第6話「まんじゅう怖い」
俺は門番!
ある日、いつものように門番をしていると目の前にまんじゅうを落とした人がいた。茶色い地面の中で輝くほどに白いまんじゅう。
あれは光華堂のまんじゅうだ。光華堂のまんじゅうは原料の大豆と小麦粉にこだわりにこだわったものを使っているので非常にうまいが高いとの評判だ。俺もいつか食べたいと思っていたが未だに食べたことがない。まさかこんな所でこんな形で巡り合うとは思わなかった。
「どうするかな……」
隣のじいさんは気づいていないようだ。というか寝てる? 身動き一つしていない。このじいさんは長年門番をしているだけあって目を閉じずに寝るという特殊能力を有している。他のやつの目は誤魔化せても相棒の俺の目は誤魔化せん。あれは確実に寝ている。断言できる。それに早くしないと三秒ルールから逸脱してしまう。
「よし」
おれは決心してまんじゅうを確保するために駆けた。距離は三メートル程、この距離ならじいさんに気づかれることがなく確保できる。
「いけるぞ」
後、もう少しというところで視界に犬の姿が映った。どうやら犬も俺のまんじゅうを狙っているようだ。
「甘いな。犬よ」
俺はノーモーションで手に持っていた邪魔な木の棒を犬に向かって投げた。綺麗な弧を描いて棒は犬を捉えようとしている。
「これでやつは終わりだ」
しかし、犬は見事なジャンプで棒を避けたのだ。俺が審判なら間違いなく技術点に満点を付けるだろう。それほど見事なジャンプだった。まさか、こんなところでものすごい犬に出会うとは思わなかった。
残すは俺の走力のみ、俺は更に加速してまんじゅうを目指した。
「はっ!」
間一髪の所で俺は犬よりも先にまんじゅうを手にした。最後のヘッドスライディングキャッチが勝因だと思う。
文字通り負け犬となった犬は恨めしそうにこちらを見つめながら去って行った。さらば負け犬。負け犬はゴミ箱でも漁っているのがお似合いだ。
俺は素早くまんじゅうを食べようと口の中にフェードインさせようとした。
「お主、地面に落ちたものは食べるものじゃないぞ。やめんか」
「あ……」
いつの間にか夢の世界から現実世界にログインしていたじいさんは俺の手からまんじゅうを取って前の川に投げやがった。それを負け犬となっていた犬が空中でキャッチしたのだ。犬はワンワンとうれしそうにどこかへと逃げていった。
「じじい。遂に俺の逆鱗触れたな!」
「それよりもお主、棒はどうしたんじゃ。あれを無くすと主人に怒られると思うんじゃが」
「やべえ。たぶん川の中だ」
俺は慌てて前の川にダイブした。後で主人にこっぴどく怒られたのは言うまでもない。
門番の一日は続く。