第7話「雨の日も」
俺は門番!
今日は雨だ。それでも門番をしなくてはならない。何と因果な仕事だ。一応、笠と箕は装備しているが雨が容赦なく打ちつけてきてとても寒い。
「じいさん。寒い」
「我慢せい。お昼には芋の子汁が出るらしいぞ」
「よし。頑張ろう」
「やっぱり寒いよ。じいさん」
気合を入れたがやっぱり寒いものは寒かった。じいさんのような貧乏生まれ貧乏育ちの人間にはいいが俺のような裕福な育ちにはこの雨はちょっときつかった。
「全く最近の若いヤツはだらしがない。わしの若い頃には台風が来たときにも門番をしたもんじゃった。他のやつが逃げ出す中、わしは最後まで門を守り続けた。気がつくとお屋敷と門が無くなっていて悔しい思いをしたもんじゃ」
じいさんはやけに誇らしげに語っていた。またいつもの嘘昔語りが始まったなと思った。
「じいさん。その話は嘘だろ」
「嘘じゃと! わしが嘘を言うはずがないじゃろうが。とにかく門からは動いてはならんのじゃ。こんなこともあった。あれは確か竜巻が……」
じいさんの嘘話をバックに俺は川を見た。かなりの大雨なので川の水量がとんでもないことになっている。川の流れも早いのでこれは落ちたら死ぬだろうな。そういえば最近いつも川を見つめているじいさんがいないがどこに行ったのだろうか。じっと川を見つめていたら何だかセンチメンタルな気分になってきた。
「なあ。じいさん」
「なんじゃ。わしの話をもっと聞きたいか?」
「何で俺たちってこんなことやってるんだろうな?」
「……。今更なんじゃ」
「いや。ちょっとな」
「辞めたいのか」
「いやそうじゃないけどよ」
「……」
じいさんはそれ以上俺に何も言って来なかった。辺りには雨の音しか聞こえない。雨が俺たちに挑戦状を叩きつけるように更に強くなってきて俺たちを打ち付ける。すごく寒い。何だか。眠くなってきた。眠い。すごく眠い。非常に眠い。
「じいさん。俺眠くなってきた」
「おい。佐助。寝るんじゃないぞ。寝たら死ぬぞ」
「最後は門の前で死ぬと決めていたがどうやら叶いそうだ」
「佐助。しっかりしろ。たかが雨じゃぞ。どうした!」
「じいさん。少し。休む……よ。門番は……頼ん……だ」
「佐助。ふざけるんじゃないぞ! まだ早すぎるぞ」
俺の意識が段々と遠のいて行った。じいさんの怒鳴り声が響いてとてもうるさい。じいさん。ちょっとうるさい。静かにしてくれ。俺を静かに寝かせてくれ。頼む。あれ。じいさん。ちょっとどこに運んで行くんだ。ちょ。ちょっと前には川しかないよ。どこに運んで……。
バシャーン
気がつくと川にじいさんに川に投げられていた。何てアクティブなじいさんだ。ちょっとふざけただけなのに普通川に投げるか。
「つ。冷たい。じじい! 何しやがる!」
「うるさい! 貴様などそこで頭を冷やせ。全くサボることしか考えておらんのじゃからな」
「ちょ。ちょっとじいさん。助け……。ぷはあ。じいさん。こりゃしゃれにならんって」
「芋の子汁はわしらだけで食べるからな。ご主人にはあいつは雨だからだるいから先に帰ったということにしておく。ではな」
「じいさ……ぶはあ。ふざけやがって。ああー」
俺は川の流れに飲み込まれてどんどんと流されて行った。体がどんどん冷えて行く。でもここで死ぬわけにはいかない。芋の子汁が待っているのだ。でもこれはさすがに……。
門番の一日は続く。