第十六話「じじいの執念」
俺は門番!
いつも通り、暇なので片足立ちでどちらが耐えられるか勝負することにした。
「じじい。光華堂のまんじゅうをかけて勝負だ!」
「望むところじゃ。わしの下半身の強さを舐めるんじゃないぞ」
じじいは自信たっぷりに屈伸してみせた。その様子は○○歳とは思え無いほどのキレだった。
(かかった。俺は一年前のしりとりから片足立ちの練習をしていたんだ。どれほどこのじじいがアホなくらい足腰が強くても俺が負ける訳がない)
俺は心の中で勝利を確信して思わずニヤっとしてしまった。
「では。勝負だ。じじい。用意はいいか」
「いつでもいいぞ。小僧が」
「よーい。どん!」
それから二時間後。
さすがのじじいも苦しそうだ。顔を赤くして、膝をがくがくとさせている。口からは「ぷふー、ぷふー」と意味不明の声を出している。俺も一年間練習してなかったからやばかった。ちなみに俺は一日片足立ちでも楽勝だ。
「じじい、無理するな。足が笑っているぞ」
「ば。馬鹿な。何を言っておるんじゃ。ただの貧乏揺すりじゃ」
それから四時間後。日も傾こうとしている頃、じじいはまさに執念だけで立っていた。どうやってバランスを取っているか不思議なほどふらついていた。
「じじい。無理だろ。尋常でないほど揺れすぎだぞ」
「……。わしが右足を地面につけるときは死ぬ時じゃああああああああああああ!!」
そういったきりじじいが急に、ぴくりとも動かなくなった。目の焦点があっていないし、顔が真っ青だ。
(まさか、死んだんじゃ。俺は、片足立ちでじじいを殺してしまったのか)
俺は思わず、右足を下ろしてしまった。
「……。わしの勝ちじゃな」
「な!!」
俺がじじいに駆け寄ろうとしたらじじいがにやりと笑った。正直気持ち悪かった。まるで死体が動いたようだった。
「わしの死んだ振りに騙されおって。まんじゅうはわしのものじゃ。ガッハハハ」
「死んだ振りって、真に迫りすぎだろ!」
「もう少し、やっておったら死ぬところじゃったわ」
「……。俺の負けでいいです」
「やったぞ。まんじゅうはわしのものじゃ。ざまーみろぉ。小僧がぁ」
じじいは子供のようにはしゃいでいた。そんなにまんじゅうを食えるのがうれしいのだろうか。俺は無性にじじいを殴りたくして仕方がなかった。
PS、その後、じじいはまんじゅうを喉につまらせて死にそうになっていたのは秘密だ。
門番の一日は続く。