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ぼっちプレイヤーなわたしが最強な訳がないじゃないですか  作者: YY
第3章

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第6話 祝勝会

 試合を終えた夜宵とseiは、寂れた食堂に来ていた。

 ここは彼が、ギルドシティで休憩するときなどに使う、お忍びの店である。

 合流したとき、夜宵はどう接するか少し迷っていたのだが、seiがあまりにも普段通りだった為、ホッとしていた。

 そうして2人は食事をする――予定だったのだが――


「それじゃあ、夜宵さんの勝利を祝して……乾杯!」

『乾杯!』


 乾杯の音頭を取ったジンに、アンジェリカとGunちゃんが続く。

 スノウは、軽くグラスを持ち上げるだけに留めていた。

 そんな彼らを夜宵はオロオロと見やり、seiは腕を組んで目を瞑り、不機嫌そうにしている。

 そう、夜宵たちが食事をすると知ったジンたちは、半ば強引に祝勝会に持ち込んでしまったのだ。

 夜宵は彼らの思いを有難く思う反面で、seiの気持ちを考えて、手放しで喜べずにいる。

 すると、彼女の様子に気付いたseiは1つ息をつき、優し気な笑みを浮かべて告げた。


「夜宵さん、僕のことは気にせず楽しんで下さい」

「そ、そう言われましても……」

「大丈夫ですよ。 僕はあの試合に満足しています。 だから、紛れもない勝者である貴女には、堂々としていて欲しいです」

「seiさん……」


 言い聞かせるように紡がれた、彼の言葉に偽りはない。

 そのことを察した夜宵が、控えめに首を縦に振っていると、ジンが心底楽しそうに口を開いた。


「ところで、見てよこれ。 本当に仕事が早いよね」

「これは……NAO通信ですね」

「その通りだよ、アンジェリカ。 さっきの試合に関する記事が、もうたくさん出てるんだ」

「マジか。 どれどれ?」


 ジンが表示したウィンドウに、アンジェリカとGunちゃん、更にはスノウまでもが食い付いた。

 夜宵はどうしたものか悩んだが、気にならないと言えば嘘になる。

 こっそりと後ろから覗き込むと、そこには――


「『無敗のsei、遂に敗れる! 新時代の幕開けか!?』……ですか」

「かなり煽っちゃいるが、実際にseiが負けたのは初めてだしな」

「そうは言っても際どい戦いだったし、まだたったの1敗よ。 新時代と言うには、早過ぎるんじゃないかしら」


 興味深そうに記事を読むアンジェリカとGunちゃん、スノウに対して、夜宵はseiの反応が心配になった。

 しかしそこに、ジンが悪ふざけのテンションで問い掛ける。


「こんなこと言われてるけど、当人としてはどうなの? やっぱり悔しいのかな?」


 ニヤニヤ笑っていることから、本気ではないのはわかるが、だとしても褒められた行為ではない。

 そう考えた夜宵は苦言を呈そうとしたが、その前にseiが返答した。


「ふん……良い傾向だな」


 強がりにも思えるseiの物言いに、アンジェリカとGunちゃんが思わず顔を見合わせる。

 夜宵も意外に感じていたのだが、ジンの反応は違った。

 今までの態度を翻した彼は、真剣な表情で問を投げる。


「これが狙いかい?」


 口調こそ軽かったものの、そこにはかなりの力が込められていた。

 それを悟った夜宵はビクッと震えたが、seiは平然と言い返す。


「貴様が何を言いたいか知らないが、僕は本気だった」

「……それは認めるよ」


 彼らが何の話をしているのかわからない夜宵は、戸惑った様子で2人を見比べていた。

 その後、しばし無言の時間が続いたが、突然seiが席を立って言い放つ。


「やはり、敗者はこの場に相応しくないな」

「え……!? そ、そんなこと、気にしないで下さい」

「良いんです、夜宵さん。 その代わりと言っては何ですが、また今度付き合ってもらえませんか?」

「……わかりました」

「有難うございます。 それと、僕の口から言うのもどうかと思いますが、おめでとうございます」

「えぇと……有難うございます」


 自分が負かせた相手から祝われて、夜宵は困惑しながらも礼を言った。

 そんな彼女に苦笑を見せたseiは、アンジェリカとGunちゃん、スノウを順に見渡してから、夜宵に目を戻して声を発する。


