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【完結済】ぼっちプレイヤーなわたしが最強な訳がないじゃないですか  作者: YY
第3章

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第19話 魔砲守護クエスト

 此度のエマージェンシークエストは、雷雲の下にある都市で行われる。

 ストーリー上ではガジェットがメインのエリアで、近未来的な建物が多く、今まさに敵に狙われている最中――住民は避難済みと言う設定――だ。

 地形は平坦なものの、ビルなどの遮蔽物が多く、見通しが悪いのが特徴的。

 フィールドの印象はそれくらいだが、途轍もなく存在感を放っているものが3つ。

 1つは、空に映し出された都市の全体マップ。

 これによって、敵の位置などを把握することが可能だ。

 もう1つは、夜宵たちの背後に鎮座する、巨大な砲台を持つ兵器。

 最後の1つは、その兵器が照準を合わせている、遠く離れた機械の巨人。

 プレイヤーが直接戦うことは出来ないが、ギガント・タイタンと言う呼称がある。

 そして、これらが今回のクエストの鍵だ。

 クエスト名は、魔砲守護クエスト。

 その名の通り、魔砲と呼ばれるこの兵器を、敵の軍勢から守り切るのが目標。

 最終的には、エネルギーがチャージされた魔砲の一撃によって、ギガント・タイタンを破壊することでクリアとなる。

 逆に言えば、プレイヤーが無傷だろうと、魔砲を破壊されてしまえばクエスト失敗。

 単純な戦闘力だけではなく、戦況を正確に把握する能力などが試される。

 性質上、いくら強くても通常は単独でのクリアは至難。

 夜宵であっても例外ではなく、辛うじてクリア出来る程度。

 ただし、ギリギリのクリアだとリザルト評価が低くなるので、ドロップアイテムは渋い物ばかりだった。

 もっとも、フルレイドでもクリアが困難なレベルなので、ソロで挑戦すること自体がおかしいのだが。

 話が少し逸れたが、要するにエマージェンシークエストの中でも、高難易度だと言うことだ。

 そんなクエストにたった5人で挑むと言うのに、誰1人として委縮している者はいない。

 夜宵に至っては、初めて複数人でこのクエストを受けられることに、ワクワクしてすらいる。

 すると、お気楽な彼女をよそに、真剣な面持ちのseiが鋭い声を発した。


「それぞれやり方はあるだろうが、今回は僕の指揮下に入って欲しい」

「あ? なんでだよ?」

「言っただろう。 キミたちの実力を知る為だ」

「その上から目線……気に入りませんわね。 何の権限があって、貴方に指図されなければならないのですか?」


 一方的なseiの物言いに、Gunちゃんとアンジェリカが不満を露にする。

 始まる前から険悪な雰囲気を醸し出す3人に、夜宵はどうしてものか迷ったが、今回だけはseiに味方することにした。


「Gunちゃんさん、アンジェリカさん、すみませんけどseiさんの言う通りにしてくれませんか? きっと、何か考えがあると思うので」

「夜宵ちゃん……。 仕方ねぇな、今回限りだぜ?」

「はぁ……夜宵さんにお願いされては、断れないではないですか。 言っておきますがseiさん、下手な指示を出したら承知しませんわよ?」

「感謝する。 夜宵さんも、有難うございます」


 渋々ながら承諾したGunちゃんとアンジェリカに、端的な礼を述べるsei。

 それでいて夜宵には満面の笑みを向けるのだから、わかり易いと言うか何と言うか。

 残念ながら、彼女には届いていないが。


「気にしないで下さい。 わたしは、ただ楽しく遊びたいだけなので。 スノウさんも、よろしくお願いしますね」

「わかっているわ。 seiに従うのは癪だけれど、こちらも試させてもらうから」

「望むところだ。 では、Gunちゃんは北西のタワー、アンジェリカは東の競技場に陣取ってくれ。 スノウはここで待機して、接近して来る敵を迎撃。 夜宵さんは、大型モンスターを中心に狙って下さい。 僕は遊撃として動く。 それから全員、クエスト中はパーティコンタクトを開いておいてくれ。 何かあれば、すぐに連絡する」

