第2話「行く川の流れじいさん」
俺は門番!
今日も相棒の彦兵衛とお屋敷の門を守っている。基本的には何事も無いので暇だ。門の前から動くことはできないので俺はよく前の景色を見て楽しんでいる。
お屋敷の前には大きな川が流れている。俺は暇なときにはぼぉーとその川を眺めている。その川の向こう岸に毎日川を眺めているじいさんがいる。他の場所でもよくじいさんが川を見つめているのを見るが何か見えるのだろうか。世の中の無常を感じているのだろうか。そんな風にはとても見えないのだが。
じいさんは朝から日が暮れるまでそこにいて帰っていく。次の朝にはまた来て日暮れまでいる。雨の日でも雪の日でもじいさんはそこでじっと川を見つめている。川を見ているのがそんなに面白いのだろうか。
じいさんはなぜか川のぎりぎりの位置で川を見つめている。俺は今にも落ちるんじゃないかと最初は内心ひやひやしているが最近は慣れてきて毎日落ちろと念じている。
今日はじいさんに念ずることに一日かけることにした。
『じいさん落ちろ。じいさん落ちろ』
じいさんを落とすことに全精力をかける。まず目を瞑って十分に気力を溜め。それから目を開けてじいさんに送り出すように一心に念じる。当たり前だがじいさんはぴくりとも動かなかった。横の彦兵衛は怪訝な顔で俺を見ていたが俺が妙なことをしているのはいつものことなので特別突っ込んでは来なかった。
午後二時ごろ。さすがにそろそろ俺に疲れが見えてきた頃にじいさんの体が急にふらりと揺れると本当にじいさんが川に落ちた。
「ええ!」
じいさんは川に落ちてどこかに流されていった。まずいな。本当に落ちるとは思わなかった。
「おい。どうしたのじゃ」
「おい。今の見たか。じいさんが川に落ちた」
「じいさん? 何のことじゃ」
「悪い。ちょっと助けてくる」
「おい。どこに行く!」
俺はじいさんを助けるために駈けずり回った。しかし、じいさんを見つけることはできなかった。どこかに流されてしまったかもしれない。俺がじいさんに落ちろと念じなければよかった。じいさんには悪いことをした。せめて成仏してほしい。さすがの俺もその日は八時間くらいしか寝ることができなかった。
次の日、じいさんは普通にいつもの時間に川を見に来ていた。じいさんは生きていた。どうやって助かったのか。そもそもじいさんが落ちたのを見たことが見間違いだったのか。とにかくじいさんが助かってよかった。その日から俺はじいさんに落ちろと念ずることは止めることにした。
門番の一日は続く。
ご拝読ありがとうございます。
限られた制限の中でどこまで書けるかチャレンジして見たいと思います。よろしくお願いします。