「もしかしたら、近々お願いすることがあるかもしれません」

「お願い、ですか……?」

「はい。 詳しいことは、また今度話します」

「わ、わかりました」

「では、今日は失礼します」

「……はい、お疲れ様でした」


 席を立ったseiを夜宵は引き止めたかったが、彼の意志が硬いのを感じて断念した。

 そうして、seiが去った店内に沈黙が落ちると、夜宵がジンに向き直って言葉を紡ぐ。

 その顔には、珍しく怒った表情が浮かんでいた。


「ジンさん、酷いです」

「夜宵さん……?」

「負けた人を、あんな風にからかったらいけません。 もしわたしがseiさんの立場なら、泣いちゃいます」

「……すみません」


 いつもと違った雰囲気の夜宵を前にして、ジンは大人しく謝罪する。

 アンジェリカとGunちゃんも悪ノリした自覚があるので、どことなく居心地が悪そうだ。

 スノウは反論しようとしていたものの、ジンに視線で制されて黙っている。

 店内の空気がより一層重くなったが、やがて溜息をついた夜宵が口端を開いた。


「ですが、祝ってくれたこと自体は嬉しいです。 有難うございます」

「……! 夜宵さん……」

「皆さんが良ければ、改めて楽しみませんか?」


 少し恥ずかしそうに笑いながら、問い掛ける夜宵。

 彼女が許してくれたことに安堵したジンは、微笑を浮かべてはっきりと答える。


「勿論です。 皆も良いよね?」

「おう!」

「当然ですわ」

「ジン様がよろしいのなら」


 ジンの呼び掛けにGunちゃんたちも賛同し、本当の意味で祝勝会が始まる。

 それまでの分を取り戻すかのように、楽しげな雰囲気で、夜宵も照れながら喜んでいた。

 たまにアンジェリカとGunちゃんが、他愛もないことで喧嘩していたが、ご愛敬と言ったところだろう。

 ちなみに、ガジェットであるGunちゃんには口がないが、システム上の処理で飲食が可能だ。

 話題はやはり試合内容で、主にアンジェリカとGunちゃんが中心となって、盛り上がっている。

 質問攻めに遭った夜宵は、たじたじになりながらも律儀に答え、スノウは密かに聞き耳を立てていた。

 すると、祝勝会も終わりが近付いて来た頃、何かを思い出したGunちゃんが、唐突に声を発する。


「そう言えばジン、seiに狙いがどうとか言ってたけどよ、あれは何のことだ?」


 Gunちゃんの言葉を聞いて、他のメンバーの注目もジンに集まる。

 対するジンはコーヒーを1口飲むと、僅かに間を取ってから語り始めた。


「これから話すことは、あくまでも想像でしかないけど、それでも良いかな?」


 前置きしたジンに、4人は無言で頷く。

 それを確認したジンは、考えを纏めるように少し時間を置いてから、淡々と言葉を連ねた。


「seiがセイヴァーを嫌ってるのは割と有名だけど、それと同時に何故かサムライに固執してる節がある」

「そうなのか?」

「知りませんでしたわ」


 初耳だったGunちゃんとアンジェリカは驚いたようだが、夜宵はサムライに不満があるかと聞かれたときのことを思い出して、内心で頷いていた。

 それからジンは、一瞬だけ夜宵に視線を向けて、続きの言葉を放つ。


「今回の試合は、夜宵さんと戦いたかったのも嘘じゃないだろうけど、サムライの強さを知らしめる狙いもあったんじゃないかと思ってるんだ」

「サムライの強さを知らしめる、ですか?」


 不思議そうに問い返すスノウを一瞥したジンは、無言でウィンドウを操作して、全員が見える位置に置く。

 そこには、またしてもNAO通信が表示されているが、内容は先ほどとは別だった。


「『検証! サムライは本当に不遇クラスなのか!?』……ですか」

「こっちは『サムライの秘められた能力!』……だってよ」


 アンジェリカとGunちゃんが取り上げた記事以外にも、サムライに関する記事が多数掲載されている。

 どうやら夜宵とseiの試合を観て、サムライに対するプレイヤーの認識が、変わりつつあるようだ。

 ジンが言ったことの意味がわかった夜宵は、seiがわざと負けたのではないかと思ったが、そうではない。


「でも、seiが手を抜いた様子はなかった。 もし全力じゃないなら、【アンフィニ・ストリーム】まで出さないだろうしね。 そもそも、八百長をするようなタイプじゃない」