「わかりました」


 スラスラと紡がれたseiの指示に、返事をしたのは夜宵だけだった。

 Gunちゃんとアンジェリカは一瞬反論しかけつつ、大人しく受け入れたらしい。

 2人が魔砲から離れて、持ち場に着くのを見送りながら、夜宵は集中力を高めた。

 その背中をスノウは見守り、やがて開戦のときがやって来る。


『オォォォォォ』


 ギガント・タイタンが唸り声を上げると同時に、夥しい数の機械兵が都市を埋め尽くす。

 名前はマシン・トルーパーで、討伐推奨レベルは35。

 マシンガンで武装しており、遠距離攻撃が得意。

 見た目としては、ガジェットとモンスターが融合したような姿。

 若干ホラーな敵で、現実の弥生なら泣いてしまうほどかもしれないが、夜宵としての彼女なら問題ない。


「行きます」


 短く言い残した夜宵が、全速力で駆け出した。

 方角は北東。

 マップ上だとそこが大きく光っており、強敵が出現したことを示している。

 いつもなら、基本的には全ての敵を迎え撃っていた夜宵だが、スノウが控えている今、打って出ない理由はない。

 瞬く間に都市を駆け抜けた夜宵が目にしたのは、ビルを突き破りながら魔砲に向かっている、敵の兵器。

 取り巻きのマシン・トルーパーより3回りは大きく、左腕がマシンガンで右腕がドリル。

 討伐推奨レベル45の強敵、ドリル・ガンナー。

 離れれば銃、近付けばドリルで攻撃して来る、中々に厄介な相手だ。

 夜宵が目視すると同時に相手も気付いたようで、すかさず銃口を向けて来た。

 もっとも――


「ふッ……!」


 彼女の敵ではない。

 銃撃と同時に【絶影瞬駆】で接近しつつ、ドリル・ガンナーにカウンターで斬り掛かった彼女は、取り巻きを巻き込む形で【旋風裂陣】に繋げた。

 しかも、ただ闇雲に攻撃したのではない。

 接近した際に、マシン・トルーパーの1体が銃弾を放とうとした瞬間を狙ったことで、【旋風裂陣】のカウンターが成立している。

 それによって威力が上昇している訳だが、それでも彼女の装備では、取り巻きすら倒せないはずだったが――


「やっぱり、効果は強力ですね……」


 感心したように呟く夜宵。

 彼女の見る先では、ドリル・ガンナーを守るように囲っていたマシン・トルーパーたちが、塵となって消え去っていた。

 このようなことを可能にしたのは、ジンに相談した末に習得したスキルの恩恵である。

 【見切りの極意】。

 カウンターの威力が25%上昇する代わりに、被ダメージも25%上昇する、サムライ専用のパッシブスキル。

 まさに諸刃の剣で、下手をすればただ弱体化するだけだ。

 だが、ほぼ完全にカウンターを決められる夜宵が習得した場合、無類の強さが手に入る。

 自己評価の低い夜宵は習得を迷っていたが、ジンの言ったように、彼女の為にあるようなスキルと言っても過言ではない。

 何はともあれ、スキルの力を実感した夜宵は、気分が昂るのを止められなかった。

 あっと言う間に仲間を失ったドリル・ガンナーが、頭上からドリルを突き下ろす。

 しかし、夜宵にとってはカウンターの材料でしかなく、余裕をもって回避しつつ【双刃疾風】を繰り出した。

 超速の2連斬がドリル・ガンナーの右脚を斬り裂き、部位破壊する。

 バランスを崩したドリル・ガンナーは、なんとかドリルを地面に突き立てて支えとしたが――それまで。


「はぁッ……!」


 大きな隙を見逃すことなく、【双刃疾風】の連打を叩き込む夜宵。

 カウンターではない為、1発の威力は低いが、纏めれば充分な火力となる。

 全身を斬り刻まれたドリル・ガンナーは、成すすべなく虚空に溶けた。

 そうして、強敵と呼ばれるモンスターを瞬殺した彼女は、休むことなく次なる戦場に向かう。

