第28話 Clear
まずは、挨拶代わりの一撃。
「はぁッ!」
射程ギリギリに到達すると同時に、【飛燕翔閃】を放つ夜宵。
見た目は今までと何も変わらないが、威力は別次元。
何より、スノウの為にも勝つと言う、気持ちが乗っている。
当然、それが性能に影響を与えることはないが、彼女の戦意と集中力は過去最高になっていた。
そして遂に、ダークネス・デストロイヤーが動き出す。
飛来する真空刃に向かって左手を突き出し――受け止めた。
まさか素手で受け止めるとは思っていなかった夜宵たちだが、3人はすぐさまそうではないと見破る。
ダークネス・デストロイヤーの手のひらが赤く光っており、Gunちゃんとアンジェリカを仕留めた光線と同質の力を感じた。
それと同時に、次の展開を読む。
赤い光が強くなり、夜宵に向かって光線が放たれた。
視聴者たちは、画面の向こうで悲鳴を上げたが――
「それは、先ほど見ました」
Gunちゃんとアンジェリカの犠牲を無駄にしなかった夜宵は、紙一重で躱しながらカウンターの【絶影瞬駆】を発動。
相手は強固な耐久力を誇る、ダークネス・モンスター。
更に、【絶影瞬駆】の威力は決して高いとは言えない。
それにもかかわらず、彼女の一閃は目に見えてHPゲージを減らした。
これが、今の夜宵。
正真正銘、全ての力を曝け出した、完全無欠の状態だ。
とは言え、ダークネス・デストロイヤーが手強い相手なことに違いはない。
懐に入って来た夜宵に、ダークネス・デストロイヤーは、超速で戦斧を振り下ろす。
重装備とはとても思えない速さで、並のプレイヤーなら何が起きたかもわからなかっただろう。
しかし、欠片も油断していなかった夜宵は、軽くバックステップを踏むことでやり過ごした。
視聴者たちは見事な動きに歓声を上げていたが、実のところ彼女にとっては消極策。
願わくばカウンターを取りたかったが、流石の夜宵も初見では回避するしかない。
まだ情報が足りないと感じた彼女は、ここからはより一層注意が必要だと考えた。
場合によっては、ダークネス・パラティンのときのように、数時間でも付き合うつもりだったが、今の彼女は1人ではない。
「援護します」
ダークネス・デストロイヤーが、夜宵に攻撃した瞬間に背後を取ったseiが、怒涛の勢いで襲い掛かる。
通常攻撃を主体とした、いつでも回避に移れるタイプのコンビネーション。
このとき彼は、パーティにおける最高戦力を夜宵と定め、自分はサポートに徹する決意を固めていた。
その事実が悔しくないと言えば嘘になるが、seiにとって優先するべきはクエストのクリア。
目標達成の為なら、脇役に回ることに躊躇などない。
それでも『グラスフラム』が付与した燃焼は、地味ながら着実にダークネス・デストロイヤーを蝕んでいる。
そこに来て反転したダークネス・デストロイヤーは、大木を薙ぎ倒せそうな勢いで裏拳を繰り出した。
眼前に迫る暴力を目にしたseiは、自分から後方に倒れてバク転することで距離を取る。
危機を脱した彼は小さく息を吐き、再び攻勢に出ようとしたが――
「俺を忘れてない?」
全身からオーラを立ち昇らせたジンが、極太の【ライトニング・レーザー】を放った。
本来はあまり威力の出せないソーサラーも、やりようによっては充分に働ける。
夜宵とseiがダークネス・デストロイヤーを相手取っている間に、彼は【精神統一】を発動した。
僅か10秒とは言え、強大なダークネス・モンスターを前に無防備になるのは、相当なリスクだと言える。
だが、ジンはそれを実行に移し、見事に成し遂げた。
そんな彼に夜宵は苦笑を漏らし、seiは鼻を鳴らしている。
