第9話「佐助は人気者」
わしは門番!
今日はわし一人で門番。理由はまあ分かるじゃろ。察してくれ。それにしても惜しい奴を無くした。馬鹿の手本として教科書に載せたい程の馬鹿じゃったが悪いやつではなかった。あんなやつでも少しは良い所があった。馬鹿は死んでも治らないとは本当じゃったんじゃな。きっとあいつはあの世でも馬鹿やっているじゃろう。
「痛! 誰じゃ石を投げたのは」
周りを見回したが誰もおらんかった。まさか天国から佐助が石を投げて来た訳ではなからろうが。
まあ冗談はさておき暇じゃ。馬鹿がいないから余計に暇じゃ。
丁度そこに孫娘のお雪がやってきた。
「あら? 佐助さんは」
「あいつは死んだ」
「嘘……」
「まあ嘘じゃ。本当はライオンに尻を五回ほど噛まれて今は自宅で静養中じゃ。まったく恐ろしいヤツじゃ。尻を噛まれながら目潰しでライオンに勝ったんじゃからな。わしの若い頃を思いだすわい」
「おじいちゃんなんて嫌い。今日の晩御飯はするめだけだからね」
「そんな。お雪待っておくれー」
泣きながら走り去って行くお雪。ちと冗談が過ぎたかも知れないようじゃな。晩御飯がするめだけとはつらい。自業自得じゃがな。
それにしても今日は佐助目当てのお客さんが多い。改めてやつの人気の程を知った。
「佐助さんはどうしたの?」
「あいつは休みじゃ」
「そうなの。残念ねえ」
あいつも少しは慕われておったことか。あまり馬鹿にするのも止めた方がいいのかもしれんな。少し佐助のことを見直した。
「佐助はどこだ!」
「な。なんじゃ。佐助なら休みじゃ」
「糞! じじい。あいつに言っておけ。家賃は必ず払えってな」
取り立てか。全く家賃くらいさっさと払わんか。それから続々と取り立ての人間がやってきた。
「酒代払ってちょうだい!」
「お米代を……」
「水道代がまだなのですが……」
あいつはどれだけ滞納しておるんじゃ。わしはやつの代わりに頭を下げ続けた。
「お願い。佐助君に貸していたまな板を返して欲しいの」
「分かった。言っておく」
「お願いね」
今度は返却の件か。借りたならさっさと返さんか。あいつはいったいどういう生活をしておるんだか。
「頼む。醤油を返してくれ。このままでは刺身が食べられないんだ」
「お鍋返してほしいの。お願いなの」
「釜だ。釜はどこだ。隠しているんだろう。さっさと出せ」
「やめんか。佐助ならおらんと言っておるじゃろ。しかもなぜここに来るのじゃ」
あいつはどれだけ借りとるんじゃ。もういい加減に勘弁してくれ。
「お願い。戸籍を返して! お金は返すから」
「子供を返して! 後生だから」
「それは嘘じゃろうが! お前らここには佐助はおらんからさっさと去らんか!」
頼む。佐助早く帰ってきてくれ。このままだとわしが耐えられん。
「お願い」
「おい! 佐助はどこだ」
「佐助君は大丈夫なの?」
佐助に用がある者が押し合いへし合い門の前に殺到した。このままでは門が破られる。こんな所でわしの無敗記録が破られようとは。
「佐助! 帰って来たら覚えておるんじゃな!」
門番の一日は続く。