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013

「なるほどぉ。それでは今回の事は問題なく解決し、なおかつぅ、神級精霊とぉ、契約もできたという事だねぇ?」


 王都に帰還したヨハンから報告を受けた内務大臣は、その功績をほめるでもなく粘っこい確認してくる。ヨハンの方も別にほめられると思っていなかったので、事務的に返事をする。


 「はい。二度とこのような事がないように指導いたします」


 その落ち着いた態度が気に入らなかったのか内務大臣は眉をひそめて、


 「指導するぅ?それだけではまた同じ事が起こるだろぅ?仮にエドヴァルトがしなくても他の者がするかもしれないからねぇ」


 ネチネチした言い方で『そんな事もわからないのか』という顔をする内務大臣に、ヨハンは「はあ」と気のない返事をする。


 (そんな『仮に』なんて言いだしたらきりがないだろう)と思っているのだ。


 その考えが伝わったのか内務大臣は、


 「本当にどうしたらよいのか君はわからないのかねぇ?マニュアルを作り給え。マニュアルを。マニュアルを作るのが今君がするべきことだよぉ」


 「マニュアル?」


 (また変な事を言い出したな)と思うヨハンをよそに、内務大臣は続ける。


 「そうだ。今回の様な失敗を繰り返さないためにも精霊と契約する時のマニュアルを作り給えよぉ」


 「…それは難しいと思いますが」


 「君の感想など聞いていないのだよぉ。これは提案ではなく命令なのだぁ。なんでもマニュアルがあれば失敗しないだろう?これは君たち精霊騎士のためでもあるのだよぉ」


 恩着せがましい内務大臣のしたり顔にヨハンはうんざりする。


 そんな無駄なものを作っている暇があったら自分が同行して指導した方がよほど効率的だろう。


 実際のところ精霊との契約は様々なパターンがありすぎて型にはめるのは難しい。


 もちろん、ある程度の対策はできるがそれは経験則によるもの割合が大きく、マニュアルに落とし込むのはほぼ不可能だとヨハンは思っている。


 そのことを含めてヨハンは内務大臣に精霊使いと精霊の契約の在り方を懇切丁寧に説明するが、


 「つまりはどういう事なんだ?もっと専門的、かつ簡潔に説明できないものかねぇ」

 

 と冷笑して肩をすくめている。そもそも『専門的、かつ簡潔』というのは矛盾した要求なのだが本人は気づいていないらしい。 


 (こいつっ!炎兎で消し炭にしてやろうか…)


 神級精霊を鎮めるというなかなかの無茶ぶりを解決した後という事もあり、気が立っていたヨハンは普段にはない物騒な事を考えている。


 だが、その怒りをグッと抑えて内務大臣に向き合う。この騎士長は不満に思うことはあっても、それをなかなか表に出さない。悲しいかな、ヨハンにはそうやって自分と組織を守るの事が身についてしまっているのだ。


 「…要するに精霊によって性格が違うので、対応は千差万別だということです」


 「だったら千通り、万通りのマニュアルを作ればよいではないかぁ。とにかくマニュアル、マニュアル、マニュアルゥゥゥウウ!」


 ヒステリックに叫び出す内務大臣。


 唐突に同じ言葉を繰り返す例の発作が始まった大臣に、殺気立っていたヨハンもあまりのバカバカしさに気勢をそがれる。この発作にはこんな効果もあるのだ。


 (その千通りのマニュアルを覚えさせて対応させるのか?覚えられないなら精霊との契約時にそのマニュアルを開いたまま契約をすすめるのかよ…)

 

 今回の件で言えば「調査を命じられた以上、それ以外の事はせずに調査に徹する」だけでいいはずだ。もしくは「新人騎士の精霊契約は必ず上長が同行する」でもいい。


 確かにマニュアルをがあった方が効率的で安全な作業もあるだろうが、精霊の契約の場合は違う。マニュアルを信じてやってしまえばかえって失敗する事もあるだろう。


 しかし、『マニュアルさえあればどんな仕事でもまわる』と思っている内務大臣にはそれがわからない。


 いや、わかっていながら『マニュアルさえ作っていればちゃんと仕事をしている』気になっている可能性もある。まだ、作る側からしたらまさにそれが『ちゃんとしていない仕事』なのだが。


 「…わかりました。作成いたします」


 「わかればいいんだよぉ!わかればぁ。マニュアル!マニュアル!マニュアルゥゥゥウウ!」


 だいぶヤバいハイテンションになっている内務大臣を見ながら(まあ、これも騎士長の仕事のうちか)と自分に言い聞かせる可哀そうなヨハンなのだった。



次回は 幕間です。幕間って『まくあい』なんですね。ずっと『まくま』だと思っていました。

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