第8話「佐助VSライオン」
俺は門番!
お昼ごろ、いつもは沈着冷静で滅多にうろたえない主人が血相を変えてやってきた。聞くと近くのお屋敷で飼っていたライオンが脱走したらしい。しかもこちらに向かっているとのことだ。
「では危険ですので門を閉めましょう」
「いや。待ってくれ」
「なぜですか?」
「それはだな……」
主人の話によるとライオンを飼っていた主が主人の親戚らしいのでこちらに来たら何とかして欲しいと頼まれた。そんな無茶のことただの門番の俺たちがどうにか出来る問題じゃないと思うのだが。
「任せられたわい。ご主人心配なされるな。この彦兵衛きっとライオンを捕まえて見せますじゃ」
「おお。さすがは彦兵衛じゃ。後は任せたぞ」
ご主人はうれしそうに屋敷の中に戻って行った。じじいのやつどういうつもりだ。
「おい。じじい。勝手なことを言いやがってどうするつもりだ」
「佐助よ。主人が困っておるのじゃ。それに報いるのが使える者の勤めじゃ。違うかの?」
「う。ま……あ。そうだけどよ」
「お主がやらんと言ってもわしはやるぞ」
「分かった。分かったから。そうだなあ。よし。待っていろ。準備してくる」
俺は正攻法では勝てないと思い。あるものを準備してきた。後は全てを俺が引き受けるしかない。さすがに今すぐにでも死にそうなじじいにライオンの相手はさせられない。
「じじい。あんたは門を守れ。俺がどうなろうとも門から離れるなよ」
「お主も言うようになったものじゃな。任せたぞ」
「ああ。任せろ」
俺は門の前の道の中央に立ってライオンが来るのを待ち構えた。来るなら来い。ライオン。さすがの俺も背筋に冷たいものが流れた。
しばらくすると周りが騒がしくなってきた。どうやらライオン様の登場らしい。俺は棒を握り締め、戦闘態勢に入った。
「来た!」
「まともに見るのは初めてじゃが。でかいな」
ライオンは俺が待ち構えているのに気づいたようで警戒してじわりじわりと近づいて来る。雄叫びを挙げて俺を威嚇する。さすが百獣の王だ。迫力が違う。百住の王と呼ばれている俺とは桁が違う。(次々と住処を変えているのでそう呼ばれている)
俺はライオンと距離を取りながら対峙した。さすがに隙は無かった。どうで出るか。俺はライオンの動向を見ながら攻め方を考えていた。
「伏せるんじゃ。後ろにもいるぞ」
俺はじじいの声を聞いて後ろを向いて棒で防御した。無残に棒は食いちぎられ粉々になってしまった。ああ。これは給料から天引きだ。それよりも何とライオンは二匹いたのだ。一匹ならば目潰しで何とかなるが二匹だと話が違う。さすがの俺もこれはやばいと思った。頼みの棒も先程のライオンの牙で粉々になった。もう後がない。俺は最後の手を使うことを決心した。
「じいさん。後は頼んだぜ」
俺は用意していた肉を首に巻きライオンを釘付けにして疾走した。
「佐助ええええええええー!」
「心配するな! じじい。きっと帰ってくる」
「お前のことは忘れないぞー!」
「勝手に殺すなー。じじいいいいいい! 絶対生き残ってやるからなあああ! 待っていやがれよおおおお!」
俺はとにかく死の物狂いで走った。じじいを一発殴っておかないと死んでも死に切れない。くそ。ライオン。なんていう速さだ。このままでは追いつかれる。ああ。こんなことなら家に隠していた饅頭食べておけば良かった。洗濯物もそのままだった。俺は逃げながら余計なことを考えていた。
門番の一日は続く。