第12話「会食会」
俺は門番!
今日はお屋敷で人を呼んで会食会があるようだ。先程から金持っていそうな偉そうな御仁が何人も門の前を通って行った。うまいものを食べられて羨ましい限りだ。
いい匂いが漂ってきてとても門番どころでは無い。
「この匂いは牛肉かな」
「この匂いはミノかな」
「この匂いは白金豚かな」
などと馬鹿なことをいいながら楽しんでいた。牛肉まで出るとはケチなご主人にしては珍しい。何かいいことでもあったのだろうか。あの馬鹿息子が九九の2の段を覚えられたのだろうか。
「じいさん。俺も食べられないだろうか」
「お主なんという顔をしておるんじゃ。食べられる訳がないじゃろ」
「じいさんは雪子ちゃんの弁当が食べられるからいいだろうが俺は昨日からワカメしか食べていないんだ。雪子ちゃん。俺にも弁当作ってくれないかな」
「お主分かっておるじゃろうな」
「はい。はい。分かっておりますよ」
「しかし、この匂いは耐えられないな」
「我慢じゃ。これも職務のうちじゃ。槍が振って来ようともこの場から離れてはダメじゃ」
「じ。じいさん。俺……ダメかも知れない……最後にミノが……食べたかった」
俺は空腹に負けて地面に座り込んだ。やはりワカメだけじゃパワーが出ない。やっぱり今日シイタケも食べておけばよかった。
「仕方がないの」
じいさんが何かを渡してくれた。干し芋だった。
「干し芋かよ。じいさん。こんな貧乏臭いもの食えるかよ」
「なんじゃとこれはじゃな。雪子が作ってくれたのじゃぞ」
「え! 雪子ちゃんが俺のために!」
「お主のためにじゃない」
「ありがとう。雪子ちゃん。君の愛を俺は噛み締めるよ」
俺は324秒かけて深々と干し芋を噛み締めた。さすが雪子ちゃんだ。見事な干し芋だ。俺の空腹は雪子ちゃんの愛で満たされた。
2分後。
「しかし、肉が食いたいな。やっぱり干し芋だけじゃ全然足りん」
「全くお主はしかたがないやつじゃ。分かった。わしがご主人に頼んできてやる」
「まじか。じいさんいつに無く優しいじゃないか。どうかしたのか。もしや昨日奥さんに離婚届を突きつけられたとか?」
「お主……。わしと家内は年中ラブラブじゃ。馬鹿なこと言っとらんで待っておれ」
「ありがとう。じいさん」
知りたくも無い情報を得てしまったがとにかくじいさんが主人に頼みに行ってくれた。たまにはじいさんも役に立つみたいだ。やはり老人は労ってやらないとな。
10分後、じいさんが来る気配はない。
「まったくじいさんのやつじらすな」
30分後、何だかじいさんの楽しげな声が聞こえるが気のせいだろうか。
「遅いな。じいさん。何やっているんだ」
1時間後。来ない。
「さすがに遅すぎるだろ。あのじじいが……は! もしや」
俺は妙な胸騒ぎを感じて屋敷の中に乗り込んだ。じいさんはご主人とミノを食べながら酒を飲んでいる。くそ。自分だけずるい。俺はじいさんに駆け寄って胸ぐらを掴んだ。
「じじい! 何自分だけいい思いしてやがる」
「な。何しおる。わしはご主人のご好意に甘えていただけじゃ」
「しかも。じじい。勤務中のくせに酒まで飲みやがって。我慢も職務のうちじゃないのか」
「わしはお主と違って日々のハードワークで疲れておるんじゃ」
「うるせえ! 俺にも食わせろ」
「や。止めんか。ご主人が見ておるじゃろうが」
「関係ねえ! 俺は食うぞ!」
じいさんのミノを奪ってバクバクを食って。飲んで。食って。飲んで。飲んで。飲んでを繰り返す。その時は気付かなかったがご主人の頭の血管は怒りで破裂していた。
「お前ら! またしても……。出て行け!」
「は! 申し訳ございません」
「は! 申し訳ございません」
ご主人に怒鳴られ、俺とじいさんは一目散に門番業務に戻った。おれはじいさんのせいで十分にごちそうが食べられなかった。腹いせにじいさんにエルボーを食らわせてやったのは言うまでもない。
門番の一日は続く。