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プロローグ

 シンと静まりかえる部屋。ドアの横には校長室と書かれていた。

 やや白髪が混じった金髪の女性は、物憂げな顔で複数枚の書類を眺めていた。

「まさか我が校でブラックスクール送りになる者たちがこんなにいるなんて……」

 舌打ち混じりで憎々しげに言った。

「やぁヴィンセント校長先生」

 そんな彼女の顔とは裏腹に軽快なリズムでやってきたのは、真っ赤なスーツに真っ赤なパンプスの女性だった。

「イズム・新郷……! 煉獄の殺戮者が何故ここに!」

 目を見開いて驚くヴィンセント。

 イズムはハハハと笑いながら、机に寄りかかった。

「名門と呼ばれてるウィリアムズ教育高等学校に初めてのブラックスクール送りが出たと聞いてね。飛んで来たよ」

「相変わらず耳が早いこと。任務の連絡は一週間遅れがザラなのに」

 ヴィンセントはチラリとイズムを見た。

 真っ白な肌に、堀の深い顔立ち。真っ赤な髪に金色の瞳。くっきりとした鎖骨、艶めかしい胸元や太ももを惜しげなく晒している。

 暗殺者の基本的な格好としては黒の服装が基本だが、彼女は誰が見てもわかるくらい堂々と破っている。

 年齢不詳、どこにいるのかも分からない。唯一分かっているのは絶対無比の力を持っていること。

 戦場に一人いれば、敵は全滅するという人間兵器集団『ディスペア』のナンバーツー。

 通称〝煉獄の殺戮者〟それが、イズム・新郷である。

「ハハハ。いやぁ資料を見せて貰ったけど、中々有能そうに見えるじゃん?」

「どこがよ、我が校の恥晒しの問題児たちよ。有能じゃなくて無能と呼んであげなさいな」

「相変わらず性格きつぅ。老けるよつってもまぁ、アタシがここを出てから20年は経つけどな」

「あなたはちっとも老いを見せないけどね」

 皮肉げにそう言うヴィンセント。吸う?と煙草を掲げ、一人紫煙をくゆらせた。

「全くどうしたものか……」

「ねぇ校長、少しアタシと賭けをしてみないか?」

 ヴィンセントがため息をつくと同時に、イズムはキラリと瞳を輝かせヴィンセントの煙草を一本奪った。

「賭け? あいにく賭博趣味はないの」

 よ、と言い切る前にイズムが身を乗り出した。

「未来を賭けてみる気はないか?」

「は?」


 その時からすでにヴィンセント・フリージアの命運は尽きていたのだった。


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