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新米シスターは嘘がつけない呪いにかかってしまいました。 ああいけません! つい本音が!

作者: 乙辺わさび
掲載日:2025/08/21

今日もめんどくさい一日が始まってしまいました。

こんにちは。

教会の「懺悔室(ざんげしつ)」勤務、新米シスターの私です。


懺悔室(ざんげ)

どんな仕事かって?

ジジババのどうでもいい世間話に、ただ相槌(あいずち)をうつだけの仕事です。

たまーに本気で懺悔(ざんげ)しに来る変人もいますけど、相槌さえしておけば勝手に立ち直ります。


「大丈夫ですよ。 神がどうにかしてくれます。 はい。 信じてください。 たぶん大丈夫です。」


なにが大丈夫なのかは知らないですけど。

これを言っておけば大丈夫なんです。

ほんと虚無(きょむ)ですよ。

虚無すぎて、相槌うちながら副業の編み物なんかしちゃってます。

いわゆる内職ですね。


あぁ、ご心配なさらず。

どうせ向こう側から私は見えませんから。

壁がありますからね。

ですから普段の私なら、とっくに内職タイムが始まってる頃合いです。

普段ならですけど。


「助けてください…! もう…もうここしかないのよ!」


まだ幼さの残る女性の声がきこえてきました。


どうやらとても焦っているようです。

それはそれは凄いです。

壁をバンバン叩いてきます。


「…。」


怖いので、私は居留守をつかいました。

居留守は人類に与えられた権利ですからね。

おしみなく使いましょう。


「お願いよ…! お願いだから答えて!」


「…。」


「いるんでしょ!? そっち向かうわよ!?」


あぁ最悪です。

こういう奴にはテンプレが通用しないんですよね。

私は内職する手をしかたなく止めてあげました。

さよなら私のお小遣い。


「なんですか。 静かにしてください。」


私が返事をして差し上げると、壁の向こう側から安堵の吐息が聞こえてきました。

それも束の間。

ふたたび大きな声が聞こえてきます。


「私…殺害予告されているのよ…!」


うわあ。

特大級のめんどくさい内容です。

思わず私は嫌そうな表情になりました。

それを知ってか知らずか、彼女は続けます。


「その予告が…今日なの」


「今日?」


「ええ。 今日…私は殺されるのかもしれないのよ」


「そうなんですね。 そのまま死んでいただいて結構ですよ」


ああ、いけません。

つい本音が漏れてしまいました。

私ってばドジですね。


「今…そのまま居ていただいて結構ですよって言ったわよね?」


「言ってません」


「ここに居てもいいってこと…? 私をかくまってくれるってことなの?」


「言ってませんよ」


「行ってはいけませんよ…? わかりました、ここに居させてもらうわ!」


幸いにも聞き間違いをしてくれたようです。

私にとってはより面倒くさいことになりましたけどね。

せめて嘘がつけたら良かったんですけど。

もっとましな状況になれたのでしょうけど。

今の私にはない物ねだりです。


実は私、嘘がつけないんですよね。

そういう呪いをかけられてしまいました。

不可抗力だったんです。

わたし悪くありませんから。


ただ近所の子供をいじめてただけなんですよ。

それだけだったんです。


まさか、ただの子供が報復として呪いをかけてくるとは思いませんでした。

専門の業者をとおして、しっかりとした呪いをかけてきやがりました。

ふつうはそこまでしないでしょう。


陰湿です。

ねちねちしてます。

湿度たかすぎです。


わたし悪くないですから。

不可抗力ですから。


「はぁ。」


私はためいきをつきました。

本当に面倒くさいからです。

もういいです。


「そもそもですけど、そういった内容は衛兵の仕事ではありませんか?」


「…そうだけど」


「そちらを頼ったらいいではありませんか。」


「…っ」


「どうぞ出口は右側です。 足元に気を付けてお帰りください。 さようなら。」


私は必殺技「たらいまわし」を行使しました。

これで帰った者は居ませんけども。


「だめなのよ。 衛兵には断られたわ」


「御冗談を。」


「嘘じゃないわよ!」


「あの酒飲みの手栄太楽も、若い女性の頼みくらいなら受けてくれるはずですが。」


「…だめだったのよ」


彼女の声に涙が混じり始めました。

どうやら本当に断られたらしいです。

可愛そうなヤツ。


ですが不思議です。


殺害予告をスルーする衛兵がどこに居るというのですか。

国の治安のカナメですよ?


