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ぼっちプレイヤーなわたしが最強な訳がないじゃないですか  作者: YY
第3章

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第22話 どんぐり

 現実世界で一夜が明けて、皐月が実家に帰るときがやって来た。

 駅まで見送りに来たのは、弥生だけではなく暁と白雪を加えた3人。

 例の如く周囲からの視線を集めたが、今の弥生に気にする余裕はなく、暁たちは最初からスルーしている。

 改札で皐月と向かい合った弥生の目には、涙が浮かんでいた。

 必死に泣くのを堪えようとしているようだが、どうしても止められない。

 そんな彼女を暁は苦笑気味に見つめ、白雪は密かにもらい泣きしそうになっている。

 それに対して皐月は――


「じゃあね、弥生。 戸締りには気を付けるのよ?」


 あっけらかんと告げて、身を翻そうとしていた。

 思わず呆然とした弥生は危うくそのまま見送りそうだったが、なんとか復活を遂げて言い募る。


「そ、それだけですか?」

「それだけって言われても。 あぁ、手洗いとうがいも必ずしなさいね。 風邪が流行ってるみたいだし」

「そ、そう言うことじゃなくて……もっと、こう……」

「あのねぇ、今生の別れじゃあるまいし。 またすぐに会えるじゃない。 しんみりする必要が、どこにあるって言うのよ?」

「そう、ですね……」


 皐月の言葉を受けて、弥生は寂しそうに俯いた。

 彼女とて、頭ではわかっている。

 20歳にもなって、母親離れ出来ていない自覚もあった。

 それゆえに、なんとか感情を押し殺していると――


「仕方のない子ね。 大きくなっても、甘えん坊のままなんだから」

「……! お母さん……」

「でも、弥生なら大丈夫よ。 友だちも出来たみたいだし、心配いらないわ」

「はい……」

「わたしだってそうよ。 実家の方には知り合いも多いし、上手くやって行けると思うわ。 だから、心配しないでね?」

「わかりました……」


 皐月にそっと抱き締められて、頭を撫でられる弥生。

 ますます通行人から注目され、中には何かの撮影と思っている者すらいた。

 しかし弥生は意に返さず、母親との触れ合いを大切にしている。

 自分も成長しなければならないが、今日だけは甘えさせて欲しい――そう思っていた。

 しばしの間、抱擁を続けていた天霧母娘は、どちらからともなく身を離す。

 弥生の目からは大粒の涙がこぼれ落ちており、困った笑みを浮かべた皐月がハンカチで拭った。

 それから暁と白雪に向き直り、深く頭を下げて願い出る。


「暁くん、白雪ちゃん、弥生をよろしくお願いします」

「はい、勿論です」

「お任せ下さい」

「……有難う」


 皐月の願いを暁は力強く受け取り、白雪もはっきりと返事した。

 2人の返事に満足した皐月は顔を上げ、微笑みながら礼を述べる。

 その後、改めて弥生に別れの挨拶と再会の約束をした皐月は、改札を通って行った。

 こちらを振り向くことはなかったが、弥生は落ち着いて母親の背中を見つめ続けている。

 尚、このとき皐月の瞳も潤んでいたのを、彼女たちが知ることはなかった。

 姿が見えなくなっても、暫く弥生はその場に留まっていたが、やがてゆっくりと振り返って声を発する。


「行きましょうか」

「……そうですね」


 寂しさを隠し切れないまでも、弥生の顔には微笑が浮かんでいる。

 その笑みがあまりにも魅力的で、暁は僅かに返事が遅れてしまった。

 白雪も他人事ではなく、一瞬見惚れてしまうほどである。

 彼らの反応に弥生は小首を傾げたが、取り敢えず話を進めた。


「これからどうしましょう? 真っ直ぐ帰っても良いんですけど……」

「折角ですし、寄り道して行きませんか? 白雪はどう思う?」

「わたしはどちらでも構いませんが、暁様と……弥生さんがそうしたいなら、お付き合いします」


 暁に話を振られた白雪は、即座に返事をしたが、弥生の名前を言うときに詰まってしまった。

 そして、それを見逃す暁ではない。

 ニヤリと笑みを浮かべた彼は、わざとらしく言葉を紡ぐ。


「それにしても、急に仲良くなったよね。 何かあったの?」