対するダークネス・デストロイヤーは戦斧を振り被り、ジンに向かって振り切った。
到底届く距離ではなかったが、戦斧の刃から赤い斬撃が飛来する。
はっきり言って、初見で避けるのはかなり難しい。
ところが、ジンと言うプレイヤーはそれを可能にした。
ニヤリと笑って【インスタント・テレポート】を発動した彼は、ダークネス・デストロイヤーの右側面に出現し、【エア・スラッシュ】を繰り出す。
ノンチャージだった為、ダメージはあまりない。
しかし、彼の狙いは別にあった。
「夜宵さん、sei、戦斧が部位破壊可能だ。 まずはそこを目指そう」
「はい……!」
「良いだろう」
【エア・スラッシュ】による範囲攻撃を行ったジンは、それによってどこにダメージが入っているかを確認した。
そのことを察した夜宵たちは即座に応じ、一瞬だけ視線を交わしてから同時に駆け出す。
夜宵が戦斧を狙い、seiは反対側から攻撃を仕掛けた。
現時点では、ダークネス・デストロイヤーが誰を狙うかわかっていなかったが――
「それで良い」
振り向いた相手は、sei。
左手を掲げたダークネス・デストロイヤーは、赤い光線を連射する。
連射を見るのは初めてだが、その程度のことはseiも頭の片隅に置いていた。
余裕はないまでも危なげなく全てを躱し、掠らせもしない。
その代わりに攻撃も出来ていないが、これも予定通りだった。
「やぁッ!」
seiへの攻撃をカウンターの材料とした夜宵が、【双刃疾風】を戦斧に連続で叩き込む。
真の実力を発揮した彼女の一撃は、戦斧の耐久力を大きく削った。
だが、それによって今度はターゲットが夜宵に移る。
真一文字に振り切られた戦斧を、夜宵はその場に伏せることで避けた。
ところがそこに、今度は蹴り上げが襲い掛かる。
微かに瞠目した夜宵は、左に地面を転がることで凌ぎ切り、すぐさま立ち上がって間合いを空けた。
大きく息をついた彼女の背中を、冷たい汗が伝い落ちる。
舐めていた訳ではないが、やはり油断は命取り。
多少好機があったとしても、控えめに動くくらいの方が良さそうだ。
戒めとして自分に言い聞かせた夜宵は、再度突撃しようとして――
「……ッ!」
ダークネス・デストロイヤーが踏み込む。
それまでは受け身だったが、ここに来て攻勢に出た。
その速度はダークネス・パラディンと遜色なく、普通に考えればピンチ。
しかし、夜宵の思考は違う。
「チャンスですね」
眦を決した彼女は全神経を集中させて、ダークネス・デストロイヤーを見据えた。
そんな彼女に構わず、ダークネス・デストロイヤーは戦斧を繰り出したが――
「ふッ……!」
カウンターの一閃。
アーツを使う余裕はなかったが、大きな損傷を戦斧に加える。
それでも、ダークネス・デストロイヤーが止まることはない。
何度も連続で戦斧を振り乱し、夜宵を攻め立てた。
そう、何度も、連続で。
つまり――
「はぁッ!」
夜宵が学習して行くと言うこと。
いつしか通常攻撃ではなく、【双刃疾風】によるカウンターを取り始めていた。
加速度的に耐久力を失う戦斧を見て、seiは感動すら覚えている。
これが、真のサムライ。
自身の理想すらも凌駕する夜宵の動きに、彼は思わず見入っていた。
だが――
「フォレスト・ドラゴン戦を忘れたかな?」
「……ッ! うるさい、黙れ」
「だったら働きなよ」
「言われるまでもない」
【ライトニング・レーザー】を撃ちながら、seiを冷ややかに窘めるジン。
それを受けたseiは胸を抉られる感覚を覚えながら、すぐさま行動に出る。
戦斧を狙い続ける夜宵の傍らで、ダークネス・デストロイヤー本体を斬り刻んだ。
ターゲットが夜宵から動くことはないと確信し、今まで以上にリスクを上げての火力重視。