ちゃんと働いてくださいよ。

私だってこうして労働してるのに。

だから税金泥棒とか言われるんですよ。


しかしまあ。


一つだけ可能性があります。

衛兵も関わりたくない可能性。


「あなた」


「…はい」


「もしかして浮気しました?」


「…ち…ちがうのよ! 男の方から私に近づいてきたのよ! だから私は違うの!」


ビンゴです。

浮気ですね。


「ご愁傷さまです」


この国では、浮気は最も悪い罪として扱われています。

神話にそう書かれてますから。


神ってね、温厚なキャラなんです。

殴られようが、家を壊されようが、糞をかけられようが、笑って見過ごすみたいです。

ドMですよね。


ですけど、一つだけ禁忌が存在します。


浮気です。

神は浮気にだけは容赦しません。

もう地獄の底を突き破るくらい、いじめてくれます。


現在でも戒律にその名残があります。

それを読み上げて、壁の向こうの彼女を怖がらせましょう。


「浮気をされたら、いかなる報復をしても罪に問われない」


「…っ」


私の言葉に、彼女は息を飲みました。

もっと追い打ちをかけましょう。


「あいまいな記述ですけど、よう殺しちゃってもかまわないんですよ」


これが現代の戒律です。

もっとも、事前に殺害予告をしないと、罪に問われるという制約はあるのですけどね。

ですがタイムリミットが今日に迫った彼女にとって、それはもう関係ない話です。


「なんで逃げなかったんですか。」


「しばらく旅行に行っていて…。 ポストを見ていなかったのよ」


「それは完全に図られていますね。 ご愁傷様です。」


「で…でも。 それって理不尽じゃない!」


「回れ右してください。 無理です。 詰んでます。」


「お願いよ…。 もうここしかないのよ!」


「ここでもお断りですよ。 私、内臓なんか片づけたくないですし。」


「かくまってくれるだけでいいの!」


「嫌です。」


「どうしてなの!?」


「定時で帰りたいんですよ。」


止まりません。

私の本音が止まりません。

でも私わるくないですから。

近所の子供がいけないんです。


こんな調子で、女性との攻防戦が一日中くり広げられました。


時刻はゆうに定時を過ぎています。

それでも彼女は帰りません。

彼女が帰らないのなら、私が帰してもらえるわけもありません。


泣きたいです。


このあと、大事な予定があるのに。

私は疲れ果てた表情で壁と向き合っていました。


その時です。


ガチャリと、私の後ろでドアを開ける音が聞こえてきました。


「随分と熱心な信者だな。 もう教会は閉める時間なんだが」


「神父様!」


なんと神父様が助けに来てくれました。

もう私の神様です。

おーまいごっと。


「そこに誰かいるの?」


女性が気配に気が付き、少し怯えた声で尋ねます。


「居ますよ。 神父様がまいりました。 どうにかしてくれるそうです。」


「本当なの!? お願いします…!」


「聞いてください神父様。」


私たちが詳しい事情を説明すると、彼は嫌そうな顔をしました。

壁で表情は見えませんからね。

変顔してもバレやしません。


「とまあ、こんな具合です。」


「なるほど。 自体は深刻なようだな」


「深刻なのよ…。 おねがい…助けてください…。 お願いよ!」


女性は神父様に必死の懇願をします。

私は答えを求めるように、神父様の顔を見ました。


「で、どうするんですか神父様。 朝からこう言ってますけど。」


「そうだな」


神父様は少し悩みます。

それからゆっくり口を開きました。


「…日頃…いや、これからの行い次第だな」


まわりくどい言い方ですね。

つまりこういう意味です。


「金次第で助けてくれるそうです。」


私は神父様に殴られました。

でも交渉は成立しました。


教会側で彼女をかくまう代わりに、多額の寄付金を貰うことになりました。

数年は遊んで暮らせるお金だそうです。

貯金がすっからかんだそうです。

まあでも命には変えられませんものね。

ひとまず一件落着ということで。


「さてと。」


私は荷物をまとめました。


「定時を過ぎてるので、帰ります。 さようなら。」


私はそそくさと帰ろうとしました。

しかし神父様に首根っこをつかまれます。


「待て」


「んもう何ですか。」