「……そうですね」


 ジンの見解を聞いた夜宵は安心すると同時に、胸に痛みを感じた。

 そのことにスノウは気付いたが、理由がわからず怪訝そうにしている。

 そこにアンジェリカが、ジンの説明に一定の納得を見せつつも、疑問に思ったことを尋ねた。


「夜宵さんを見て、サムライの印象が変わるのは理解出来るのですが、seiさんとどのような関係があるのでしょうか?」

「それはわからない。 だからこそ、想像に過ぎないんだよ」

「なるほどですわ……」

「それに関しては、ここで考えても仕方ないと思ってるよ。 どちらにせよ、サムライの立ち位置が改善されるのは、悪いことじゃない。 夜宵さん、これで大手を振ってサムライを名乗れるね」

「はい……そうなると嬉しいですね」


 苦笑を浮かべて答える夜宵。

 ジンは半ば冗談で言ったが、実際にそうなる日が来るのも、時間の問題だと思っていた。

 少なくとも今回のことを機に、環境が動き出すのは間違いないだろう。

 ジンが今後のことに思いを馳せていると、NAO通信を眺めていたGunちゃんが、驚いたような感心したような声を上げた。


「おお、こりゃスゲェな」

「騒がしいですわね。 何ですの?」


 不愉快そうながらも、興味を隠し切れずにアンジェリカが問うと、Gunちゃんは無言でウィンドウを移動させた。

 アンジェリカは不審に思いながら、他のメンバーも疑問に思いつつ、表示された画面を見ると――


「これは良いね」

「えぇ、記事製作者はセンスがありますわね」

「良くありません……」


 楽しそうなジンとアンジェリカに比して、夜宵はがっくりと項垂れている。

 スノウは何も言わなかったが、ジッと記事を読み進めていた。

 そこに書かれていたのは――


「『新進気鋭の美少女サムライ! 夜宵の実態に迫る!』だってよ。 いやぁ、夜宵ちゃんも一気に有名人だな」

「言わないで下さい……」


 愉快そうに笑うGunちゃんを、夜宵は恨めしそうに見やった。

 この記事ではジンとのペアバトルに始まり、ベルベット戦とsei戦、更にはファッションコンテストで3位入賞を果たしたことまで書かれている。

 しかも、表面的なことではなく詳細も載っており、コンテストに至っては使用した衣装の種類まで網羅していた。

 写真も多数使われ、戦闘中の凛々しい姿から、コンテスト中の可愛らしい姿まで、抜かりはない。

 気が遠くなって来た夜宵に対して、ジンは苦笑しつつも声を掛ける。


「でもGunちゃんの言う通り、これで今度こそ正真正銘、夜宵さんも有名人の仲間入りだね」

「ど、どうしたら良いんでしょう……?」

「どうもこうも、普通にしてたら良いんだよ」

「普通と言われましても……」


 ジンはあっけらかんと言うが、夜宵は不安で仕方なかった。

 そのとき――


「あら……?」


 夜宵の眼前に、ウィンドウが表示される。

 それがコンタクトだとわかった彼女が相手を確認すると、プラムだった。

 どうするべきか迷った夜宵だが、4人に断りを入れて応答する。

 その瞬間――


『夜宵さんッ! おめでとうございますッ!』


 物凄い勢いで祝福された夜宵は、思わず身を引いた。

 しかし、すぐに立ち直ると体勢を戻して、苦笑しながら礼を述べる。


「あ、有難うございます」

『いやぁ、さっき記事で知ったんですけど、本当に凄いです! 流石は夜宵さんです!』

「えぇと……こ、今回は運が良かったので……」

『またまたー、謙遜しないで下さいよ! そうだ! 今から一緒に写真を撮りませんか!?』

「え、今からですか?」

『はい! あ、もしかして忙しいですか……?』


 祝勝会中と言うこともあり、夜宵は断ろうかと思ったが、結局突っ撥ねることは出来ない。


「その……もう少ししたら手が空くと思うので、また連絡しても良いですか?」

『本当ですか!? わかりました、待ってますね!』

