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皇女と皇弟③


 図書室に姿を現した皇女。その突然の登場は皇弟の調子を(くず)すには充分であった。


「…やぁ、アリア…。君は南部へ行っていたのではなかったかな…?」


 先程とは違った弱々しい声でアリアに(たず)ねる皇弟。


「昨日の夜に帰り着きまして。随分と楽しませて頂きました」

「そ、そうか。無事で何よりだよ…」

「お気遣いいただきありがとうございます。叔父様方の懸念(けねん)事項は払拭(ふっしょく)してきましたのでご安心ください」


 アリアの言葉に笑みを引きつらせる皇弟。言わんとしていることは分かる。「うわぁ、何やらかしたんだろ…」といつの間にか戻ってきていたシエルが声に出していた。隣には寡黙(かもく)そうな騎士を連れている。


 アリアは微笑(ほほえ)んでいたが、その笑みはどこか冷たく感じた。


「叔父様。今回は資料の閲覧(えつらん)でいらっしゃったのですよね? 申請内容と違う行動は(ひか)えていただきしょう」

「ああ、悪かったよ…」


 少し見てきてもいいかい?と気まずそうにその場を離れる皇弟。この隙にフィンもこの場から離れたかった。だが、アリアがシエル達と何やら話し込んでいた為、声を()けるにも掛けられず、そのまま留まることとなる。


しばらくして皇弟が戻って来た。調子を取り戻したのか、顔には笑みを浮かべている。


「助かったよ、アリア。うちの部下は仕事が出来なくてね。大事な資料を失くしてしまったんだ」

「それは大変でしたね。誰彼(だれかれ)構わず(ふところ)に入れてしまうと、管理が杜撰(ずさん)になってしまいますから」

「耳が痛いね。今後は気をつけるとしよう」

「詰所の方であれば、いつでも引き抜きに来てくださって結構ですよ」


 その言葉を聞いて皇弟は顔を(ゆが)める。アリアはふふ、と笑って扉の方へ(うなが)した。


「そろそろお引き取りを。お迎えも来られたようですし」


 アリアの視線の先には執務官の出で立ちをした男が立っていた。


「そうさせてもらうよ。………そういえば、君にも聞きたいことがあったのだよ」

「何でしょう?」


 皇弟は(くちびる)で弧を描く。


 「()()()()()()()()()()()()()?」


 だが、その目は笑っておらず。

 

 誰もが息を飲み静まり返る中、アリアは笑みを崩さず答える。


「何もありませんよ。呼び出されたはいいものの、ロクに話もせずに下がらせられました」

「…本当かい?」

「本当ですよ。こんなことで嘘なんてつきません。兄にも聞いてみたらどうですか?」

「………。行くぞ、アドワン」


 王弟は何も言わず廊下へ出る。アドワンと呼ばれた男はアリアに一礼し、皇弟の後に続いて去っていった。



「…それで」


 皇弟が去り安堵(あんど)したのもつかの間、今度はアリアに目をつけられるフィン。


「なぜ、騎士がここにいるのでしょう?新たに入宮を許可した覚えはないのですが」


 そこには口を開けて笑っていた少女などいない。底冷えするように冷たく、有無を言わさない瞳。自分に害のある者は排除(はいじょ)する。そんな瞳をしていた。


「こ、コイツはボクの小間使いだよ! 前に伝令を送っただろっ!?」


 シエルが慌てて前に出る。いつも肉体労働を()いてくるが、悪い人ではないのだ。


「あぁ、例の…。……であれば、護衛騎士に随伴(ずいはん)している時のみ入宮を許しましょう。それ以外は認めません」

「はっ、はいっ!」


 思わず、声が上ずる。皇弟とはまた違う意味で恐ろしい。やはり人の上に立つお方なのだ。フィンは『住む世界の違い』というものをここでも感じた。

 

 そんな中、今まで一言も話さなかった寡黙(かもく)そうな騎士が小さく呟く。


「…アリア……夢見が悪くて今日機嫌(きげん)悪い………」

「えっ!? 早く言えよ!……フィン!仕事はいいから帰れ! また明日呼ぶから。ほら、早く早く!!」


 シエルから背を押され、廊下へ追い出されるフィン。一人で離宮に留まるのも恐ろしく、逃げるように外に出た。図書室からは「アリア~、気づかなくてごめんね~っ! 許して~」とシエルの謝罪の声が聞こえた気がした。










 皇宮の一角にある皇子の執務室にリカルドは来ていた。南部視察の報告をする為だ。皇女の騎士として同行したが、当の皇女は報告をリカルドへ丸投げして離宮で休んでいる。


(報告するまでが仕事だろうが…!)