【クアトロ・ディバイド】も使えそうなら積極的に使ったが、【アンフィニ・ストリーム】までは行かない。
何故なら、押しているように見えて、ダークネス・デストロイヤー本体のHPゲージは、まだ3割も削れていないからだ。
戦斧の破壊は間もなくだろうが、そこから何が始まるか未知数。
夜宵の学習が進んでいると言っても、今の攻撃パターンでの話。
変化が起きた場合に備えて、万全を期す必要がある。
その上でseiは可能な限り本体を攻撃し続け、とうとうそのときが訪れる。
夜宵の【双刃疾風】が戦斧を破壊し、部位破壊ボーナスとして本体にも大ダメージが入った。
それによってHPゲージは5割を下回り――
『オォォォォォッ!!!』
絶叫。
赤黒いオーラを立ち昇らせたダークネス・デストロイヤーが、その場で両手を組んで振り被り――
「……ッ! 逃げて下さい!」
爆発。
振り下ろされた両手が広場に叩き付けられ、夜宵たちの足元から赤黒い光が噴き上がった。
咄嗟に回避行動を取った3人だが、全てを避け切ることは出来ない。
直撃ではなかったので戦闘不能は免れたが、ジンとseiは残りHP6割、夜宵に至っては3割を切っている。
その事実も厳しいが、夜宵が何より悔やんでいるのは【神速への道】が途切れたこと。
致し方ない部分はあったとしても、絶対に当たるべきではなかった。
歯を食い縛った夜宵だが、深呼吸して落ち着きを取り戻す。
まだ負けた訳ではない。
ひとまず回復して、仕切り直せばチャンスはあるはずだ。
気持ちを切り替えた彼女は、貴重な回復薬を取り出して飲み干そうとしたが、このクエストは普通のクエストではない。
『ゴォォォォォッ!!!』
「な……!?」
回復薬を取り出した瞬間、ダークネス・デストロイヤーが咆哮を発して――砕け散る。
流石の夜宵も驚きを禁じ得なかったが、ジンは尚も冷静だった。
「どうやら復活だけじゃなくて、回復すら許してくれないようだね」
「……そのようですね」
「かなり厳しい状況だけど、向こうだって残り半分もない。 気合いで押し切ろう」
「ふん。 貴様の口から、気合いなどと言う言葉が出るとはな」
「何か変かな? 俺としては、ここまで来たら気持ちの勝負だと思ってるけど」
「……全否定はしない。 だが、がむしゃらに挑めば良いと言う問題でもないぞ?」
「わかっているさ。 夜宵さん、行ける?」
「……はい。 必ず勝たないと……」
凶暴性を増して夜宵たちを睨み付けている、ダークネス・デストロイヤー。
このとき彼女は、恐怖していた。
負けることが怖いのではない。
スノウの願いに応えられないことが、怖いのだ。
しかし、そう言った思考は人間のパフォーマンスを落とす。
超人的な能力を持つ夜宵も例外ではなく、いつもの実力が発揮出来る状態にない。
そのことに気付いたseiは何とかしたかったが、解決策を思い付けなかった。
そうして、絶体絶命なまま戦闘が再開されそうになり――
「良し、誰があいつからターゲットを取れるか勝負しようか」
「……へ?」
至極軽い口調で放たれた、ジンの提案。
それを聞いた夜宵は、反射的にダークネス・デストロイヤーから目を離して、彼の横顔をまじまじと見つめる。
危険極まりないが、彼女にとってはそれほど理解不能だった。
ところがジンは、ニコリと笑って続ける。
「前にアサルト・タイガー戦でもやっただろう? 結構楽しかったし、またやろうよ」
「こ、こんなときに何を言ってるんですか! 今はどうやって勝つか、それだけを考えて……」
「良いだろう」
「……!? seiさん……!?」
「夜宵さん、ターゲットを取るには、より多くのダメージを与える必要があります。 それはつまり、勝利に繋がるんです」