「……別に、何もありません。 そうですよね、弥生さん?」

「へ……!? あ……は、はい、ナニモアリマセンヨ?」


 白雪に視線で「話すな」と釘を刺された弥生は、わたわたと慌てながら乗っかった。

 残念ながら、演技力は壊滅的だったが。

 そのことに白雪は頭痛を堪えるように嘆息し、暁は苦笑しながら言い放つ。


「まぁ、女性同士の問題もあるでしょうし、深掘りはしません」

「あ、有難うございます」

「有難うってことは、やっぱり何かあったんですか?」

「え……!? あ、いえ、そう言うことでは……」

「冗談ですよ。 それより、どこに行きましょうか?」

「え、えぇと……も、もうすぐお昼ですし、まずはご飯にしませんか?」

「良いですね。 白雪も問題ないかな?」

「……はい」

「良し、じゃあ行こうか」


 暁にからかわれた弥生は大いに取り乱し、意味ありげな目を向けられた白雪は、澄まし顔ながら頬を朱に染めている。

 そんな少女たちを引き連れて、暁は上機嫌に歩き出した。

 ふざけた態度を取ってはいても、2人が仲良くなって嬉しいのは間違いない。

 まだまだ弥生と白雪の間には、ギクシャクした何かが残っている。

 しかし彼女たちは、それを少しずつ取り除こうとしていた。

 本当の意味で仲良くなるには時間が掛かるかもしれないが、それこそ時間の問題だろう。

 そうして3人は、適当な店で昼食を摂ったのだが――


「天霧さんと白雪のご飯の方が、美味しいですね」


 などと、歯に衣着せぬ感想を述べる暁。

 それを受けた弥生は赤面し、白雪は誇らしそうにしていた。

 何はともあれ食事を終えた3人は、今度こそ帰るかに思われたが、他人の動きに敏感な弥生が、あることに気付く。


「白雪さん、どうしたんですか?」

「……! いえ、何でもありません」

「あれは……カラオケ、ですか?」

「お気になさらず。 さぁ、行きましょう」


 白雪が眺めていた店がカラオケだと知って、少なからず驚く弥生。

 だが、本人が拒否している以上、ここまでだと思っていた。

 ところが、もう1人はそうではない。


「そう言えば、白雪は歌が上手かったね」

「え? そうなんですか?」

「はい。 賞を取ったこともあるんですよ」

「それは凄いですね……! 是非、聴いてみたいです……!」


 暁から情報を得た弥生は、目をキラキラとさせて白雪を見つめる。

 あまりにも純粋な瞳を前に、思わず身を仰け反らせた白雪は、次いで恨めしそうに暁を見た。

 もっとも、その程度で恐れ入るほど彼は可愛くない。

 いろいろと諦めた白雪は盛大に溜息をつき、ぶっきらぼうに告げる。


「1曲だけです……」

「はい、有難うございます……!」


 喜色満面な弥生は白雪を引き連れ、カラオケに向かった。

 置き去りにされた暁だが、文句を言わずにニヤニヤ笑いながらあとを追う。

 美男美女の集まりに受付を驚愕させつつ手続きを済ませ、指定された部屋へ。

 当然と言うのはどうかと思うが、弥生がカラオケに来るのは初めてだ。

 それゆえ、物珍しそうにキョロキョロしていたのだが、実のところ暁たちも同様。

 彼女のように落ち着きを失くすことはないが、心情的には大差ない。

 とは言え、経験はなくても知識はある。

 選曲の仕方を知っている暁は、率先してタッチパネルを取り出し、弥生たちに向かって言い放った。


「まずは俺が歌います。 まぁ、白雪の前座ですね」

「暁様……」

「そんな目で見ないでよ。 実際、上手いんだから」

「暁様も、充分以上に歌唱力が高いと思いますが」

「白雪ほどじゃないよ」

「謙遜です」

「じゃあ、どっちが上手いか天霧さんに判断してもらおうか?」

「え……?」

「望むところです」

「えぇ……!?」


 いきなり審査員を任された弥生は、急激に緊張感を高めた。

 そんな彼女に構わず暁は、少し考えてから選曲する。

 弥生は歌に詳しくないが、彼女でも知っているほどの有名曲。

 間もなくしてイントロが流れ、暁が歌い始めたのだが――


「わぁ……」


 自分でも気付かぬうちに、感動の声を漏らした弥生。

 それほど、暁の歌は見事だった。

 ちなみに、このとき彼女が抱いていた感情は、ジンがファッションコンテストでダンスを披露したときと酷似していたのだが、そのことには気付かない。

 約5分の、夢見心地な時間。