 心の中で悪態(あくたい)をつき、目の前の扉をノックする。


「入れ」


 低い声が返ってくる。その声を聞いてからリカルドは扉を開け、足を踏み入れる。


 皇子…アルベルトは机に積まれた書類を片づけている最中だった。


「悪いな、忙しい時に」

「気にするな。視察の報告だろう。……アリアはどうした?」

「『兄さんは私の顔なんて見たくないでしょうから』だとさ」


 この場に居ない視察の主宰(しゅさい)者の行方を聞かれ、預かった言伝をそのまま伝える。アルベルトはただ「そうか」と返した。


「報告を聞こう」

「ああ」


 アルベルトに(うなが)され、リカルドは口を開く。


 南部が敵国と(つな)がり、銃火器を売買しているという話は本当だった。正確には敵国がこの国を含めた諸外国(しょがいこく)同時侵略(どうじしんりゃく)する為、()()()に開発した武器を試験的に南部に流していたらしい。


 そこに目を付けたアリアは、共に同行していた寡黙な騎士…ルーカスを敵国に(もぐ)らせ、情報を探らせた。ルーカスが得た情報により、武器の開発は敵国内でも秘密裏に行われていたこと、武器が流されたのは皇国のみだったことが分かった。


「それで、敵国の武器を皇国の商品として売りに出す、と」

「ああ、既に権利は譲渡(じょうと)されている」


 アリアは再度ルーカスを敵国に潜らせ、他の諸外国へ武器が流れないよう根回しをさせた。その間に皇国が抱える武器職人(しょくにん)に武器の解析を依頼(いらい)する。『大量生産可能』との報告を受け、敵国に諸外国(しょがいこく)同時侵略(どうじしんりゃく)の計画漏洩(ろうえい)、それに伴う経済制裁を盾に(おど)し、敵国での『武器の製造中止と権利の譲渡(じょうと)』という契約を秘密裏に結ばせた。


「製造は(すで)に始まっているのか」

「アリアが勝手にな。国益となる収益は全て皇女(アリア)個人に納めて欲しいとのことだ」

「皇弟が聞いたら卒倒(そっとう)しそうだな」


 そう言って小さく笑うアルベルト。


「好きにしろ。その程度で崩れる国じゃない。皇弟は自分達で何とかしろ」


 国益を個人に納めると聞いて(だま)っているような人ではない。今まで以上に何かと意見してくるだろう。アリアに挑んだところで屁理屈(へりくつ)屁理屈(へりくつ)で返され、先に音を上げるのは目に見えているが。




「アル、入るよ」


 視察の報告を終えた頃、皇弟に付き()っていた執務官…アドワンも執務室を訪ねて来た。リカルドを見て静かに笑う。


「お疲れ、リカルド。先程会ってきたが、アリア嬢は機嫌が悪そうだったよ」

「夢見が悪かったらしい」


 皇族たるもの、夢や感情といった不確実なものに左右されてはならない。リカルドはそう考えているが、アリアは違う。彼女はいつも『やるべきことは最低限やっている』と主張する。今回の報告はその『最低限』には含まれなかったようだ。


「何の用だ、アドワン」


 書類仕事に戻ったアルベルトが(たず)ねる。


()()()()()()()()()()()()()調()()()()()


 アルベルトの手が止まる。リカルドもアドワンへ視線を向けた。沈黙で空気が()()めていく。


「具体的には?」


 アルベルトは顔を上げ、アドワンを見る。


謁見(えっけん)の間で何があったか、アリア嬢に聞いていた。アリア嬢が上手く返していたから気づかれてはいないけど…。裏で色々調べているみたいだよ」

「そうか…」

「………」


 五年前、謁見の間で何があったのかはリカルドも知らない。………予想はついているが。



 全てを知っているのはアルベルトとアリア、そしてアドワンだけだ。



「何か張っておくか?」

「いや、そのままでいい。下手な動きをすれば余計探られるだけだ。……アドワン。皇弟の動きは逐一(ちくいち)報告しろ」

「御意」


 即座に返答するアドワン。幼馴染とはいえ、皇族の(めい)には礼を持って従うアドワンらしい返答だ。


「リカルド。アリアに報告には来るよう言っておけ。次は受理(じゅり)しない」

「了解した」


 言われなくてもそのつもりだ。下らない言伝を残して逃げた少女の顔が思い浮かぶ。あの時の怒りはまだ消えていない。


「それじゃあ、私は戻るよ。アル、仕事はほどほどに」

「わざわざ悪かったな」

「問題ないよ。この程度」


 そう言ってアドワンが出ていく。それに続いてリカルドも立ち上がる。


「俺も行く。アル、少しは寝ろ」


 リカルドはアルベルトの顔を指さす。その目元にはうっすら黒い影が出来ていた。




 ガチャ、キィ…バタン。



 親友が二人とも去り、静まり返る執務室。アルベルトは持っていたペンを置く。その視線の先には音を立てて閉じられたばかりの扉があった。



『仕事はほどほどに』


『少しは寝ろ』



 親友の言葉を思い出す。書類の量は普段と変わらない。妹が視察で不在の間、公務を()け負ってはいたが、その少しの変化を誰も気づかなかった。(くま)もそうだ。支度を任せる執事でさえ、何も言わなかった。


「………」


 静かに息を吐くアルベルト。その唇が小さな弧を描いていたことは誰も知らない。





 ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

 

 二節は、フィンがシエルの小間使いになるお話でした。


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