愾心を持っている者が多い。精霊の力を借りて強力な魔法を使う精霊騎士をよく思っていないのだ。


 わかりやすく言えば自分たちに出来ない事を生まれつきの才能だけでしている精霊騎士に嫉妬しているのだ。


 さらに言えば、


 「あまり失礼な口をきいてはいけないぞ。精霊騎士殿は平騎士でも部隊長相当だからな」


 魔法騎士団の部隊長が言う、この待遇の違いも気に入らない要素の一つになっている。

 

 精霊騎士は数こそ少ないが、その強大な力ゆえに通常の階級より一つ上の扱いになっているのが面白くないのだ。

 

 実際、精霊騎士長ヨハンは騎士団長並みの権限を与えられているし、エドヴァルトのような一番下の平騎士でも通常の騎士団の部隊長と同格の扱いを受けることになっている。


 そんなわけで魔法騎士団の部隊長が口だけで部下たちをいさめているが、部下たちは『へ~い』とまったく反省する様子もなくヘラヘラと答えている。


 「別に構いませんよ。私は若輩者ですし、あの時逃げた事は事実ですから」


 エドヴァルトは特に熱くなることなく淡々と答えている。こういうやからはどこにでもいるから逆らうだけ無駄だと思っているのだ。


 しかし、そのすかした態度が気に入らなかったのか部隊長は嫌味のように、


 「いやいや、そういうわけにはいかないでしょう。皆、上官として敬うのだぞ?わかったな」.


 エドヴァルトを上官扱いするようにわざとらしく部下に念押ししているが、


 「へーい、すんませんでした~」


 とヘラヘラとエドヴァルトに頭を下げる部下たちの姿は完全にエドヴァルトを侮っている。


 だが、その態度にもエドヴァルトは怒ることはない。 


 (めんどくさいな。どうでもいいよ)


 ということらしい。


 さっさと切り上げたいところだが、次の巡回先に早くいくわけにもいかないのでエドヴァルトは数日我慢するしかないかと諦めている。


 「おや、どこへ行かれるのです?」


 「村の周辺の見回りに」


 「さすが、精霊騎士殿は真面目ですなあ。こんな平和な村でも油断されないとは、まさに騎士の鑑ですなあ」


 どこまでも嫌味を言う魔法騎士たちを無視してエドヴァルトが外出ようとしたところで、村の駐留兵がタイミングよく駆けこんでくる。

 

 「申し上げます!この村にモンスターが迫ってきています!


 各村にはモンスターの動向を察知する魔法の水晶玉が置かれていて村の周囲にモンスターが近づいているとその種類や規模がわかるようになっている。


 「慌てる事はない。ちょうど我々が巡回に来ていた時で運が良かったな」


 巡回は頻回に行われているが、それでも一週間程度の穴があることがある。その場合は村の駐留兵が近くに巡回に来ている騎士たちに知らせに行く事になっているのだが、今回は自分たちがいて幸運だったと言いたいらしい。


 「それで敵は何なのだ。オーガか?それともオークか?」


 駐留兵の慌てぶりからモンスターの種類をそれなりに脅威があるモンスターと推察するが、


 「緑の点ですのでゴブリンの様です」

 

 「なんだ、ゴブリンか。その程度なら貴様たちでどうにかできるだろう」


 現れたのが最下級のモンスターであるゴブリンだときいて魔法騎士たちは一様に拍子抜けしたようになる。


 はっきり言ってゴブリンはモンスターの中でもかなり弱く、一対一なら兵士でない普通の村人でもなんとか勝てるくらいだ。


 「しかし、数が多すぎて我々ではとても対処できないのです!」


 駐留兵は自分の訴えを全く真剣に受け取ろうとしない魔法騎士たちに少しイライラするように言い返す。


 (駐留兵のくせに生意気な…)


 部隊長はそう思わないでもなかったが、


 「たかがゴブリンごとき、10匹いようが20匹いようが物の数ではないわ!どれ、水晶を見せてみろ」


 一応確認してやるか、と駐留兵が持ってきてた魔法の水晶玉を部隊長は尊大な態度で覗き込む。


 「どれどれ…っ!こ、これは、この数は…!?」


 水晶玉を埋め尽くすように緑の点が村の北側に集まっている様子に絶句して目を見開く。


 部隊長のただならぬ様子に他の魔法騎士たちも慌てた様子で水晶玉を覗き込んで「マジかよ…」「これは、千匹近くいる!?」と顔を青くする。


 いくら弱いゴブリン相手とはいえこれでは数が多すぎる。


 (めんどうな事になったなあ…)


 単独行動している時に再び逃げ出さなければならないような事態に巻き込まれるという不運に見舞われたエドヴァルトが厄日だと思うのも無理もないのだった。

エドヴァルトだけに厄日が続くのは決して作者が新しいキャラを考えるのが面倒なわけではない事をここに明言するものであります。

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