第10話「夢でありますように」
俺は門番!
俺は気づくと芝生の上に変な手袋をつけて変な服を来て立っていた。背後には網に囲われた囲いがある。
「佐助! ボール行ったぞ」
「何!」
俺は思わず飛んでくる何かを掴んだ。見ると丸くて白と黒が交互に重なり何かの模様を作っている。初めて見るものだった。
「ナイスキャッチだ。佐助」
俺とは違うが似たような妙な服を着た男が俺の肩を叩いた。
「おい。貴様。なんだこれは」
「どうした? 佐助。さっきの接触で頭を打ったのか?」
「いや。大丈夫だ」
「なら。いいが頼むぞ」
「ああ」
その妙な服を着た男は前の方に走っていった。どうやら忙しいようだ。仕方が無いので俺の前でフラフラしながら立っているそこの暇そうな奴に聞くことにした。
「そこの二番。ちょっと聞きたいことがある」
「何だ。後にしろよ」
「これは何だ。俺はいったい何をやっているんだ」
その暇そうな男は俺に対してこいつ何言っちゃってるんだよという目をした。
「何だってサッカーだよ。それでお前はキーパーだ。どうした? 佐助。ボケるにはまだ早いんじゃないか」
「さっかー……。きーぱー。どういうことだ」
今まで聞いたことの無い言葉だ。蹴鞠の発展形みたいなものだろうか。生憎俺は蹴鞠の心得は無かったので聞くことにした。
「それで俺はどうすればいいんだ?」
「どうするってそこの網にボールを入れないようにするんだよ」
「つまり俺はそこの囲いの門番をすればいいのだな」
「ああ。まあ。そういうことになるな。おい。大丈夫かよ」
「俺は大丈夫だ。それよりも―」
「おい! 来たぞ。マークにつけ」
左の方にいた暇そうな人がこちらに向けて声をかけてきた。見ると前の方から大勢の人間がこちらに向かってくる。その中心には先程見た丸い白黒の物体がある。あれを入れさせ無ければいいんだな。たやすいことだ。
丸い白黒の物体がこちらに向けて放たれた。
「甘いな。丸見えだ」
俺は横に飛んで丸い白黒の物体を拳で弾いた。
「見たか。楽勝だ」
俺が横に飛んだ勢いで体勢を崩している所にその弾いたボールに向かってくる人間がいる。あのシルエットはまさか……。
「じじい!?」
じじいらしき人間は弾いたボールを頭で打って俺の守っている囲いに入れた。
「しまった」
「やったなのじゃー。皆の衆。わしはやったのじゃー」
じじいは喜びを全身で表現して踊り狂った。そこに人が殺到してじじいをもみくちゃにした。何故か妙に怒りが湧いてくる。じじいはそこから這い上がると俺の所にまで来てこう言った。
「お前は門番失格じゃ!」
その言葉が何度も俺の耳元で反響した。俺は叫びながらじじいに向かって突撃しようとしたが周りの暇そうな連中が俺を掴んで離そうとしない。頼むから一発だけ殴らせてくれ。
「じじいいいいいいいい!」
気がつくと俺はいつもの自分の部屋で寝ていた。異常な程の寝汗でどうやら周りのものを蹴り倒したらしく周りに色んなものが落ちている。
「痛たたた」
どうやら夢だったらしい。俺はライオンに尻を噛まれてしばらく家で静養しているのだ。全くじじいのやつは夢にまで出てきて邪魔をする。全く忌々しい。俺は再び寝ることにした。どうせならもっとましな夢をみたいものだ。
「じじいに打たれた!」
どうやらゆっくりとは眠れそうにないようだ。
門番の一日は続く