「そ、それはそうかもしれませんけど……。 ここは慎重に攻めて……」
「そんな余裕があるのかな? ゆっくりしてたら、あいつに飲み込まれちゃうと思うよ。 ここはリスクを承知で、突き進むべきだと思うけど?」
「ジンさん……。 ですが……」
「それに、そんなの楽しくないよ。 慎重になるのが悪いとは言わない。 でも今は、攻めた方が絶対楽しいよ」
「楽しい……」
ジンの提案を夜宵は受け入れ難いと思った。
だが、彼女の本来の目的は、ゲームを楽しむこと。
そしてスノウも、それは間違っていないと言ってくれた。
ならばどうする。
決まっている。
楽しんで、勝つ。
そうすれば、自分の望みもスノウの願いも叶えられる。
傲慢なのは百も承知。
それでも夜宵は、その道を選ぼうと決めた。
困ったように眉を落とした彼女はクスリと笑い、透き通った声で宣言する。
「わかりました。 勝たせてもらいますよ、ジンさん、seiさん」
「それでこそ、夜宵さんだ。 まぁ、勝つのは俺だけど」
「寝言は寝て言え。 夜宵さん、試合では負けましたけど、今回は譲りませんよ」
不敵な笑みを浮かべる、3人のプレイヤー。
改めて確認しておくが、これはゲームであって、言ってしまえばただの娯楽。
しかし、夜宵たちは紛れもなく真剣だ。
こう言ったメンタリティが、現実に影響を及ぼすこともあるかもしれない。
もっとも、今の彼女たちに、そのようなことは関係ないが。
楽しんで、楽しんで、楽しんで――勝つ。
そのことを胸に刻んだ夜宵は、数瞬瞑目し――
「行きますッ!」
走り出す。
ジンとseiも遅れず動き出し、それは敵も同様。
武器を失ったダークネス・デストロイヤーは徒手空拳だが、戦闘力はむしろ上がっていた。
動きの速度が増し、間断なく両手から光線を放つ。
更に、広場を踏み付けることで、夜宵たちの足元を爆発させた。
近付くことすらままならず、いつ被弾してもおかしくない。
そんな中でもジンとseiは果敢に挑み掛かり、隙を見付けては攻撃をヒットさせている。
ターゲット勝負に関しては今のところseiが優勢だが、本来のクラスではないにもかかわらず、ジンも大きくは劣っていない。
僅かに目線を交換した2人は笑みを湛え合い、より一層勢いを増して行った。
一方の夜宵は――
「……」
ひたすら、回避に専念している。
一切の攻撃をせず、ダークネス・デストロイヤーの動きにだけ注意を払っていた。
見ようによっては勝負を放棄しているが、ジンとseiはそうではないことを知っている。
内心で笑みを浮かべた2人は、彼女に負けじと自らの戦いを続けた。
すると暫くして、彼らの努力が実を結び、ダークネス・デストロイヤーのHPゲージが4割を切る。
そして、夜宵の戦いが始まった。
猛烈な勢いで光線を撃ち続ける、ダークネス・デストロイヤー。
そのうちの数本が夜宵に殺到し、彼女を仕留めようとする。
これに対して彼女は、これまでひたすら回避していた。
だが、ここからは違う。
躱して踏み込んで戦う――のではない。
では、どうするのかと言うと――
「やぁッ!」
刀を振り切る。
しかし、これは本来無意味。
魔法系攻撃を前に、サムライの攻撃など無力。
それが常識。
ただしそれは、夜宵以外の場合だ。
完璧なタイミングで全ての光線を捉えた刀が――反射。
綺麗に撃ち返され、ダークネス・デストロイヤーを貫く。
戦いが始まって最大のダメージを与え、HPゲージを大きく減らした。
これこそが、『鏡月』の潜在能力。
サムライにとって天敵とも言える、魔法系攻撃を跳ね返すことが出来るのだ。
とは言え、誰にでも出来ることではない。