 あっと言う間の出来事で、聴き終えた弥生は興奮していた。


「凄いです、神崎さん……! こんなに上手だったんですね……!」

「有難うございます。 でも、白雪には劣りますよ」

「そうなんですか……!」


 暁の言葉を真に受けて、弥生は期待した眼差しを白雪に注ぐ。

 より一層ハードルを上げられた白雪は渋い顔をしつつ、ここまで来て逃げることは出来ない。

 タッチパネルを手に取った彼女はスムーズに曲を選び、マイクを握った。

 ワクワクが止まらない様子の弥生を一旦意識の外に締め出し、息を吸い込んだ白雪は――


「――」


 弥生を絶句させた。

 言葉が出て来ないほどの美声。

 知らない歌にもかかわらず、心に響くのを感じている。

 まるで時を止めたかのような弥生を見て、こっそりと笑みを浮かべた暁。

 厳密に言うと、2人の歌唱力に大差はない。

 だが、父親の英才教育によって技術だけを高められた暁に対して、白雪は本物だった。

 弥生が感じているのは、その部分かもしれない。

 やがて歌が終わっても、弥生は固まったままだったが、白雪が軽く咳払いしたことで動き出す。


「す……凄かったです、白雪さん……」

「……どうも」


 白雪の歌を称賛する言葉が見付からず、弥生は結局普通のことしか言えなかった。

 それでも気持ちは伝わっており、白雪は恥ずかしそうに目を背ける。

 そんな2人を微笑ましく思っていた暁だが、満を持して問を投げた。


「それで天霧さん、どちらが上手いと思いましたか?」

「へ……!? そ、それは、その……」

「遠慮しなくて良いんですよ?」

「うぅ……」

「……もう良いではないですか、暁様。 弥生さんが困っています」

「へぇ、白雪は天霧さんの味方をするんだ?」

「そう言う訳ではありませんが……」

「冗談だって。 すみません、天霧さん。 意地悪が過ぎましたね」

「い、いえ……。 で、ですが、お2人とも本当に上手で感動しました。 聴かせてくれて有難うございます」


 このとき弥生は、完全に気を緩めていた。

 暁たちの歌を聴いて、気持ちが浮付いていたのだろう。

 ところが、そうは問屋が卸さない。


「いえいえ。 では、次は天霧さんですね」

「あ、はい。 ……はい?」

「何を歌ってくれるんですか?」

「え、えぇと……わ、わたしはあまり歌を知らないので……」

「あまりと言うことは、少しは知ってるんですよね?」

「それは……まぁ……」

「でしたら、それで大丈夫です」

「あぅ……」


 絶体絶命の弥生。

 どうにも、今日の暁は押しが強い。

 白雪に助けを求めたものの、彼女は肩をすくめるのみだ。

 打つ手なしになった弥生は、おっかなびっくりタッチパネルを操作する。

 知っている曲がリストに入っていなければ、歌わなくて済むが――


「あ……」

「見付かりましたか?」

「は、はい……」

「良かったです。 では、よろしくお願いします」

「わ、わかりました……」


 全てを諦めた弥生は、緊張した面持ちでマイクを両手で持った。

 暁は心底楽しそうにしており、白雪もなんだかんだで興味深そうにしている。

 しかし、弥生の眼中には入っておらず、全身全霊で歌に挑み――


「どんぐりころころどんぶりこ~、おいけにはまってさあたいへん~」


 まさかの童謡。

 これには流石の暁も唖然とし、白雪も目を見開いている。

 だが、弥生は大真面目。

 残念ながら、お世辞にも上手いとは言えないが。

 ただし、気持ちはこもっている。

 そのことを感じた暁は心地良さそうに目を閉じ、白雪も穏やかな気持ちになっていた。

 そうして短い時間が過ぎ去り、歌い終わった弥生が真っ赤な顔で言葉を紡ぐ。


「お、お耳汚し、失礼しました……」

「とんでもないです。 最高でしたよ。 ねぇ、白雪?」

「はい、暁様。 技術の方はともかく、非常に良い歌でした」

「え……あ、有難うございます……」


 思わぬ評価に弥生は戸惑いつつ、悪い気はしていない。

 それから3人は退店時間まで、のんびりと雑談に興じた。

 中心になっているのは暁だが、弥生と白雪も違和感なく参加している。

 彼らの関係は、また少し育まれた。

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