 大型モンスターが主目的な夜宵だが、道すがら出くわしたマシン・トルーパーも処理して行った。

 これはスノウの負担を減らしつつ、カウンターを取ることでAPを回復することを目的としている。

 このように夜宵が怒涛の活躍を見せていた一方で、他のメンバーも自分たちの戦いを繰り広げていた。


「ちッ……seiの野郎、良い場所を知ってやがる。 普段通り動いても問題なかっただろうけどよ、次からもこっちを使うか……」


 ブツブツを呟きながら、ライフルを撃ち続けるGunちゃん。

 認めたくはないが、seiが指定したポイントはGunちゃんにとって最高のポジションだった。

 都市の構造上、どうしても遮蔽物が邪魔にはなるが、それが最小限で済んでいる。

 それだけではなく、魔砲に辿り着くには必ず通らなければならない道が狙い易く、非常に楽な戦いが出来ていた。

 とは言え、それは彼が凄腕のスナイパーだからこそ可能なのだが。

 それでも、スナイパーである自分が本職ではないseiに劣っているように感じて、プライドが刺激されたGunちゃん。

 だが、すぐに思考を切り替えて、魔砲に迫って来る敵を狙撃する。

 彼は短気な性格に思われることもあるが、実際は自分を律することの出来る大人だ。

 seiに教えられたとは言え、知った以上は最早自分の力。

 そう割り切って知識や能力を吸収出来るからこそ、今の地位にまで上り詰めたと言える。

 そして何より、Gunちゃんが強者だと言うことは紛れもない事実。


「おっと、来たか」


 それまでは、散発的にやって来るマシン・トルーパーを仕留める作業に終始していたが、ここからが彼の本当の仕事だ。

 速度はさほど速くないものの、上空を飛行する爆撃機。

 これはモンスターとは違い、ギミックの1種だ。

 通常、撃墜するには都市に点在する銃座を利用する必要があるが、スナイパーならその手間を省略出来る。

 もっとも、並のスナイパーでは攻撃が届くだけで、撃墜するまでに時間が掛かる為、銃座を使った方が速いケースも多いが――


「腕の見せどころだな!」


 『ブラックリベリオン』を力強く構え、Gunちゃんが爆撃機に狙いを定める。

 ガジェットなので口はないが、気持ちの上では1つ深呼吸し、引き金を引いた。

 放たれた【シャープ・ショット】は見事に爆撃機を捉え、たった1発で爆散させる。

 断っておくが、本来はこれほど容易に墜とせない。

 ところがGunちゃんは、爆撃機の弱点部位であるコアを精確に撃ち抜くことで、今のようなことを成し遂げた。

 この弱点部位は、地上からだと辛うじて目視出来る程度の大きさなので、狙って撃つなど普通は考えられないが、それを実行出来るのが『ロボ魂』のギルドリーダー。

 神業とすら言える技を披露していたGunちゃんの一方で、アンジェリカも負けていない。


「どうしてこの競技場を選んだのか不思議だったけど……そう言う魂胆だったのね」


 単独行動しているのを良いことに、素に戻ったアンジェリカ。

 彼女の視界に映るのは、広い競技場に雪崩れ込んで来たマシン・トルーパーの群れ。

 何度もこのクエストを受けているアンジェリカだが、このような展開になったのは初めてだ。

 では何故、今回はそうなったかと言えば――


「seiの奴、まるで牧羊犬ね。 上手く立ち回って雑魚どもをここに集めるなんて、やるじゃない」


 と言うことである。

 遊撃として戦場を駆け回っていたseiは、敵の思考パターンを利用して、アンジェリカの元にマシン・トルーパーたちを誘導していた。

 そのことを悟ったアンジェリカは、不敵に笑って『ケーリュケイオン』を構える。