「は、はい。 では、またあとでです」

『はーい!』


 コンタクトを切る間際まで元気いっぱいだったプラムに、再び苦笑する夜宵。

 しかしすぐに意識を切り替えると、こちらの様子を窺っていたジンたちに事情を説明する。

 それを聞いた彼らは、快く受け入れた。


「じゃあ今日は、そろそろお開きにしようか」

「すみません、折角集まってくれたのに……」

「気にすんなよ、夜宵ちゃん! またいつでも会えるからよ!」

「そうですわ。 夜宵さんもスノウさんも、うちのギルドに入れば毎日でも会えますわよ?」

「そ、その……やっぱりギルドは今は良いかなと思ってまして……」

「わたしの答えは変わらないわ」


 どさくさに紛れて、アンジェリカはギルドに勧誘したが、2人のガードは固い。

 そのことを彼女が残念に思っていると、Gunちゃんがこれ見よがしに鼻で笑う。


「はん。 この2人が、テメェなんかのとこに入る訳ねぇだろうが」

「うるさいですわね。 鉄くずの集まりよりは、可能性があるでしょう?」

「誰が鉄くずだ!?」

「貴方たちですわ!」


 ギャアギャアと喚き合う2人を、夜宵はどう宥めれば良いかわからなかったが、スノウの対処は早い。


「時間の無駄だから、喧嘩するならあとにして」

『……すみません』


 冷水を浴びせられたアンジェリカとGunちゃんは、途端に大人しくなった。

 見事な手際(?)に夜宵は小さく拍手し、ジンは苦笑してから改めて解散を告げる。


「じゃあ、またね。 アンジェリカ、Gunちゃん、ほどほどにしなよ」

「うるせぇよ。 またな」

「まったく、不覚ですわ……。 失礼します」

「き、今日は有難うございました。 お疲れ様です」


 別れを述べた夜宵は、4人を見送ってからウィンドウを開く。

 すると、メッセージが届いている通知があり、驚いて僅かに目を丸くした。

 これはコンタクトとは違い、文章のみを送る機能である。

 相手のプレイヤーIDがわかれば、誰にでも送ることが可能だ。

 今まで送られたことのない夜宵が、緊張しながら開くと、ネーレとScarletからの祝福メッセージが記されている。

 ネーレは彼女らしく丁寧な文面で、Scarletは対照的に、「やるじゃねーか」の一言のみ。

 そのことに苦笑した夜宵だが、誰かに何かを祝われるなど、家族以外にはほとんど経験がなかったので、今更になって感動している。

 ひとしきり感動を噛み締めた彼女は、それぞれに返信を送ってから、プラムにコンタクトを取った。


『はい!』


 数コールもしないうちに応答されて、またしても驚く夜宵。

 だが、意識を切り替えて言葉を紡ぐ。


「お、お待たせしました」

『全然待ってませんよ!』

「そう言ってもらえると助かります。 それで、どこで撮りますか?」

『夜宵さんとならどこでも良いんですけど、今回は撮影スタジオを使おうと思ってます!』

「撮影スタジオですか……」


 撮影スタジオとは、その名の通り、撮影をする為の施設だ。

 様々な空間を設定出来るので、凝った写真を撮りたいプレイヤーに利用される。

 存在は知っていたが利用したことのない夜宵は、興味深そうだった。

 彼女の心情を察したプラムは、勢い込んで言い放つ。


『取り敢えず、ヒューマンタウンの噴水広場で合流しましょう! それから撮影スタジオに飛びます!』

「わかりました、今から行きますね」

『はい! 楽しみです!』

「わたしも、楽しみにしてます」


 そう言ってコンタクトを切った夜宵は、少しウキウキした様子でポータル端末に向かった。

 このときの彼女は本当に楽しそうで、気軽に写真撮影に臨むつもりだったのだが――思わぬ形で、NAOの闇を知る切っ掛けとなる。

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