むしろ、ほとんどのプレイヤーにとっては、宝の持ち腐れだろう。
だが、夜宵がこの刀を持つのは、まさに鬼に金棒だ。
事情を知っているジンとseiは笑みを深め、もう1段階ギアを上げる。
1発でも、まともに当たれば終わり。
そんな状況下でもゲームを楽しんでいる3人は、強大な力を持つダークネス・デストロイヤーを、徐々に追い詰めつつあった。
敵の攻撃に慣れて来るのは、夜宵だけではない。
ジンとseiも動きの質が上がっており、余裕すら出来始めている。
そうして、この戦いの結末が見えた――かに思えたが――
『グ……ルァァァァァッ!!!』
ダークネス・デストロイヤーも、ただでは終わらせない。
HPゲージが3割を切ると同時に、最後の変化を遂げた。
両手に加えて、全身から放たれる無数の光線。
更には、足元の爆発も頻発するようになっている。
あまりにも激しい攻撃を前に、夜宵ですらカウンターを取れない。
ジンとseiに至っては、回避するのが精一杯だ。
ここに来てseiは、川上が全員セイヴァーでなければクリア出来ないと言った意味を悟る。
確かに、攻撃と回復を同時に行えるセイヴァーなら、この猛攻にも耐えられるかもしれない。
いや、川上はそう言う設計にしたはずだ。
だからこそ、越えてみせる。
決意を新たにしたseiは、ジンに向かって声を投げた。
「ジン」
「何かな? 今、話してる余裕ないんだけど」
「夜宵さんを頼んだ」
「……何だって?」
「2度は言わん」
一方的に言い捨てたseiは、スキルを発動した。
【極限突破】及び【不屈の信念】。
彼が何を考えているか察したジンは、一瞬だけ止めようとしたが、敢えて見送る。
ジンが自分の意志を尊重してくれたことに、seiは薄っすらと笑みを浮かべ――
「行くぞッ!」
「seiさん……!?」
光線を全身で受けつつ、駆け抜ける。
夜宵の悲鳴が聞こえたが、無視した。
瞬く間にHPゲージが消え去ったが、どれだけのダメージを受けようが、この20秒間だけは彼が倒れることはない。
そして、それだけあれば充分。
「おぉぉぉッ!!!」
雄叫びを上げたseiが、4つの異なるアーツを連続で繋げる。
【クロス・ロザリオ】、【デュアル・ウェイブ】、【レイン・スパーダ】、【クアトロ・ディバイド】。
これによって、条件は整った。
『グラスフラム』を逆手に持ったseiは、柳眉を逆立てて――
「これが、僕の全力だッ!」
【アンフィニ・ストリーム】。
超速の12連斬がダークネス・デストロイヤーに叩き込まれ、HPゲージがガリガリと削れて行く。
しかし、倒すには至らない。
残りHPが2割を切ったところで、【アンフィニ・ストリーム】は止まった。
それとほぼ同時に、【不屈の信念】が終わる。
「く……」
「seiさん!」
至近距離で膨大な光線を浴びたseiは、そのまま戦闘不能になった。
その様を夜宵は、悲痛な面持ちで見つめたが――
「意識を逸らすな」
「……ッ! ジンさん……」
「残ってるのは、俺たちだけだ。 そして悔しいけど、勝てるとしたら夜宵さんの力に頼るしかない。 だから、キミは生き残らなければならない」
「……わかりました」
「有難う。 ……とは言ったものの、何か手はあるのかな?」
真面目だったジンが、急に苦笑交じりに問い掛ける。
それが自分を落ち着かせる為だと気付いた夜宵は、内心で感謝しつつ告げた。
「……1つ、考えがあります」
「そうなんだ。 じゃあ、それで行こう」
「えぇと……内容を聞かなくて良いんですか……? もしかしたら、とんでもない作戦かもしれませんよ……?」
「必要ないよ。 俺は、パートナーであるキミを信じてるから」