 敵を集めることに成功したとは言え、それを処理出来るかどうかは別問題だが、こう言った場面は彼女の得意分野だ。


「吹き飛びなさい!」


 『ケーリュケイオン』を掲げて、声を発するアンジェリカ。

 それと同時にマシン・トルーパーたちが【クリムゾン・フレア】に飲み込まれ、跡形もなく蒸発する。

 【精神統一】が必要ないほど、圧倒的な殲滅力。

 ちなみに、開戦時から【ゲイン・フォース】は、継続的に使っている。

 何より脅威的なのは、『ケーリュケイオン』の能力によって、APが尽きないこと。

 事実上、この競技場にやって来たマシン・トルーパーは、漏れなくアンジェリカの餌食となる運命にある。

 現実の軍隊であれば、こう言った事態に陥った際は臨機応変に対応するのだろうが、所詮は決められた動きしか出来ないゲームのモンスター。

 滅ぶしかないにもかかわらず、次から次へと突入を繰り返していた。

 そんな敵を相手にすることに、アンジェリカは退屈している――かと言えば、そうとも言い切れない。

 そもそも彼女がセイジを好んで使っているのは、こうした大規模掃討戦を楽しむ為だからだ。

 作業的に戦うのが好きと言う訳ではないが、大勢の敵を一撃で消し飛ばすことに快感を覚えている。

 ある意味、ストレス解消のようなものかもしれない。

 また、少しばかりのバリエーションも加えていた。

 敢えて大量の敵を溜めてから【クリムゾン・フレア】で吹き飛ばすこともあれば、【フィアフル・サイクロン】で斬り刻むこともあるし、【アクア・ニードル】で蜂の巣にすることもある。

 更に――


「久しぶりに使おうかな!」


 アンジェリカがテンション高めに言い放った途端に、競技場の地面が割れてマシン・トルーパーたちが落ちて行った。

 そしてすぐさま元に戻ることで、噛み砕くように圧殺する。

 【グラン・ファング】。

 広大なフィールドでしか使えず、飛んでいる敵には効かないと言う欠点を持つが、ほとんどの敵を一撃必殺に出来るセイジのアーツ。

 流石に大型モンスターやボスモンスターには効果がないが、このような掃討戦ではかなり便利だ。

 汎用性では【クリムゾン・フレア】に劣るものの、攻撃範囲と発動までの時間、威力では【グラン・ファング】に軍配が上がる。

 こうしてアンジェリカが、様々なアーツを駆使して自身の役割を全うしていた頃、彼女は粛々と任務を遂行していた。


「温過ぎて欠伸が出るわね」


 新たにやって来たマシン・トルーパー5体を、ヘッドショット5発で始末するスノウ。

 魔砲へと通じる道は、全部で4つ。

 全て前方から向かって来るので、背後を気にする必要はない。

 通常なら数人を魔砲の護衛に残し、残りが戦場に出て行くと言うのがセオリー。

 それでも魔砲を無傷で守り切ることは難しく、残り耐久力が6割残っていれば上出来と言われていた。

 そんな中、現時点でこのパーティの損傷は――ゼロ。

 この話を聞けば、嘘だと疑うプレイヤーも多いだろう。

 だが、事実だ。

 元々はジンに会う為にNAOを始めたスノウは、どちらかと言うとさほど積極的ではない。

 金の暴力で装備を整えたのだから、尚のこと他のプレイヤーほど熱意はなかった。

 しかし、ジンや夜宵たちと遊ぶようになってから、その思いが少しずつ変化し始めている。

 特に夜宵の存在が大きく、彼女に負けないように強くなりたいと言う気持ちが、湧いて出て来た。

 その為にも下手な戦いは出来ないと考えていたスノウだが、始まってみると拍子抜けするほど余裕がある。

 夜宵が強敵をことごとく打ち倒し、Gunちゃんが遠距離からの狙撃とギミックの処理を担当し、アンジェリカが数え切れない敵を相手取っている現状、彼女がすることは少ない。