「今晩、彼女の護衛をしてやってくれ」


「絶対にお断りです。 私にはこのあと予定があるのですが。」


「それはすまん。 別の日にしてくれ」


「無理です。 今日じゃなきゃダメなんです。」


「頼む。 彼女からの条件なんだ」


「はぁ…。」


「三日間、休暇をあげてもいい」


「…んむぅ。」


どうやら女性は、護衛として私をご指名のようです。

聞くところによると、私は絶対に嘘を付けないから信用できるとのこと。

一里あります。


その対価として、私には三日間の休暇が貰えるそうで。

少し魅力的ですね。

私の心は揺らぎ始めます。


「まだダメか?」


「もう一声たりませんね。」


「三日間、有給にしてやろう」


「やります。」


即答しました。

もうこの後の予定とかどうでもいいです。

不労所得ばんざい。


それはそうと、もう一つだけ聞いておかなければならない事があります。


「ちなみにですが、残業代は出るのでしょうか。」


「そうだな…。 なあシスター」


「なんでしょう。」


「人類最大の過ちとはなんだと思う?」


「はぁ…?」


質問に質問で返されました。

なんだかあやふやにされた気分です。


「浮気とかでしょうか。」


「違うな。 残業という概念を生み出したことだ」


「よく理解しているではありませんか。」


「そうだろう。 残業という概念がなければ、残業代という概念もない」


「はい?」


「つまり、残業代を払わなくても済んだはずなんだ」


違いました。

この人は何にもわかっていないようです。


「はやく浮気でもしといてください。」


「いま遠まわしに死ねと言ったな」


「言ってません。 包丁にでも刺されて、壁のシミにでもなればいいなと思っただけです。」


「君は本当に嘘が付けなくなったようだな、シスター」


「残念ながら、以前の私からも出ていた言葉でしょうね。」


「ああ、悪かったって。 残業代はしっかり出す」


「深夜手当つきでお願いします。」


「ああもう。 いいさ。 金はある」


「分かって頂けたようで何よりです。」


「それじゃあ、任せたぞシスター」


「任されました。」


「頼んだぞ」


その一言を残し、神父様は部屋を去りました。


「さてと。」


私も席を立ち上がります。

同時に、スカートの中に隠されたナイフに手を伸ばしました。

よく砥がれた鋭利なナイフです。

トマトも潰れずに切れちゃいます。


なぜこんな物を持っているかって?

この後の予定で使うはずだったんです。

あいにくそちらは潰れましたが。


ですがこれも好都合です。

ちょうどよい護身用の武器が手に入りました。

ちょっとしたボーナスも手に入りました。

気分はウキウキです。


「では、そちらへ向かいますから。 待っていてください。」


「…はい!」


私は女性に声をかけました。

それに対し彼女は、安堵のこもった返事を帰してくれます。


もうひと頑張りしますか。

有給三日のためです。


予定が潰れたのは残念ですが、また今度でもいいのです。

いつか成し遂げれば、それでいいのです。


私はそんな言葉を呪文のようにつぶやきつつ、彼女の待つ部屋の前まで向かいます。


「入ります。」


私はノックとともに、部屋へと入りました。


一日中ことばを交わした相手。

ですけど、顔を見るのは初めてのはずです。

改めて挨拶でもしましょうかね。


なんて。

そのはずだったのですが。


私の心はウキウキを通り越して、空高く跳ね上がりました。

自分でも抑えきれないほどの感情の高ぶりを感じます。

汗のにじむ手で、ナイフを力強く握りました。


驚きましたよ。

部屋の中にいたのは知っている顔でしたから。

潰れたはずの予定が目の前にいたのです。


どうやら神は、本当に浮気が嫌いなようですね。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

懺悔室勤務の私です。

とつぜん夜勤を申し付けられましたが、何事もありません。

とても暇な時間を過ごしています。

ちょうど近くにインクが落ちていましたので、暇つぶしに小説でも書いてみました。

私の処女作ですね。

よければ評価でもつけてやってください。

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