第13話「秋は欲望の季節」
俺は門番!
秋。それは悲しみの季節。山の緑も真っ赤に染まり、やがて冬の到来を待ちかねるように木々から枯葉が落ちる。もちろん俺たち門番にも秋はやってくる。
「ついにこの季節が来たのじゃな」
じじいがなぜかシリアスになっていた。遠い目をして前の川の水辺を見つめている。川の向こう岸では釣り人が竿を揺らしている。
「じじいどうした?」
「……いや。気にするでない」
黙りこむじじい。最近じじいの口数が少ない。いったいどうしたのだろうか。
「気になるだろうが。何だ。言ってみろ」
「そうじゃな。黙っている訳にはいかないじゃろうな。佐助よ……言っておかなかったがこの季節がわしら門番にとって一番きつい季節じゃ」
「なぜだ」
「今にわかる」
そう言うとまたじじいは黙ってしまった。俺はその後、何日も考え抜いたがじじいの真意が分からなかった。俺は気になって気になって夜寝られなくなった。
3日後、もう我慢ができなくなってじじいを問い詰めることにした。
「ヒントをくれ。頼む。このままだと寝不足で死んでしまう」
「仕方がないのう。そうじゃな。我々が欲望に耐え、門番を全うできるかがこの秋に試されるのじゃ」
「どういうことだ」
「今に分かる」
再びじじいは黙ってしまった。ヒントのようだが具体性が全く無いのでさっぱり分からなかった。俺はじじいを何度も問いただしたり、揺さぶったり、殴ったりしたりくすぐったりしたが一言も口を開こうとしなかった。
(欲望に耐えられるかだって。ふざけるな。欲望に耐えられるに決まっているだろうが。俺はそんなにやわではない。見ていろ)
しかし、いったいどういう意味だろうか。気になる。ものすごく気になる。雪子ちゃんがじじいの孫だという事実よりも気になる。
次の日、俺はもう一度じじいに問いただしてみた。
「じじい。いい加減に教えろよ。どういうことだ」
「すぐに分かる。今日くらいが……ああ。ついに来てしまったようじゃ。もうダメじゃ」
じじいは体をブルブルと震わせて座り込んだ。
「おい。じじい。どうした。じじい。じーじいーいー」
おや。なにやらウマそうな匂いが漂ってきた。これはサンマだ。ご主人が屋敷の中でサンマを焼いているのだ。とてもウマそうな匂いが漂って来て食欲を誘う。俺は思わず生唾を飲み込んだ。もしやこれがじじいが恐れていた事だろうか。
それから毎日のようにうまそうな匂いが漂ってくる。サンマ、松茸、焼き芋、焼肉。特にサンマ、サンマの2連チャンで来られるともうダメだ。俺を誘っているとしか思えない。じじいは体をフラフラとさせて何とか意識を保っているようだ。
「じじい。しっかりと意識を保て。別なことを考えろ」
「ダメじゃー。ご主人わしにも食べさてくれー」
「じじいー!! 行っては駄目だー」
さすがのじじいも誘惑には勝てなかったようでダッシュで屋敷の中にまで駆けこんで行った。じじいは欲望に負けたのだ。門番の職務を全うできなかったのだ。俺はこっそりとポケットに隠していた天津甘栗を頬張る。やはり秋と言えば栗だろう。あぶなかった。適度に栗を補給して置いて助かった。
しばらくじじいの給料がサンマになったのは言うまでもない。
門番の一日は続く。