 たまに魔砲に辿り着いた者を、適当に処理するくらいだ。

 それゆえに、思わず気を緩めそうになったスノウだが――


「これは……」


 突如として赤くなった空を見て、気を引き締め直した。

 スノウとて、このクエストを受けるのは初めてではないが、見たことのない現象。

 こう言うとき彼女は、自身の無知を嘆く癖がある。

 確かに、装備や実力の割には、スノウの知識は多いとは言い難い。

 もっとも、それはあくまでも現在地。

 今後経験を積めば、必ず成長するだろう。

 それだけの能力があるのは、間違いない。

 そして、今の彼女には頼れる仲間がいる。


『スノウ、聞こえるか?』

「……! えぇ、聞こえるわ」


 パーティコンタクトを通じて聞こえたのは、seiの平坦な声。

 ところがスノウは、妙に自分が安心しているのを自覚した。

 そのことを不愉快に思いつつ、ひとまず話を進めるべくseiの言葉を待つ。

 するとseiは、淡々とに言葉を紡いだ。


『イレギュラートライアルだ。 これから魔砲の近くに、大量のマシン・トルーパーが転移して来る。 僕が戻るまで、持ちこたえろ』

「必要ないわ、わたしだけで充分よ」

『駄目だ、これはキミだけの戦いじゃない。 パーティで協力して勝利してこそ、意味がある』

『スノウさん、seiさんの言う通りです。 1人で背負おうとしないで下さい。 皆で頑張りましょう。 わたしも、チャンスがあれば引き返します』

「……貴女には、やるべきことがあるでしょう? こちらは、わたしとseiに任せなさい」

『スノウさん……。 はい、よろしくお願いします』


 控えめながら、スノウがseiの助力を受け入れたことに、夜宵は微笑を浮かべた。

 他方、seiも満足そうに頷いており、次なる指示を出す。


『Gunちゃん、アンジェリカ、応答しろ』

『相変わらず偉そうな野郎だな』

『まったくですわ。 それで、何ですか?』

『イレギュラートライアルの発生で、今のままでは厳しくなった。 Gunちゃんは、そこから北に200m行ったビルの上で待機して、爆撃機の撃墜に全力を注いでくれ。 かなりの数が攻めて来るはずだ。 アンジェリカはマップを見ながら動き、僕の代わりに今いるマシン・トルーパーの掃討を頼む。 【アクア・ニードル】を使えば、素早く行動出来るだろう』