「……有難うございます」
優し気な笑みを浮かべたジンに、微笑を返した夜宵。
だが、次の瞬間には顔を引き締め、端的に言い放った。
「5秒……いえ、3秒、わたしを守って下さい」
「3秒? それで足りるの?」
「なんとかしてみせます」
「……わかった。 絶対に守るよ」
「……有難うございます」
ジンの返答を受けた夜宵は、頬が紅潮するのを感じた。
しかし、すぐに雑念を振り払って集中する。
尚も降り注ぐ、光線の雨。
夜宵には、もう掠ることすら許されない。
極限の集中力を発揮した2人は、なんとか合流することに成功した。
ところが、そのせいで攻撃が集中し、輪を掛けて回避が難しくなっている。
それでも彼女たちは必死にタイミングを窺い、そのときがやって来た。
「行きますッ!」
3。
殺到する光線。
「任されたよ!」
2。
ノンチャージの【ライトニング・レーザー】を連射して、辛うじて防ぎ切るジン。
「すぅ……」
1。
ジンを信じて呼吸を整え、【刀気解放】を発動する夜宵。
ここまでは順調だったが――
『ガァァァァァッ!!!』
まさかの新挙動。
ダークネス・デストロイヤーの瞳から、光線が射出された。
夜宵は思わず瞠目し、ジンは――
「目からビームは鉄板だよね」
読んでいた。
ニヤリと笑って【ライトニング・レーザー】を撃ち、完璧に相殺。
彼の実力の高さに夜宵は感心していたが、自身のやるべきことを果たす。
次の光線の予兆を察知した彼女は、タイミングを合わせ――
「はぁぁぁッ!!!」
【絶影瞬駆】を超える速度で接近した夜宵が、ダークネス・デストロイヤーを斬り裂いた。
ジンですら反応も出来ないスピードで、驚きのあまり硬直している。
ユニークアーツ、【一刀】。
【神速への道】の『最大』効果時間が300秒を超えたときに、発動可能。
デメリットは【神速への道】が解除されることと、発動後20秒間、攻撃力が99%減少すること。
効果は、対象への距離を刹那の間に詰めて斬る――ただそれだけ。
しかし、威力は対単体用アーツでトップ。
それでも、ダークネス・デストロイヤーのHPゲージを、削り切ることは出来ない――はずだったが――
『オォォォォォ……』
崩れ落ちて行く。
納刀した夜宵はその様子を、冷ややかに見下ろしていた。
普通に【一刀】を使っても倒せないと確信していた夜宵は、いくつかの手を尽くしたのだ。
まずは、【刀気解放】による火力アップ。
そして何より、【一刀】をカウンターで撃つと言う賭け。
彼女のカウンターの技術には、サムライと言うクラスを極めていることが大きく影響している。
ところが、【一刀】はユニークアーツ。
普段使うことのない彼女にとっては、かなりタイミングがシビアだった。
だが、その恩恵は途轍もない。
カウンターの通常バフに加えて、【見切りの極意】によるバフ。
【刀気解放】を含めたこれらが全て合わさって、ダークネス・デストロイヤーを仕留め切ったのだ。
そのことを漠然と理解したジンは、最早笑うしかない。
大きく深呼吸した夜宵は、スノウの【エーテル・ゲート】で晴れやかになった空を見上げた。
そして、ゆっくりとジンに振り返ると――
「良くやったわ、夜宵」
微笑を湛えたスノウに迎えられた。
彼女だけではない。
復活を遂げたGunちゃんとアンジェリカ、seiも一緒だ。
驚いた夜宵が目を丸くしていると、空間に現れたのは『Quest Clear』の文字。
それを見た彼女は涙ぐみ、スノウに駆け寄って抱き着いた。
そんな彼女をスノウは苦笑交じりに宥め、ジンたちは微笑ましく見守っている。
こうして、激戦を制した夜宵たちは、超高難易度クエストをクリアした。