『あん? なんでそんなことがわかるんだよ? イレギュラートライアルにも種類があって、爆撃機が出るとは限らねぇだろ?』

『いや、既に確定している。 あまり知られていないが、雲の模様によってパターンが決まっているからな』

『本当ですか……? わたくしは初耳ですが……』

『時間がない。 信じろ、アンジェリカ。 Gunちゃんもだ』


 seiのきっぱりとした言い様に、Gunちゃんとアンジェリカは沈黙した。

 信じろと言われても、すんなりとは信じられない。

 だが、それと同時に、seiがでたらめを言うとも思えなかった。

 そうして2人が、どうするべきか悩んでいた、そのとき――


『わたしは信じます』


 迷いなく宣言した夜宵。

 念の為に言っておくと、彼女にも確証がある訳ではない。

 ただ単に、seiと言う人物を信じようと決めたのみだ。

 夜宵の思いを察したGunちゃんたちは、揃って苦笑を漏らしてから言い放つ。


『良いぜ、乗ってやるよ』

『わたくしも、任されてあげますわ』

『助かる。 夜宵さんも、有難うございます』

『いえいえ。 それじゃあ……行きましょうか』

『おうよ!』

『やってやりますわ!』


 そうしてパーティは、それぞれの戦場へと駆け出す。

 一連のやり取りを聞いていたスノウは、作戦を立てたのはseiだが、実質的なリーダーは夜宵ではないかと感じていた。

 勿論、彼女に指揮能力などがあるとは思っていない。

 しかし、大袈裟に言えば人を導く力があるように思った。

 夜宵との接し方を見直したスノウは、そのことを素直に内心で称賛し、自分も負けないようにと奮い立つ。

 そのタイミングで前方に膨大な数の魔法陣が描かれ、中から同数のマシン・トルーパーが出現した。

 seiに言われていなかったら、スノウであっても取り乱したかもしれないが、準備万端な彼女は即座に行動に移る。


「ここは通さないわ……!」


 ゲームとは思えない真剣さで、敵と相対するスノウ。

 【ダンシング・シューター】を駆使して弾幕から逃れつつ、魔砲への接近を許さない。

 更に、遠くを通過しようとした個体には、【ディメンション・ファイア】をお見舞いする。

 先ほどまでとは一転して、一気に激戦地区と化した魔砲周辺。

 マシン・トルーパーたちは基本的に魔砲を目指しているが、プレイヤーが近くにいる場合はそちらを攻撃しがちだ。

 だからこそスノウは矢面に立ち続け、何度も銃弾が掠めるのに構わず戦い続ける。

 いくら【ダンシング・シューター】が攻防一体のアーツとは言え、これだけの数を相手にすればダメージは不可避。

 徐々にHPゲージが減って行き、スノウが倒れるかに思われたが、彼女には奥の手が残されていた。


「また、これに頼るなんてね……」


 悔しそうに呟きながら、銃口を自分の脚に当てて撃つ。

 それによって『ヴァイスシュヴァルツ』の能力が発動し、危険域にあったスノウのHPゲージが全回復した。

 クールタイムが60秒なので次は期待出来ないが、彼女が助かるには充分である。


「待たせたな」


 颯爽と現れたseiが、猛然とした勢いでマシン・トルーパーを駆逐し始めた。

 『グラスフラム』を振り乱し、両脚による蹴撃も交えて、あたかも極小の竜巻。

 マスターは集団戦を得意としないが、相変わらず見事な先読みを駆使する彼は、欠片も無駄なく敵を薙ぎ倒して行く。

 強力な援軍を得たスノウは思わずホッとしたが、そんな自分に喝を入れて戦いを再開させた。

 こうしてスノウは危機を脱し、seiの予言通り現れた爆撃機はGunちゃんが撃ち落とし、アンジェリカによって他のマシン・トルーパーは穿たれる。

 そして――


「最後ですね」


 クエストも大詰めになり、満を持して現れたのは、モビリティ・チャリオット。

 ラッシュクエストでスノウも戦った、討伐推奨レベル50の最強格。

 流石に単体で出て来るエマージェンシークエストのボスほどではないが、油断ならない相手なのは確か。

 ここまで数々の強敵を撃破して来た夜宵だが、その中でも群を抜いている。

 ところが、彼女の顔には僅かな恐れもなく、逆に何かを楽しみにしている節すらあった。

 重い機械音を奏でながら迫るモビリティ・チャリオットを前にしながら、マップを見て仲間たちが遠くにいることを確認した夜宵は、唐突にウィンドウを開く。

 戦闘中にすることではないが、彼女は躊躇なく指を走らせ、瞬く間に操作を終わらせると――見慣れない刀を握った。

 『防人の刀』とは明らかに異質な、尋常ならざる気配を撒き散らしている。

 こうして準備を整えた夜宵は――モビリティ・チャリオットを瞬殺した。

 その後は、多くを語るまでもない。

 イベントが進行して魔砲からレーザーが放たれ、ギガント・タイタンを撃破。

 言葉にするならこれだけ。

 ただし、VRならではの演出は一見の価値ありで、迫力は凄まじい。

 慣れている夜宵たちにとっては、クエスト終了の合図でしかないが。

 何はともあれ、彼女たちはほぼ無傷で魔砲を守り切った。

 『Quest Clear』の文字が空に大きく映り、雷雲の隙間から陽光が降り注ぎ始める。

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